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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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ミッションの計画

夢の中で、ナナは現実リアルへ飛ぶことを計画します。

2020.2.17 一部、書き変えました。

 環境保護局は、行き詰まっていた。


 保護対象生物の情報を収集するミッションが失敗続きだからだ。


 保護対象生物の存在は、周知の事実だ。


 特に山岳地帯の飛行タイプと琵琶湖周辺の歩行タイプが有名で、酸素不足のご時世に、酸素を作り出す貴重な生物として保護されていた。

 だが、気性が激しいことから、家畜化する方法が模索され、環境保護局が情報収集のミッションを行ったのだ。


 前任の局長が指揮した都合三回のミッションは、名古屋やブラックボックス地域で失敗し、多くの若い命を散らした。


 ここに至って、環境保護局は、このまま漫然と計画を進めのは愚策だとの考えるようになった。

 そこで、前回までとは全く異なる手法をとることを決断した。

 

 それが、エリートでも何でもない私の登用だっだ。

 

 

 私は、単なる法経職試験の受験生で、合格者でもなく、エリートでも何でもない。

 ただ、私には、時間を旅する能力ギフティッドがあった。


 環境保護局のお偉いさんは、私に何度も何度もやり直しをしながら、旅を続けるよう命じた。

 そのために、こんな小娘を環境保護局長に任命したのだ。

 名前だけだけど……。



 無茶だっ!!!!



 思いっきり拒んでも、法経職試験の受験資格を盾に、というか、合格したことにするからと、無茶振りをされた。

 海千山千のおっさん、おばさんと、舌戦を交えるも、小娘に勝てるわけもない。

 結局、引き受けざるをえなくなって、第4回のミッションに放り込まれた。


 

 

  

 第三回までのミッションを研究した私は、噂に聞くブラックボックス地域のデータを調べ、そこに人為的な何かを感じた。


 どうして、この地域は、城塞都市でもないのに、酸素製造装置も存在しないのに、人類適応能力範囲内なのだろう?

 多分、保護対象生物がいるからだろう。

 逆に言えば、どうしてここにだけ保護対象生物がいて、人類の生存に適した地域になったのだろう?


 いずれにしろ、ミッションを継続すれば、若者の犠牲が増える。

 酸素を渇望する政府の保護対象生物家畜化の願望は、若者の犠牲を厭わないところまで来ていた。




 第三回のミッションが失敗したので、局長が更迭され、私が局長ということになっていた。



 向こうは名前だけのつもりだったのだろうけど、私は環境保護局の長として、若者の犠牲を避けたいと思った。

 だって、私も若者なんだもの。

 

 政府の求める保護対象生物家畜化の理想は理解できる。

 ただ、得られるものに対し、払う犠牲が大きすぎるのだ。そういう意味で、環境保護局の考え方には賛同できた。


 

 環境保護局のお偉いさんが考えた作戦は、今度こそ成功すると思われた。

 第4回のミッションと並行して、私が裏ミッション(私自身を神崎博士が金沢から隠れ里へ移住した頃に送り、そこで情報収集し、その情報に基づいてミッションに参加する)を実施するという方法だ。


 私は、神崎博士が金沢にいた頃の学生となって三年かけて情報を収集することになった。

 

 


 だが、事前調査を重ねるにつれ、政府のやり方に不審なものを感じた。

 

 当局は、テロリストによってミッションが妨害されるとプロパガンダするが、人類にとって害となるのは、むしろ東京に住んでいる人々の方じゃないだろうか、という疑問が湧いたのだ。

 


 東京以外の地域には、政府の力が及ばない。

 それは、酸素が少なく住む人がいないからだ。

 住む人がいなければ、公権力の及びようがない。

 

 ブラックボックス地域には酸素があって、集落には人々が住んでいる。

 それなのに公権力が及ばない。

 この国にあって、この国ではない。あたかも、国の中に別の国が存在するかのようだ。


 ブラックボックス地域に生息する保護対象生物を家畜化すれば、他の人々の移住が促進し、あの地域に公権力が及ぶようになる。

 

 政府にとって望ましいことだ。


 でも、現在の住民にとっては、どうだろう?


 あそこが、人類適応能力範囲内なのは、あそこに住んでいる人々が努力して作り上げた結果なのではないのだろうか?



 第四回の裏ミッションを実施するため私が過去に飛ぶ少し前、ミッション参加者の研修用データを収集するため、ブラックボックス地域へ出かけた。

  

 事前に一度、見ておきたいと思ったからだ。


 

 その時、ブラックボックス地域に入ったところで、老人が接触して来た。

 当局が気付かないよう細心の注意を払いながらの接触だった。

 

 神崎博士のグループの子孫だという老人は、驚くような話をした。


「神崎博士が移住した数年後、食料を巡って内戦状態になりました。

 それは、ご存じのとおりです。


 その際、博士のグループも巻き込まれました。豊かな食料を持っている集団です。

 格好の標的となったのです。


 博士のグループは、結界システムを採用していました。

 それは、その地域へ入ると、ナビも通信機も使えないというシステムです。

 空からも地上からも探せない。そういう閉鎖した地域にしたのです。


 それが、現在のブラックボックス地域の原型です。


 つまり、そんなシステムを使わなければならないほど、博士たちの住む場所は、人々が羨望するものだったのです。

 

 当初、白山麓の隠れ里だけブラックボックス化されていたのですが、保護対象生物が創造されると、あれらの生育する地域も同じようにブラックボックス化する必要が生じました。


 琵琶湖周辺をブラックボックス化したのは、そのためです。

 でも、琵琶湖周辺という広大な土地は単にブラックボックス化しただけでは守りきれません。


 保護対象生物をあんな怪獣にしたのは、他の人々が入り込めないようにするためです。


 赤い個体なんか、妨害工作のためにあえて創ったという話です。

 その方が、被害が大きくなるからです。


 赤い個体のおかげで、保護対象生物同士のバトルが頻発し、いくら酸素が豊かでもブラックボックス地域で生活しようという欲深い人が入り込まなくなったという話です」

 



 私は、環境保護局の懸案である保護対象生物が、神崎博士のグループが自分たちを守るために創ったという常識っぱずれの話に唖然とした。


 

 話に付いていけなくて、呆然としていると、老人は、とてつもなく非常識な話を持ち出した。


 

 もうこんなミッションを止めなさい、と諭すのじゃなく、無茶苦茶な提案をしたのだ。




「次にミッションを計画するときは、できるだけたくさんの若者を巻き込んでください」

「どういう意味ですか?

 失敗すれば死ぬんですよ」

「そのままの意味です。

 ミッションを実行されるたら、我々は、参加者をこちら側に取り込ませていただくことにしました」

「取り込むって?」

「このまま当局の思いどおり保護対象生物を家畜化すると、我々の利益に反しますので、我々としては、全力で妨害させていただきます。

 でも、若い命を奪うのも忍びないですし、もし、我々の考えに賛同してくれる者がいれば、地域に新しい血が入ることになります。

 そうすれば、両者の利益が一致することになります。


 如何でしょう?」


 

 勝手なことをほざくんじゃない!!



 

 でも、この人の提案は、今後ミッションに巻き込まれる若者たちにとって救いとなることに気が付いた。



 当局は、何が何でも保護対象生物の家畜化を目指すはずだ。

 


 だが、そうなれば、若者たちは救援隊も見放すミッションを強いられることになる。



 名古屋までで事故るのは、まだ良い。

 名古屋から先、ブラックボックス地域で事故ったら、命を落とすか、怪我をするか、いずれかにしても助けは来ないのだ。


 他方、ブラックボックス地域の住民にとっては、酸素も植物も豊かな土地が当局の支配下に置かれることになれば、これまでの苦労が報われない。

 下手すると、不法占拠として、取り上げられかねない。

 でも、そもそも酸素が少なく放置されていた場所を改良して20年以上経っているのだ。

 取得時効が成立しているはずだ。




 ミッションを計画して保護対象生物の家畜化を推進する。

 そして、保護対象生物の作った酸素を利用して移民を促し、結果、酸素濃度が人類に適合した土地を手に入れるのだ。



 人々の無知を利用した汚いやり方だ。


 当局は、自分の手を汚さずに、家畜化された保護対象生物と琵琶湖周辺の豊かな土地を手に入れることができるのだ。


 これまでの調査で得られた資料から、この話がでっち上げなんかじゃなく、むしろ、当局サイドのプロパガンダこそでっち上げだと確信した。


 

 無謀なミッションを繰り返す当局から一人でも多くの若者を救いたい。


 だが、どうやって?


 私は、環境保護局長としての第四回ミッションを実施しなければならない立場にある。

 ブラックボックス地域の住民サイドと組んだことがばれれば、せっかくの提案も無に帰してしまう。 


 しかも、第四回が失敗しても次が計画されるだろう。計画全体を今回限りとするには、それ相当の絵を描かなければならない。


 それには、どうすれば良いのだろう?




「あなたは、どうすれば良いとお考えですか?」

 



ミッションに死傷者が多いのは、意図されたものだったのです。


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