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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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ブラックボックス地域へ着く

とうとうブラックボックス地域へ着きます。

「きゃーっ」


 私が叫ぶと、レオが急ブレーキを踏んで、一同、つんのめった。

 シートベルトの存在を心底ありがたいと思った瞬間だ。


「何よお、いい加減にしてよ!まったく、こっちは集中してるってのに」

 マリアが怒鳴った。


「だって、見てよ。着いてる。私たち着いたんだ」

 必死で計器を指さす。


「着いてるって、どういう意味だ?」

 ナギが面倒くさそうに計器を見る。

 見て真っ青になり、次の瞬間、真っ赤になった。まるで信号みたいだ。


「グ、グ、グリーン、ゾーンだ!」

 やっとのことで、言葉を発する。



 酸素濃度計測機のメーターが人類適応能力範囲内を示していた。


 一同、マジマジとメーターを見つめた。


 妙に息苦しい。

 人は興奮しすぎると、息ができなくなるらしい。



 車の酸素が少なくなったってか?

 まさか。



 

 宿泊場所を見つけて、野宿する。

 

 思ったより、簡単にたどり着けたことに不安を感じた。


 金沢からこっち、一回しかやり直してない。


 ホシヨミの事故以来、やり直しはないのだ。

 こんな簡単なはずがない。


 何か大事なことを忘れているんじゃないだろうか?

 

 でも、酸素が多い場所だから、たき火もできるし、車の外で寝ることもできる。

 窮屈な思いをしなくて良いのだ。


 それだけは、救いだった。


 水と食料を探さなければ。


 食料は、二日分残っている。

 でも、もし、ここに食べ物があるなら、できるだけ採取しよう。帰り道の糧食にできるのだ。


 もしかして、東京へ帰れるかもしれない。


 帰ることを半ば諦めていたメンバーにとって、東京へ帰れるかもしれないという希望は、あまりにも魅力的だった。


 ナギの指揮のもと、一同、薪を探した。

 明かりも必要だし、夜は冷える。

 とりあえず、最優先に必要なのは薪なのだ。


 早くしないと、日が暮れる。暮れてしまえば、薪を探すことができないのだ。


 日が暮れると、たき火を囲んで食事をした。

 携帯用の不味いヤツだ。

 これも残りは二日分しかない。そう思うと、この不味ささえ愛おしい。


 人間の感情って面白いものだ。


 マリアとナギの間に恋が芽生えたのだろうか。親密に語り合っている。


 マリアなんか、もし、そこにホテルがあるなら、是非ともご一緒したい、とボディーランゲージで訴えていた。


 よくやるよ。


 以前読んだ小説に『吊り橋理論』ってのがあったのを思い出した。

 吊り橋を渡るような緊張を強いられる状況に置かれた男女は、吊り橋による緊張感を恋愛だと錯覚するという。

 確か、そういう理論だ。


 マリアとナギもそれだろう。


 レオ、気にしなくて良いよ。

 あの二人、吊り橋理論で盛り上がっているだけだから。東京へ戻ったら冷めてるって。



 レオは、ここに来るまで、私の言うとおり動いてくれた。

 ウチのチームで、最大の協力者だ。

 ナギとマリアのことで面白くないだろうに、それでも私を助けてくれる。


 これからも、よろしく頼むよ、レオ。

 



 五十人でスタートしたミッションは、六人しか残っていない。


 みんな、無口になった。


 マリアの美しい顔が炎に照らされて、赤く輝く。

 神話に出てくる女神様みたいにきれいだ。



 



 仲間。


 私たちは、神崎博士の足跡をたどって、保護対象生物の情報と改良型保護対象生物の卵若しくは遺伝子を探さなければならない。


 これは、そういうミッションだ。


 ぼんやりしてたら、レオとナギが話すのが聞こえた。


「ナギ、お前。本当は、環境保護局の人間じぇねえのか?」

「いや、最初に言ったように、農林水産省だ」

「環境保護局長がミッションに参加してるって噂があっただろ?」

「ああ、僕も聞いた。でも、環境保護局はその噂を否定してる。

 ただ、あんまり必死に否定するから、本当は参加してるんじゃないかって気にはなるけど」

「誰が、そいつだと思う?」

「誰って?」

「詐欺みてえなミッションの立案者だ。それなりの落とし前付けてもらわねえと」

「誰でも良いじゃないか。

 それに、もう死んでるかもしれない。

 いや、多分、十中八九、もう死んでるだろう。

 この六人しか残ってないし、六人の中に、それらしい人物はいないのだから」

「あいつを擁護するのか?」

「僕も、ここに来るまで、環境保護局長を呪った。

 こんな無謀なミッションを計画して、優秀な若者を大勢死なせているんだ。

 

 でも、僕たちはここまで来れた。

 ここには、多分、食料も水もあるはずだ。


 僕たちはコンプリートできる。

 そして、多分、東京へ帰れる」

「出世できるってか?」

「そうだ。地位と名誉。それに莫大な賞金も付いて来る」

 

 レオが肩をすくめて、やってられない、と、足下の小石を蹴飛ばした。


「そうね。地位と名誉とお金。それに、素敵な男も付いてくるわ。

 

 ナナ、良かったわね。あんたみたいな見栄えのしない子でも、男前のエリートをゲットできるってことよ」


 マリアが横から口を出した。


「リョウだって、二次元の女性だけじゃなくて、三次元の女性にもモテるようになるよ」

 ナギが面白そうに笑った。

 

 ヒロは、5号車で唯一の生存者だ。他のメンバーとどこが違ったというわけもない。

 単にラッキーだっただけだ。


 自分でもそう思っているのだろう。冗談っぽく言った。


「僕は、この中で一番ラッキーだ。

 将来、自叙伝を書くとき、君たちの世話になったって、書くことにするよ」

 


 聞いていて、ムカムカした。

 

 これまでたくさんの人が死んでいる。

 ホシヨミでさえ死んだのだ。


 それなのに、この人たちはミッションをコンプリートすることしか考えてないのだ。

 

 もういい。

 

 こいつ等とは、少し離れた場所で寝よう。

 何もたき火の側で寝なければならないという決まりはないのだから。

 


 たき火から少し離れた木の側で、シュラフを広げた。夢の中で眠ると、現実リアルで元気に活動できる。

 ミッションのことは、ナギやマリアたちに任せて、向こうでホシヨミを探すことにしよう。

 


 

 たき火の側では、マリアたちの会話が続いていた。


「ナナって何の能力もないみたいな話だったけど、結構役に立ったわね」

「ああ、あいつにゃ、野生の勘みたいなものがあるんだ。

 何度もヒヤッとした場面があったが、あいつが言うとおりにすりゃ、何とかクリアできた。

 大したもんだ」

 

 レオが、私を褒めている。


 面と向かって褒められるより気分が良い。



「ナギ、お前、ナナのこと何か聞いてないのか?」

「リョウ、それって、どういう意味だ?」

「そのままだ。

 お前は、環境保護局の人間じゃないにしても当局の人間だ。俺たちのことを事前に聞いてるはずだろ?」

「ええっ?ナギは、私たちのデータを事前に知ってたってこと?」

「そうだ。俺は、このミッションがスタートする前、参加者を調べようとした。

 でも、一般人だからってコンピューターに拒否られたんだ。

 時間さえかければ、調べることもできたけど、そこまでする必要もないだろうと、そこで止めた。

 でも、お前は違う。官僚なんだ。やろうと思えば、簡単にできたはずだ。

 しかも、ナナが自分に能力がないような口振りだったのに、お前は、『軽く見るな』と釘を刺した。

 お前、あいつの能力知ってたのか?」

 


 連中が私の方をチラチラ見ながら、ナギを問い詰める。


「詳しいことは知らない。

 ただ、環境保護局の幹部から、ナナのことをよろしく頼むと言われただけだ」

「何ですって?

 あの子のこと頼まれたの?

 それって、あの子が特別ってこと?」

「いや、何か特殊な能力があって、本人が自覚していないって話だった。

 だから、ミッションの研修も僕たちは、三ヶ月しっかり受けただろう?」

「ああ、結構きつかったな」

「あの子は、最後の二週間しか参加していない」

「それって……」

「そう、ミッションの目的も知らないはずだ」

「それなのに、俺たちをリードして来た」

「きっと、ホシヨミに教えてもらったのよ。

 あの人、親切そうだったし、ナナ、懐いてたもの」

「まあ、そういうことだろう」

「じゃあ、あの子、ホシヨミの予言を実体化する形代のようなものなの?」

「分からない。ホシヨミがいなくなって、あの子の力がどの程度、役に立つのか全く分からないんだ」

「だが、川の上流を目指せって啓示は見事だったぜ。

 その後、煮え切らないお前をせっついたこともな」

「だから、ますます分からないんだ」


 薪がはぜた。


 これ以上盗み聞きすることに心苦しさを覚えた私は、眠りの中へ意識を飛ばした。



ナナの正体は何者なのでしょう?

この夢の主人公だって答えは、✖です。

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