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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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ブラックボックス地域の捜索

夢の世界で、ナナは神崎博士の隠れ里に通じるブラックボックス地域を捜します。

「ナナ、ナナ」


 頬を軽く叩かれて、気が付いた。


 マリアが心配そうに覗き込んでいる。

 側にずぶ濡れのレオがいた。


 どうやら、私を救出してくれたのは彼らしい。


「あんたが助けに行ったって、助けることなんかできるはずないじゃない。

 いくら男にもてないからって、正気じゃないわ。

 ホシヨミがイケメンなのは、認めるわ。

 だからといって、あなたが助けにいっても足手まといにしかならないじゃない」

 

 マリアが鼻を鳴らした。

 


 今回のセーブポイントはあの小高い丘だった。

 ホシヨミは行方不明になっていた。多分、死んだのだろう。これで、ミッションのメンバーは、1号車の五人、5号車の二人、6号車の五人の計十二人になった。

 5号車の生存者を一人ずつ分けて、1号車と6号車に六人ずつ乗ることになり、二台で手分けして、ブラックボックス地域を探すことになった。


 途中で、大きな叫び声を最後に、1号車が音信を絶つ。



 車の中を長い静寂が支配した。

 息苦しい。酸素製造装置は、ちゃんと働いているのだろうか?


 ミッションのメンバーは残すところ六名だけだ。

 

 このメンバーで、神崎博士の研究成果をゲットしなければならないのだ。


 もし、ミッションがコンプリートできたとして、東京まで生きて帰れるんだろうか。


 どうして誰も疑問に思わないのだろう。

 思っても口にしないだけだろうか。


 


 私以外全員が、このミッションに命を賭けるよう洗脳されてる。そう確信した。



 

 ナギは、黙って景色を見つめている。


 ブラックボックス地域は酸素が多い。

 緑は、その判断基準になるのだ。


 ブラックボックス地域を探すということは、緑の多い場所を探すということになる。


 マリアは、双眼鏡を使ってあちこち調べている。

 こういうおもちゃをいじっていないと、ストレスで潰されそうなのだろう。


 レオは、ひたすら前を見て走り続ける。油断したら事故りそうな道が続いているのだ。余計なことをグチャグチャ喋ってる間に集中しろって感じだ。


 リョウは、端末に集中している。

 あちこちから集めたデータをチェックして、神崎博士の足跡をたどっている。

 5号車からの乗客はヒロと言う人で、ナギと反対側の景色を必死で睨んでいる。


 私は、と言えば、レオに道を訊かれて、どうするか決める。

 それが仕事だ。


 ホシヨミのおかげで、私が判断すると上手く行くと思われている。


 まあ、それはそれで良いんだけど。



 ナギを始め他のメンバーは、ホシヨミが死んだ川から離れたがった。


 でも、私には、逆に何かがあるように思えた。

 

 神崎博士の活動エリアは、何故か酸素が潤沢だ。

 酸素濃度が人類適応能力範囲内になっている。


 代わりにナビも通信機も使えないブラックボックス化しているのだ。


 まるで、自分が住む場所には、他の連中を入れない、と宣言しているみたいに。



 そんな神崎博士が、私たちに通りやすい道を用意してくれているはずがない。

 むしろ、何らかの障害が用意されている可能性が強い。

 例えば、上流でスコールがあると、下流で氾濫が起きるような川――いうなら砂漠にある水無川(枯れ川)みたいな川を利用する可能性だってあるのだ。

 


 そう思って、ナギに持論を展開した。



「…ということで、逆に考えて、あの川を上流へ上ってみたらどうだろう?」

「危険だ」


 一刀両断とは、このことだ。

 

 間髪を入れずに却下された。


「分かってる?私たちは、単に旅行してるんじゃないのよ。

 神崎博士の考えを推測すると、あの川に繋がるの。

 食料も後少ししか残ってないし、ちんたら探してる場合じゃないでしょ?」


 重ねて言い募ると、言いにくそうに言った。


「ホシヨミがいれば、協力してそうしただろう。

 でも、彼はいなくなった。

 危険な橋は渡れない」

「で、石橋を叩いてたら、その橋が崩れ落ちるって?」



 エリートって度胸がない。

 理論的にはそうだとしても、責任を取りたくないのだ。


 


 責任って、あんた、考えてみてよ。

 

 これじゃ、どうやっても自滅するしかないよ。


 あの川の上流を探さないなら、どこを探すって言うのよ。

 

 


 車という閉鎖的な空間に押し込められているのだ。


 夕焼けが、そろそろ宿泊場所を探すよう訴えている。


 急がなければ。

 

 ナギもイライラしていた。

 もちろん、私もイライラしていた。

 マリアがナギの肩を持ち、無関心を決め込んだリョウと5号車OBのヒロが黙り込んだ。


「いい加減にしろ。死にたくねえのは、誰でも同じだ。

 このまま逃げてても、死ぬときゃ死ぬんだ。

 シャキッとしろ。シャキッと。

 ナナの言うことにゃ一理ある。

 ホシヨミがいりゃ、ナナに従おうって言ったはずだ。

 そこまで分かってて、どうしてそっちを選ばねえ?


 怖いのか?

 

 エリートなんだろう?


 お前だけ、どっかから救助が来るって落ちでもあるのか?

 

 あるわけねえだろ。俺たちゃ、環境保護局に見捨てられたんだ。

 

 ミッションに成功すれば、それで良し。失敗すれば、命はねえってな。

 

 研修では、死ぬヤツもいるって話だった。

 だが、これはひでえんじゃねえか?


 ほとんどの人間が死んでる。


 ったく、詐欺だぜ。

 

 どのみち、食料も少ねえんだ。

 このまま、やみくもに進んでもキリがねえ。

 一か八か、やるしかねえだろう?」


 

 いつもなら、マリアの肩を持つレオが、逆転ホームランを決めた。


 

 ナギが渋々了解したので、ホシヨミが遭難した川の上流目指してハンドルを切る。


 

 おっと、そこ、路肩が崩れてる。

 レオ、右端に寄って、ギリギリ走って。


 空は、だんだん朱色が黒ずんで、薄い藍色が浮かんで来た。

 

 そろそろ、今日の宿泊場所を決めなけでなばらない。

 こうなりゃ、最優先は、ブラックボックス地域より寝場所だ。


 全員、目を皿にして、寝場所を探した。





一同、食料も酸素も少なくなって、だんだん追い詰められてきます。

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