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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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田所大輔の遺品

夢の世界で、神崎博士と同行しなかった田所大輔の遺品を捜します。

7/17『ヤツ等はみんな恋をする』との整合性を図るため、少し手直ししました。

 朽ち果てた病院は、むき出しになった鉄筋がさび付いて崩れ落ちている。


 かつて待合室だった場所、かつて診察室だった場所、かつてナースセンターだった場所、かつて病室だった場所。

 それぞれが、昔の面影を残しているが、廃墟であることに変わりはない。

 

 金沢では、ナビも通信機も使えない。

 小さなブラックボックス地域なのだ。


 どうしてそうなのか、誰にも分からない。

 

 もしかして、人為的なものだろうか?

 もしかして神崎博士のグループが、自分たちの行動エリアをブラックボックス化したのだろうか?


 だとしたら、どうして、そんなことをする必要があったのだろう?

 



 いずれにしろ情報が必要だ。

 腹を決めて、リョウの協力を仰いだ。




「リョウ、お願いがあるんだけど」

「?」

「一度、街を出て、通信可能な場所からネットで調べて欲しいの」

「何を?」

「ここって、金沢で一番大きな私立病院だった田所病院だと思うんだけど、ここの婿養子って、何科のドクターだったんだろう?

 っていうか、彼の活動領域はどの辺りだったんだろ?

 でもって、彼の一生って、どんな感じだったんだろう?

 調べて欲しいの。


 ついでに、彼の自宅の住所が分かれば、なお良いんだけど。


 無理かな?」


 ホシヨミとナギが、目を見張ったので、


「これって、冴えてる?」と訊くと、

「最高だ」

「確かに、最善の指摘です」

 と、二人一緒に褒めてくれた。



 リョウは、軽く手を振ると車で郊外へ出かけていった。



 誓っても良い。


 リョウが、私の指示に従ったのは、私の指示が適切だと思ったからじゃない。

 頭の良いナギと予知能力があるホシヨミが私を褒めたからだ。



 どうして、みんな、素直に私のことを信じてくれないんだろう。


 もう、性格悪いんだから。




 病院跡に残された私たちは、ひたすら探すことにした。

 情報を残すってことは、ノートブックかもしれないし、もしかしてUSBかなんかに日記みたいなものが残ってるかもしれない。

 あるいは、隠れ里運動の資料が、あったりしたりするかもしれない。


 いずれにしろ、リョウが問題の人物の行動範囲を特定するまで、手当たり次第に探すしかない。


 いくつかある診療室を思いっきり探した。

 探し方に思いっきりと言うのは、どうかと思うが、もともと廃墟なのだ。遠慮は要らない。

 壁や床、天井を壊してでも探さなければならないのだ。

 

 30分ほどして、リョウが帰って来た。一同、捜索を中断してワラワラと集まる。


「ねえ、どうだった。面白いデータが見つかった?」

 

 捜索に疲れたマリアは、ここでミーティングをすることで、少しでも違った作業ができるのが嬉しいのだろう。

 猫なで声で訊いた。


 

 リョウは珍しく興奮している。

 もっとも、平素が平素なのだ。興奮してるって言っても、普通の人がちょっと元気にはしゃいでいる程度なんだけど。



「ナナ、ビンゴだ!」

「ってことは、ここの婿養子が隠れ里運動のメンバーだったのに、残ったってこと?」

「ああ、名前は、田所大輔。

 神崎博士と同い年だ。

 隠れ里運動に参加する予定でグループから援助を受けていたんだが、いざ、移住する段になって、舅の田所院長から横やりが入って、同行を拒んだらしい。

 だから、こいつの身辺を調べれば、隠れ里運動の資料なんかが残ってる可能性が大きい」

 

 小さなモバイルに記憶させたデータを読み上げるリョウは、嬉しそうだ。

 このミッションで、こんなに上手く行ったのは、初めてのことだ。


「で、田所大輔は何科だったんだ?」


 ナギが口を挟むと、リョウはモバイルのディスプレイに昔の田所病院の見取り図を出して説明した。


「外科だったらしい。これが、ここの見取り図だ。外科の診察室は第一外科がここで、第二外科がここだ」

「ってことは、一階の突き当たりの二部屋ってことになるわ。私、探して来る」


 この報告で、今までの疲れが吹っ飛んだんだろう。

 マリアが駆けだし、遅れまいと、レオが続いた。



「田所大輔の人生はどういうものだったんですか?」


 マリアやレオを目で追いながら、ホシヨミが尋ねた。


「それが、変わってるんだ」

「変わってるって?」

「神崎博士たちが消えた数年後、金沢で食料を巡って暴動が起きたんだ。

 

 で、その暴動の際、一度行方不明になってる。

 暴動で行方不明になった人は多いから、亡くなったんじゃないかと言われたらしい。

 でも、一年後、記憶喪失になって発見されている」

「それから?」

「一生記憶は戻らなかったらしい。

 暴動で、子供さんが二人とも亡くなってしまって、夫婦仲も上手く行かなかったんだろう。

 翌年、離婚して僻地の診療所で生涯を終えたことになってる」

「なってるって?」


 ナギが疑問を投げかける。


「どこの診療所で生涯を終えたか分からないんだ」

「ってことは、隠れ里へ合流したって可能性もあるってことか?」

「そういうこと」

「だったら、最初から一緒に行けば良かったのに」


 ナギが不思議そうに言うので、横から口を出してやった。


「もしかして、舅の院長だけじゃなくて、奥さんまでムキになって反対したんじゃない?」

「大当たり(ジャックポット)」

 リョウが薄く笑った。


「でもって、居残ったのは良いけど、こっちじゃ食べてけなくなったってこと?

 神崎博士たちが移住した後、未曾有の食料難があって暴動が起きたんでしょ?」

「暴動というより、食料を確保できた人々と確保できなかった人々の間で起きた内戦に近かったらしい。

 当時、食料自給率が二十パーセントを切っていたんだ。

 異常気象で作物が取れなくて、外から食料が入らなければ、少ない食料を巡って争いが起こる。

 あの時代、二人に一人が死んだと言われている」

「田所大輔の子供も二人とも死んだのですか?」

「ということになっている」

「もしかして、子供だけ隠れ里に預けたってことかもしれないわね。

 で、奥さんを説得しようとしたけど、失敗して自分だけ子供の後を追った、とか」

「まあ、可能性としてはあるだろう」

 

 データを見ながら説明するリョウに、ホシヨミと私は推理を重ねた。

 

 外科の診察室は、マリアとレオが探すとして、田所大輔が大事なものを隠した場所って、他にどこがあるだろう?

 

 そうだ。自宅があったはずだ。大事な場所を忘れるとこだった。


「ねえ、田所大輔の自宅ってどこにあったの?」

「この病院の近くのマンションだったらしい」

「院長たちと同居してたのか?」

「いや、院長夫妻は、病院に隣接した邸宅に住んでいたらしい。

 新婚だからって、娘夫婦は近所にマンションを買ってもらったって感じだな」



 


 田所大輔の自宅マンションは、しっかりかっきり朽ち果てていた。

 どうしようもないぐらいに朽ち果てて、ボロボロになったセメントと錆びた鉄材しか残っていない。

 

 あちゃー。これじゃ、ここでは見つからない。


 でも、他にめぼしい捜索箇所はないのだ。ここで何かが出て来れば良いんだけど。



「端末探知機で探そう」

 突然、ナギがそう言った。

「端末探知機って?」

「こんなこともあろうかと車に装備されていたんだ。

 端末やUBSに反応する機械だ。

 大学跡地の捜索でも、他のチームが使ってただろ?」

「ってことは、ここに埋まってるかもしれない端末やUBSを捜し出す機械ってこと?」

 

 私が訊くと、ナギは満足そうに頷いた。

 



 相変わらず親切なホシヨミが丁寧に教えてくれた。

「そうです。ここに端末やUBSが埋まっていれば、機械音を発して教えてくれます」


「やってやって、早くやって」

 


 小躍りして頼んだ。


 だって、労せず端末やUBSの存在が分かるんだよ。

 そんな便利な機械があるなら使わない手はないじゃない。

 


 車から件の機械を持ち出して辺りにかざし、マンション跡地をウロウロすること十数分。突然、けたたましい電子音が鳴った。


「あったぞ!」



 飛び上がりたい気分だ。



 ここ掘れワンワンじゃないけど、電子音が鳴った辺りを掘ると、小さな端末が現れた。


 古い機械で、しかも、セメントや土砂の中に長いことほったらかしだったのだ。

 壊れてしまって、電源を入れても反応しない。


 残念。せっかく見つけたのに。



 リョウが舌打ちして、出土した(?)端末の中からハードディスクを取りだし、自分の端末と直接コードで繋げた。

 要は、外付けハードディスクと同じ扱いをしたんだ。

 なるほど、目から鱗だ。



 しばらくして、リョウの端末のディスプレイに画像が浮き上がる。


 リョウって大した人だったんだ。改めて見直した。





いやあ、あの田所大輔くんは、移住しなかったせいで、苦労したんですね。

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