病院の廃墟
夢の中で、ナナは、現実で神崎博士の移住に同行しなかった人物が婿養子に入っていたと思しき病院(夢では廃墟になってます)を調べることになります。
少し離れたところに病院が見えた。金沢では大きい個人病院の残骸だ。
あれって……。
思い出した。
居酒屋で誰かが言っていた例の病院だ。
確か、あそこに隠れ里への同行を拒んだ人がいたって、そういう話だった。
ホシヨミが、私の様子に気が付いて尋ねた。
「何か気がつかれましたか?」
「うん。まあ、ダメ元で行ってみようと思うんだけど……」
「どこへですか?」
「あの病院」
「の廃墟ですね?」
「そう」
ホシヨミは特段質問もしないで、私の好きにさせてくれた。
優しく微笑みかけてくれる。
ホシヨミに優しくされると心底嬉しくて、本当にミッションをコンプリートするのは私かもしれないって気になる。
そうして、私たちは大学の跡地を出て、病院跡の廃墟へ足を運ぶことにした。
どうして、こいつ等が付いて来るんだろう?
私の隣にはレオが、ホシヨミの隣にはマリアがいる。
何故か、リョウもいて、この三人の後ろから保護者よろしくナギまで付いて来たのだ。
「あんたたち、大学の捜索はどうなってんのよ?」
「5号車と1号車の連中に任せて来た」
しれっと言ってのけたのは、ナギだ。
あんた、そんないい加減なタイプじゃなかったはずだって。
「って言うか、5号車の責任者はこいつなんだぜ。
どっちかっちゅうと、こいつこそあっちに残るべきなんじゃねえか?」
レオ、言いたくないけど、男前に嫉妬するのは止しなさい。
男の嫉妬は見苦しいよ。
「人手は足りてるんだ。別に良いんじゃないか?」
って、リョウ、あんたまで調子に乗るんじゃない!
「全部で十五人いるんだ。手分けして探した方が良いだろう。
大学跡地で探すのは九人。こっちで探すのが六人。こんなもんじゃないか」
ナギが言うと、ホシヨミが頷いた。
良いけどね。ホシヨミが文句言わないなら、私が文句を言う筋合いじゃない。
「でも、あんたたち、ここで何探すつもり?」
「それは、ナナに尋ねたいわ。
あなた、何するつもりでここへ来たの?
ナギは、大学跡地を探せって言ったわ。それなのに、あなた、突然、大学から出てってしまうじゃない。
一体、何考えてるのか、教えてもらいたいものだわ」
マリアに詰め寄られて、頭を抱えた。
説明なんかできない。
思わず、ホシヨミに助けを求めた。
ホシヨミは、大した人だった。
私の言わんとすることを説明してくれたのだ。
「理由ははっきりしないようですが、ナナに、考えがあるようです。
つまり、大学だけじゃなく、この病院に関係者がいたんじゃないかと確信しているようなのです」
「どういうことだ?」
レオが詰め寄る。
マリアとレオに睨み付けられて、もう、嫌になる。
この二人、無駄に迫力があるのだ。
もうやけくそだ。
開き直って説明した。
「理由は訊かないで。
説明できそうにないの。
でも、私は、神崎博士が金沢を離れたとき、博士と同行する約束をしていたメンバーの誰かが、約束を破って同行しなかったんじゃないか、と推測している。
で、その同行しなかった誰かってのが、金沢で一番大きな私立の病院、つまりここの婿養子の可能性が強いの」
「そんなこと、どうして分かるのよ?」
「理由は説明できないって言ってるでしょ」
だって、現実でそんな話を耳にしたような気がするんだもん。
って、言っても信じないでしょ。
っていうか、そもそも、あんたたちって、私の夢の中の登場人物に過ぎないわけで、私の夢の中のことは、現実を踏まえているってことになるわけで、ということは、あのときの話を耳にした私の夢だということは、あのときの話が実際起こったということになるわけで、ええい、何が何だか分かんないけど、そうなってるはずだってことで、だから、説明なんかできないって言ってるでしょ!!!
マリア、あんた、ちょっとうるさいよ。
そんなに気にいらないなら、付いてこなきゃ良いじゃない。
「でも、大事なことよ」
「だったら、こんなところに付いてこないで、大学を捜索したら良いでしょ?
別に手伝ってくれなんて言ってないんだから」
「あなたには予知能力もないのに、どうしてホシヨミが付いて来たの?
彼は、あなたの考えが当たってるって読んだわけ?」
「ええっ?
あんたたち、ホシヨミが私に付いて来てるから、ここへ来たの?」
全員、深く深く頷いたので、思いっきり脱力した。
彼らは、私に能力があるとは微塵も思っていない。
ただ、占いに長け、予知能力まであるホシヨミが私の行動を是としているから、何かあると踏んだのだ。
まあ、良いけどね。
だったら、せいぜい協力してもらおうじゃない。
この廃墟は、言わずと知れた『ヤツ等はみんな恋をする』の田所病院の成れの果てです。




