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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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隠れ里の探索

夢でナナたちは金沢へ着いて、神崎博士の隠れ里を捜すことになります。

7/17 まだ、卒業してなかったので(卒業式の前でした)、少し修正しました。


 犀川を渡ると、ナビがブラックアウトした。


 慌てて、外気状況計測装置を見て驚いた。

 酸素濃度が人類適応能力範囲内になっていたのだ。しかも、イエローゾーンじゃなくグリーンゾーンだ。


 さっき、橋を渡ったとき違和感を感じた。あれのせいだろうか。


 琵琶湖周辺のブラックボックス地域は、人類適応能力範囲内だった。

 だが、金沢も人類適応能力範囲内だというのは大発見だ。


 環境保護局に連絡すれば、それなりのポイントがもらえるんじゃないだろうか。


 でも、琵琶湖周辺同様、ナビも通信機も使えないのだ。

 帰ってから報告することにして、先へ進むことにした。


 我々は、神崎博士が学んだ大学へ向かった。




 ヤッホーイ!




 これが、私の学校でもあるんだな。

 やっと、出番が来たって感じだ。

 

 私が青春を過ごした街だ。いや、もうすぐ、卒業するんだけど。

 藤島先輩を始め六回生の皆さんと一緒に住んでる街だ。



 私にとって大事な街。

 その金沢が、どうなっているのか。

 好奇心でいっぱいだ。


 でも、かなり不安で、嫌な予感もする。


 何しろ、名古屋があの様だ。


 途中で通過した静岡、大津、福井なんかゴーストタウンだったのだ。



 私の青春。私の心の拠り所。

 金沢の街は、静かに私たちを待っていた。



 ここから、私たちは神崎博士の足跡をたどることになる。



 ん?待てよ。

 神崎博士の学部ってどこなんだろう?


 しかも、そんな昔の学生のデータなんかこの状況(廃墟)で残ってるはずもないじゃない。

 

 どうやって、博士の足跡をたどれば良いんだろう?




 そうか。ここがスタート地点なのだ。 

 ここまで来れたのは、1号車、5号車そして6号車の三台だけだ。


 ここから、神崎博士のことを調べて進まなければならないのだ。


 ゴールだと思っていた金沢は、スタート地点だった。


 金沢へ来るのに、七つのチームが失敗している。

 怪我をした者もいれば、命を落とした者もいる。

 彼らは、そもそもスタート地点にさえ立つことができなかったのだ。


 彼らの無念さを思えば、何とかミッションをコンプリートしなければ、という気持ちになった。




 三チーム15名のメンバーは、大学の跡地で三々五々散らばって、神崎博士の隠れ里に通じるデータを探すことになった。


 一同の前でナギがぶち上げた演説は大したものだった。



 曰く、神崎博士の隠れ里を探すため、博士が籍を置いた理学部と隠れ里運動のリーダーである遠山氏の在籍した法学部を重点的に調べて、何らかの情報が残されていないか探して欲しい。

 隠れ里運動の名称及び構成員の名前は残っていないが、研修で資料として渡された新聞記事(バス事故)の犠牲者が、構成メンバーだったと推測される。

 いずれにしろ、隠れ里運動に何らかの関わりを持った人物を捜し出し、その行動範囲を虱潰しに探して、隠れ里を特定しなければならない。


 あまりにも素晴らしい演説だったので、やっぱりナギが環境保護局長なんじゃないか、というささやきが聞こえた。 


 ナギの演説を受けた一同は、意気込んでめぼしい建物に消えて行った。


 でも、めぼしい建物ってったって、廃墟と化しているのだ。

 例えコンピューターが残っていたとしても、データが残っているはずがないし、そもそも、コンピューターなんか残ってるわけがない。


 捜索は他の人たちに任せて、私はホシヨミと一緒に、かつて母校であった廃墟を見て回った。


 私の通った研究室のある法学部の校舎は、二階から上が崩れ落ちて、かろうじて一階部分の鉄筋が残っているだけだった。


 ここで、六回生の先輩たちや伸ちゃんと一緒に勉強したのに。

 みんなバラバラになるけど、学生時代の思い出として大切な存在だったのに。


 法学部の校舎から少し離れたところに、学生会館のなれの果てがひっそりと建っていた。


 現実リアルでは大勢の学生が集い、話し声や笑い声に溢れているのに、ここでは朽ちかけた鉄筋コンクリートの残骸だった。


 一階が食堂、二階に購買部や喫茶部そしてロビーがあったのに。


 そう言えば、喫茶部で誰かが神崎博士の名前を口にしていた。

 あれって、いつのことだろう?


 それに、最近、誰かが神崎博士が怒ってるって言ってたような。

 あれって、どこだっけ?

 誰が話していたんだっけ?



 そうだ。神崎博士と同行する予定だったけど、それを拒んだヤツがいるって、誰かが言ってたんだ。

 

 移住する約束をしていて移住しなかった人。

 その人が、何らかの情報を残してる可能性がある。


 ホシヨミを促して植物園へ出かけた。


 理学部が研究するため、自然のままにしてあった植物園は、完全にジャングルと化していた。

 湿度が高く頻繁なスコールに耐え得る植物、つまり南国の植物が密集して繁茂している。

 現実リアルでは『マムシに注意』の看板があったが、ここでは『ハブに注意』の看板を立てたいほどだ。


 現実リアルで藤島先輩と散歩した場所を、ホシヨミと散歩した。


 そう言えば、ホシヨミって、彼女いないのかな。

 少しドキドキして、切なくなった。


 もし彼女がいなくても、私は現実リアルへ帰るから夢の世界に生きるホシヨミといつまでも一緒にいられない。

 

 そんなにホシヨミと一緒にいたいなら、ホシヨミが連れてって欲しいって言ってるんだから、連れてけば良いんだ。私の本当の世界、現実リアルへ。


 でも、どうやって?

 

 ミッションのコンプリートより難しい問題だった。

 でも、私にとって、ミッションより大事な問題なのだ。

 

 

 植物園の端――木々がとぎれて、街を見下ろせる藤島先輩が好きな場所――に立つと不思議な気分になった。

 

 藤島先輩と来た時は、エノキやブナが育っていた。

 ここでは、南方系の植物が密集している。

 

 街を見下ろすと、廃墟が連なっている。

 他の地域と同じように、食料危機とその際起きた食料争奪戦とも言える内戦で、見捨てられたのだ。


 あの時、我が国の人口が半分以下になったのだ。

 

 

 あの情緒溢れる美しい街が、緑に囲まれた静かな街が、ゴーストタウンになっていた。

 

 神奈川や静岡、大津や福井といった街を横切ったときとは違う切なさが、湧き上がった。


 誰だって、思い入れのある街が廃墟になってるのなんか見たくない。

 


 これは夢、夢なのだ。

 金沢が廃墟になるなんて、あり得ない。

 


 気が付くと頬を涙が伝っていた。


 ホシヨミは何も言わないで、私をそのままにしてくれた。

 見て見ない振りをして、知らん顔をしてくれた。

 


 ありがとう、ホシヨミ。あんたって良いヤツだね。



『ヤツ等はみんな恋をする』の面々が端役で出てきます。今回は、神崎博士の噂でした。

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