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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
23/35

問題の日

夢の中でホシヨミが水難に遭う日になります。

 夜が明けると、この旅が始まって三日目だ。ホシヨミの車が消滅する日だ。

 

 消滅するのは、車だけで良い。

 ホシヨミたちは、歩いてでも旅を完遂して欲しい。

 こっちの車の後ろに荷台のようなものをくくりつけて、一緒に行けないものだろうか。


 ホシヨミと目が合うと、彼は唇の前に人差し指を立てた。



 分かってる。

 聞いた話を他人に言っちゃいけないんだ。


 でも、先のことを知ってるのに、言っちゃいけないって辛い。


 占いの能力とか予知能力のある人は大変だ。

 


 朝ご飯を終えると車に乗って出発した。



 この二日で分かったことだが、この夢では、日本は亜熱帯だ。

 だから、ものすごく暑い。


 朝方は過ごしやすいものの、昼には耐えられないほど暑くなって、スコールがある。

 スコールが終わると、やっと人心地つくのだ。


 目に付く木々も日本に昔からあったものじゃなく、椰子とかシュロといった南国原産のものだ。


 花だってハイビスカスみたいな南国でしか見なかったものが主力で、昔ながらのキキョウとかユリとかいったものは、見かけない。

 

 この気候の中、アスファルトは完全に劣化してしまっている。

 ただでさえ道路の状況が悪いのに、アスファルトまで邪魔をするのだ。



 我々のミッションは、この気候の劣悪さ、道路コンデションの悪さ、それに来て欲しくもない保護対象生物からの攻撃をかいくぐって進んでいる。

 加えて、テロによる攻撃にまでさらされているのだ。

 

 以前のミッションでノイローゼになった人が出たというのは、あながち誇張ではないだろう。

 

 昨日に引き続き、高速道路じゃなく一般道を走る。


 高速道路じゃなくても、信号も制限速度もないのだ。

 言うほど遅いわけじゃない。


 そりゃ、高速道路の方が、高速に適した仕様になっているが、高架部分が陥没していたり、橋が崩れていたり、トンネルが塞がっていたりする度、一般道に降りなければならないのだから、意味がない。

 

 だったら、最初から、一般道を地味に走る方が効率的だ。


 ブラックボックス地域の境界を越えるとナビが回復した。

 

 再び機能し始めたのだ。

 大喜びで画面を見ると、この地域全体を表示する画面の上に、私たちの6号車とホシヨミたちの5号車の他には、1号車しかいなかった。


 残り四台は、失敗したのだろうか。

 もしかして、ブラックボックス地域で迷子になっているのかもしれない。


 この時間になっても、ブラックボックス地域を脱出できないということは、失敗した可能性が大きい。

 


 ブラックボックス地域では、救助を見込めない。


 暗澹たる気持ちで空を見上げた。



 現在走っている地域はイエローゾーンで、琵琶湖付近ほどじゃないけど、緑が多い。


 この緑を東京近郊に拡げることができれば、酸素も増えて、住みやすくなるのに。

 



 ホシヨミの車は、今日、失われる。


 ホシヨミたちはどうなるのだろう?

 ホシヨミを失いたくない。

 側にいて欲しい。


 夢の世界で唯一の味方だ。


 ホシヨミがいなくなったら、私だって、いつまで普通でいられるか分かんない。


 後ろ向きで、悲観的になった。


 いけない。

 

 これは夢、夢なのだ。


 いくらホシヨミが素敵でも、夢の登場人物にすぎないのだ。

 現実リアルじゃないんだから。

 

 でも、金沢は最終目的地じゃない。


 どうやって隠れ里を探せば良いのだろう?

 神崎博士の足跡って、どうやってたどれば良いんだろう?



「4月18日。ミッション3日目。天気は晴れっと」


 手元のモバイルに入力しながら、マリアが独り言を言った。


 日誌を付けるのはマリアの担当なのだ。

 


 黒い雲が急速に広がって、雷が鳴った。

 稲光が走り、地を這うような地響きが聞こえた。



「ちぇ、スコールだ」

 レオが口をとがらせた。

「昨日もあったのに。ついてないわね。これって、毎日、来るのかしら」

 マリアが文句を言う。


 私はと言うと、昨日一日に現実の六ヶ月以上かけたせいで、スコールがあったかどうかなんて、覚えてない。

 何しろ、最初のうちこそ、セーブは名古屋へ戻ったが、そのうち、例のブラックボックス地域の入り口辺りが、セーブ地点になったからだ。

 そう言えば、スコールに遭遇したとき、ホシヨミの心配をしたっけ。


 幸せなことに、ブラックボックス地域へ入った辺りからこの夢を見るのが、毎日じゃなく、一週間に一回程度の続き物になった。

 毎週金曜深夜から翌朝までってテレビの連続ドラマみたいだ。


 良かった。

 

 じゃないと、こっちの体力が続かない。


 だって、考えてもみてよ。


 こっちの世界で惰眠をむさぼらないと、現実リアルでは徹夜以上に消耗するのだ。それなのに、名古屋からこの方、ホシヨミとナギの陰謀で寝させてもらえない。

 些末な交差点での判断まで任されているのだ。


 こんなことが続いたら、睡眠不足で死んでしまう。

 

 だから、夢の中で、今日が何日目だなんて、全然分かんない。

 さっき日誌を付けるマリアの独り言で気が付いたのだ。


 今日が、三日目。ホシヨミが車をなくす日だ。

 死相の出ているメンバーもいるって言ってた。例のあの日だ。

 



 ホシヨミたちと一緒に、どこか安全な場所へ避難しなければ。


 そう、私と一緒に行動すれば、自動的に夢のやり直しに参加できるから、ホシヨミも死なない。


 だって、これは夢、私の夢なんだから。




 鯖江を抜け、福井を通り過ぎ、ひたすら金沢を目指す。


 走りながら、やっと使えるようになった通信機が嬉しくて、ホシヨミの5号車だけじゃなく、1号車とも通信する。


 三者が同時に会話して、ブラックボックス地域の愚痴やらこれから先のルートの相談やらする。

 

 話し相手がいるって素敵だ。

 あのどうしようもないブラックボックス地域では、一緒に走っている5号車とさえ会話できず、大事な相談があるときは、車を止めてなければならなかったのだ。

 

 小松を過ぎれば、後一息だ。

 一同、こんなに簡単に進めるなんて。

 と、感動していたが、それは幸せな誤解というものだ。


 例によって、野宿した場所――ブラックボックス地域の境界辺りが直近のセーブポイントになっていた――から、川に落ちたり、路肩から崖に突っ込んだりしながら、翌週やり直すと言う感じで進んで来たのだ。

 


 これは夢、私の夢なのだ。


 だから、私と一緒に行動する限り、死ぬことはない。

 




 そして、金沢に到着直前、手取川に近づいたとき、スコールに遭遇したってわけだ。

 

 水難。


 嫌な予感がした。


 急いで車を止めたが、辺りは加賀平野と言われる地域だ。

 真っ平らで高台なんかない。

 川から離れるに越したことはない。


 水難って、このことだろうか。


 ホシヨミも細心の注意を払っているようだ。


 私たちの車にピタリと寄り添い、断固として離れない。必死で付いて来ている。


 見事としか言いようがない。



 もっともっと注意して。

 もっともっと気を付けて。



 占いが外れることを祈って、スコールをやり過ごした。

 

 

 突然降り出した雨は、突然上がった。


 ホッとして力が抜けると、ホシヨミの車へ様子を見に行った。


 良かった。スコールで水難に遭うわけじゃなかったんだ。

 


 ホシヨミも私を見て微笑んだ。



「そんなに気を遣わなくて良いですよ」

 優しい声でささやく。他の人には、聞こえないような声で。


 秘密を共有するって素敵だ。

 しかも、相手はイケメンのホシヨミなのだ。


 こんなシチュエーションは、私の人生では二度とないだろう。

 いや、現実リアルじゃあり得ない。



 夢だからこその状況だ。



 夢って素敵。

 だって、私の夢である以上、主役は私なんだから。

 

 シミジミと嬉しさをかみしめた。


 水かさの増した手取川を渡り、金沢へ向かう。

 金沢には、犀川と浅野川、二つの川がある。

 この二つの川に挟まれた地域が旧市街地とも呼ばれる地域だ。


 現実リアルでは、緑が多く情緒溢れる街で、小京都と呼ばれていたっけ。




ナナたちは、ようやく金沢にたどり着きました。

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