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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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法経職試験敗退

ナナは、現実リアルで、法経職試験に敗退します。

公務員採用試験は、現実のものとは変えてあります。近未来なので、この方が面白いかと思うのです。

 ミッションの旅は、はかばかしく進まなかった。

 

 おかげで、現実リアルで受験勉強がはかばかしくなく、法経職試験は悲惨な結果に終わった。

 もっとも、まともに勉強してたとしても、私の実力じゃ同じ結果だったかも。


  法経職試験は、ウチの大学の大講義室で行われた。

 ただっ広い階段教室で、全席にノートパソコンが置いてあるあそこだ。

 勉強サークルで聞いてはいたが、全員が各々のディスプレイを見つめて、五枝択一の問題を次から次へと解く様は壮観だ。

 全300題。瞬時に問題を読んで正解を選ぶ。

 ディスプレイ上の正解にタッチし、流れるような動きで『次へ』のマークに触れると、次の問題が現れる。

 集中力をとぎれないよう細心の注意を払って、新しい問題を読む。解答を選んでタッチする。『次へ』をタッチし、また問題を読む。


 落ちたから言うわけじゃないけど、どうして、完璧を求めるのだろう?


 しかも、瞬時の判断を求める必要なんかあるのだろうか?

 

 そりゃあ、法経職試験の合格者が就く仕事の中には、瞬時の判断が重視されるものもあるだろう。

 でも、そうじゃないのも多いのだ。


 なのに、試験では、こういう瞬時の判断で完璧を求められるのだ。


 まあ、これが一次試験であって、二次の論述試験や三次の口頭試問じゃないからだと言われればそれまでだが、それにしても、あたら優秀な人材を瞬時の判断力に劣るというだけで落とすのは、どうかと思う。

 

 いや、決して自分のことを言ってるわけじゃないんだけど。


 それでも、制度は制度であって、この制度がこういうものである以上、これに合格しなければ、法曹や官僚になれない。落ちたからには、別の道を探すしかないのだ。


 ちなみに、ウチの優秀な六回生は四人とも一次試験に合格し、二次試験に向けて猛勉強を続けている。

 五回生では、竹村先輩が合格した。

 我々四回生で合格したのは、森川くんただ一人で、みんなの期待を一身に背負って頑張っている。


 で、落ちた私や吉田伸子ちゃんはと言うと、どっかの公務員試験を受けようと、あちこちの公務員採用試験を調べて、セッセとエントリーした。


 国家公務員や地方公務員の(管理職候補じゃない)実働部隊は、法経職試験より難度が低く合格しやすいと言われているからだ。

 

 この試験は、法経職試験の一月後、法経職試験と同じ会場で行われる。

 全国の都道府県及び市町村の地方公共団体の共通試験で、事前にエントリーした地方公共団体が、受験生の解答データを使って一次試験の合否を決する。


 大学入試のセンター試験じゃあるまいし、どうして、全国の都道府県や市町村が同じ試験を実施するのか、不思議に思ったことがある。

 で、あるとき伸ちゃんに、暇なとき調べてみてくれないって頼んどいたら、しばらくして報告があった。


「以前は、各地方公共団が別々に試験をしてたらいしいんだけど、似たり寄ったりの問題出すのに、それぞれで問題作って試験を実施するのは面倒だってことになって、共通問題を使おうってことになったらしいの。

 で、やってみたら、同じ問題を使うのだから、統一日にしないと不都合でしょ?

 それで、全ての地方公共団が協力して、全国どこでも受験できるようにしたんだって。

 ついでに、二次試験の試験日が重ならない限り複数エントリーできるようにしたらしい」


 暇なとき調べてみてって言ったのは言ったけど、伸ちゃんって本当に良い人だ。


 でも、そうか、伸ちゃん、暇だったんだ。




 一次試験に合格すれば、論述試験と面接の二次試験に進むが、二次試験は、それぞれの地方公共団体独自の論述問題が出るので、その傾向を調べておく必要がある。

 面接は出たとこ勝負。人事を尽くして天命を待つって感じだ。


 その二次試験というのは、どっかの村が村の現状について論述しろとか、郷土史家が書いた自費出版みたいな本を読んで、今後の地域のあり方について述べよって、ものすごくマニアックな問題が出るらしい。

 

 まあ、いくらマイナーな市町村だとしても、その地域に興味もないような人間を採用する気はないってことだろう。

 小さな市町村や田舎の都道府県じゃ、コネが必要だという噂もある。

 それから言えば、全国統一問題で何点取れたかってのは、コネの入りようのない公平なシステムだと言える。


 私と伸ちゃんは、とりあえず、東京の採用試験にエントリーした。

 当然、一次試験に合格し、二次試験に出かける準備をしていた。

 二人とも法経職試験の勉強してたのだ。受かって当然って感じだ。


 どうして東京を受けたかというと、先輩たちが、採用数が多いほうが、受かりやすいとか何とか言ったからだ。

 でも、よくよく考えたら、採用数も多いけど、受験者数も多いのだ。

 落ちたら、どう責任とってくれるって言うんだろ。プンプン。



 でも、一応、ここまで来たのだから、このまま行くっきゃない。



 伸ちゃんと学生生協の喫茶部で東京行きの打ち合わせをしていると、六回生の先輩たちに出会った。

 森田先輩と山下先輩それに岡野先輩だ。


 珍しい。藤島先輩の姿が見えない。


 もしかして……。


 でも、大事な二次試験の前だ。

 亜季先輩が遊びに来るって、あり得るんだろうか?


 でも、私は、あの二人がとんでもない大物だということを忘れていたようだ。

 山下先輩が簡単に説明してくれたのだ。


「藤島は、亜季ちゃんが来てるから」

「こんなときに?」


 私が、唖然として問い返すと森田先輩がフォローした。

「こんなときだから、亜季ちゃんが来たんだろう」


 こんなとき。


 やっぱり二次試験の前はストレスが溜まるんだろう。

 それで、心配した亜季先輩が藤島先輩の応援に来たのだろう。



「七瀬さん、藤島と亜季ちゃん、喧嘩したみたいだよ」


 森田先輩が言いにくそうに言うので、何でか訊いた。

 

 あんなに仲の良い二人が、どうして『こんなとき』に喧嘩なんかするのだろう?

 その理由が知りたかった。


「七瀬さんのことで喧嘩になったらしい」

 山下先輩が、声を潜めて教えてくれた。


 一瞬、場が凍って、一同、気まずそうに私を見た。


 


 何で、私のことで喧嘩になるのだろう?

 藤島先輩は亜季先輩の伴侶であって、私は同じ試験を受ける仲間にすぎないのに。




 テーブルが静まりかえった瞬間、向こうの席で噂話に興じる声が聞こえた。


「神崎たち、どっかへ移住するらしいぜ」

「移住するって、どこへ?」

「なんでまた。酔狂な」

「ヤツ等によりゃあ、将来、食料危機が来て、人口の半分近くが餓死するんだとよ」





『ヤツ等はみんな恋をする』のW崎の神崎くん登場!っていうか、噂だけのニアミスです。

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