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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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保護対象生物

夢の世界で、ナナは初めて保護対象生物に会います。

 一見親切、実は腹黒い人々と別れて、出発することになった。


 泊まっていかないかと誘われたが、謹んでご辞退させていただいく。


 マリアなんか、本当はここに泊りたかっただろう。


 でも、私があの少年の話を報告すると、大人と少年、どっちの話が正しいかと悩むのも馬鹿馬鹿しいから、さっさと進もうということになったのだ。


 マリアは、シュウが嘘を付いてる、と主張した。

 実際、シュウが嘘を付いていないという証拠もない。


 ナギとホシヨミは、どっちが嘘つきかと悩むよりミッションを進める方が良い、と判断した。


 しばらく車を走らせて、集落から見えない場所に出た後で、集落の人たちから聞いた話をすり合わせた。


 やっぱりというべきか、話に整合性がない。

 シュウの言うとおり、あの集落の人から聞いた話は、参考程度に留めるしかないだろう。


 ホシヨミもナギも、少なからず動揺していた。


 私より頭の良い二人に言うことじゃないけど、世の中、いろいろな人がいるんだから、気にしない方が良いよ、と言ってやりたくなった。


 このミッションに参加者だっていろいろだしね。





 気を取り直して、車を出そうとすると、信じられない事件に遭遇した。





 メリメリと何かを壊す音が辺り一帯に響いた。

 風を切るような音がそれに答え、何かを打ち付ける音が留めを刺す。

 

 車をバックさせて、音の方を見やる。


 目に入ったものに、目を疑った。

 


 集落の近くで、大きな生き物が戦っていた。

 どちらもどす黒いが、よくよく見ると、片方は緑がかっていて、もう片方は赤味を帯びている。

 二頭の生き物は、は虫類の一種のように見えた。

 トカゲのような形、いや、テレビで見たティラノザウルスがこんな感じだった。


 だが、驚いたのはその形だけじゃない。

 ものすごく大きいのだ。

 見たところ、三階建てのビルより高そうだ。何メートルあるのだろう。

 

 その図体の大きい生き物が、集落の存在を無視して戦っているのだ。

 


 唖然とした。

 

 

 風を切って二頭が戦うと辺りの木々が倒されて、緑の臭いが濃くなった。むせかえるような緑の中、怪獣が戦っていた。





「出たっ……保護対象…生物だわ」


 マリアの口からこぼれた台詞に、知りたかったことを知る。



 知りたくなかった。

 こんな非常識な生き物が存在するなんて。



「緑と赤が戦う現場に居合わせるなんて、なんて間の悪い……」

 レオが頭を抱えた。


 

 やっぱり誰が見ても、あれは緑と赤の戦いなのだ。

 

 でも、緑と赤が戦うのって、何か意味があるのだろうか?




「仕方がないだろう。ヤツらにとっては天敵みたいなものなんだから」

 ナギがレオをなだめた。


「それにしちゃ、確率からいって最悪だ。赤は緑の十分の一もいないって聞くのに。

 よりによって、最悪なバトルに遭遇しちまった」


 何、それ?

 赤は緑の十分の一もいないってどういうこと?


 あのワケのわからなかった英語の論文にでも書いてあったのだろうか。

 

 見ていると、緑が長い尾を振り上げて赤の体に叩きつけていた。



「緑、頑張れー」

 マリアが声を張り上げて応援する。


 何、緑って正義の味方なの?

 っていうか人類の味方ってことになってるんだろうか?

 

 つらつら考えていると、レオまでマリアの尻馬に乗って叫んだ。


「そこだ。かみつくんだ!」




 って、あんた、闘犬じゃないんだよ。

 


 

 赤も負けてはいない。

 尻尾で緑の顔面を叩いて、その隙に後ろ足にかみついた。   




 二頭がもつれ合って転がる先にあの集落があった。


 

 近すぎる。

 このままじゃ、あの集落が巻き込まれてしまう。


 すぐ側に家があった。

 あの集落はこじんまりしたものだったが、小さな家がいくつもあったのだ。

 

 見ると、家々から先ほど会わなかった住人たちがワラワラ出て来て、戦いの現場から逃れようとしていた。

 小さな子供を負ぶった女の人もいれば、子供の手を引く男の人もいる。

 

 戦いの影響の及ばない方へ必死で逃げている。


 誰かがバイクを持ち出して、近くにいる子供を抱えて走り去った。

 前に二人座らせ、赤ちゃんを背負った女の人をタンデムして、五人乗りで避難する人もいる。

 


 慣れている。


 いつもの避難という感じだ。


 あの人たちにとって、こいつらの戦いは、時々ある災害のようなものなのだろう。


「いくら酸素があるからって、こんなに保護対象生物の多いところに住むのは大変ね」


 マリアがしんみりとつぶやいた。


「仕方がないだろう。その保護対象生物が酸素を作ってくれてるんだから」




 レオが他人事のように言うので、目を剥いた。




 このとんでもない怪獣が酸素を作るって?

 一体どうやって?


 信じらんない。



 そんなことより、二頭の戦いによって、そこにあった家があっけなく壊されることに衝撃を覚えた。


 環境保護局の後押しのある私たちでも、ここまで来るのに散々苦労したのだ。この地域へ重機を運ぶことなんかできないだろう。

 家を建てるには並々ならない苦労があるはずだ。

 それなのに、無神経極まりない二頭の保護対象生物がハチャメチャに戦うと、簡単に家が壊されてしまうのだ。




 殴り合ったり、噛みつきあったり、尾を叩きつけたりすると、屋根が吹っ飛んだり、壁が崩れたり、柱が折れたりする。

 倒壊した家まであった。



 こんな危険なとこに、住むのは大変だ。



 ミッションが成功すると、ここの人口が増えることが予想されるという。


 一体、私が参加しているミッションって、どういう内容なのだろう。



 あ、また家にぶつかる。



 投げ飛ばされた保護対象生物が家にぶつかって、壁と屋根が吹っ飛んだ。


 思わず保護対象生物という大層な名の怪獣に叫んだ。



「いい加減にして!

 暴れるなら、邪魔にならない場所でやってよ!

 ここに住んでいる人たちの生活はどうしてくれるの?

 地球は、みんなのものよ。

 自分たちの好き放題して許されると思ってるの?

 ゴメンですめば、警察は要らないの。


 分かったら、さっさとどっか行って!」





酸素濃度が人類に優しいブラックボックス地域は、保護対象生物の存在によって人類が住むには難しい地域となっているようです。

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