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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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行くべき道を選択する担当

夢の中で、旅は続きます。

絶体絶命になると目が覚めて、セーブ地点へ戻るナナは、良いように使われます。

 ふと見ると、壊れた看板に『関ヶ原』と書いてあるのが見えた。


 ここまで来るのに、陥没した道路が六箇所、亀裂の入った道が五箇所、崖崩れで埋まったトンネルが四箇所、崩れ落ちて渡れなくなった橋が十五箇所。

 

 もう、散々だ。


 道が壊れた箇所にぶち当たる都度、ナギとホシヨミは、両チームのデータ担当者と相談して迂回路を探った。


 リョウは、どうやっているのか分からないが、モバイルを使って、人工衛星で撮影した地上の写真を解析して、迂回路を探している。

 この旅の功労者は、間違いなくリョウだろう。


 彼がいなければ、エリートの極みみたいなナギだって、何にもできないだろう。


 

 それからも何度も失敗した。


 本来なら、それでお終いなのだが、何しろ、これは夢なのだ。

 翌日、その前から、つまりセーブしてあったところから再スタートする。


 どうやら、セーブ地点は名古屋らしく、名古屋から問題の橋までの道は、覚えてしまった。

 しつこく名古屋から出発し、途中のどこかで遭難するのだ。


 やり直すうち、ナギは、ワケが分からないなりに、私の意見を訊くようになった。

 ホシヨミが、私の意見を重視するよう進言してくれたからだ。


 失敗すると分かってる道を進んで破滅する辛さを思えば、ありがたいのだが、毎度毎度訊かれるのも辛いものがある。


 プレッシャーで胃が痛くなるし、マリアも睨んでるし。


 でも、何度かやっていると、私の選んだ道の方がスムーズに進めるような気がしたのだろう。

 終いに、分かれ道に着く度、どの道を選べば良いか選ばされるようになった。


 どうやらホシヨミとナギは、私に進路を決定する能力があると判断したようだ。


 そんなこと期待されても困る。

 夢だから先が読めるだけで、予知能力なんて大それたものは持ってないんだから。



「だ、か、ら、そんなに期待されたって、特別な能力なんてないんだってば」



 何度目かの交差点でぶち切れて叫ぶと、ナギが平然と言った。



「良いんだ。これは、誰かが決めないといけないことだし、それが君であっても、何の不都合もない。

 それに、ホシヨミは君がホームランは打たないだろうけど、ゲッツーもないだろうって言ってる」

「どういう意味?」

「つまり、最善な選択はできなくても、最悪な選択はしないってことだ。

 彼は、占いでも有名なんだけど、勘が良いというか、予知能力も多少あるんだ。

 その彼が、君が失敗することはないと言ってるんだ。

 僕も君に賭けることにした。

 考えてもごらん。このミッションではクリーンヒットは要らないんだ。

 失敗しないことこそ、大切なんだ」

「ナギが良くても、他のみんなはどうなの?」

「君が寝てる間に了解してもらった」



 寝てる間って、あんた、そんな嫌味な言い方しないくて良いんじゃない。


 ここんとこ寝不足で大変だから、特段用事のないときは、寸暇を惜しんで寝ることにしてるのに。




 ここで、とんでもないことに気がついた。


「マリアも同意したの?」


 嘘だ。あの女が、そんな馬鹿げた提案に同意するとは思えない。


「ああ、僕の判断に任せると言ってくれた」


 納得した。

 つまり、あいつはナギの気を引きたいだけなのだ。


 まあ、それでも良いか。

 横からとやかく言われるより、マシというものだ。

 

 せっかく、惰眠をむさぼろうと思っていたのに、こんなことに巻き込まれたら眠れやしない。

 あ~あ、睡眠不足に悩まされそうだ。


「ナナ、そこの交差点、どっちに進んだら良い?」


 ナギの事務的な声が聞こえた。

 

 ったく、どっちでも良いでしょ。

 失敗したらやり直せば良いんだから。




 だ、か、ら、眠らせてくれってんだ。


   



 気持ちよく寝ていると、マリアが大騒ぎして、寝ていた私を起こした。


 突然、ナビの画面が壊れたテレビの画面みたいになって、ブラックアウトしたという。

 ナビも通信機も使えない状態(いわゆるブラックボックス地域)に入ったのだ。

 こうなると、行き当たりばったりだ。


 通信もできないのだ。


 名古屋に着く前に三チームも失敗したのだ。

 ナビも通信機も使えない今の状況で、どっかのチームが失敗しないという保証はない。


 しかも、今現在、通信機さえ使えないのだ。

 救助を呼ぶこともできない。


 事故ったら、どうするんだろう?

 

 背筋に寒いものを感じた。




 前方に煙が上がっていた。


 規則的にフワッ、フワッ、フワッという感じで、人為的なものだ。



「どっか事故ったな」


 レオの暗い声が、私の推測を裏付けた。

 どこかのチームが失敗したのだ。


 でも、誰があの人たちの救助に向かうのだろう?



 ミッションに失敗したチームを救済するのは、このミッションを企画した環境保護局の仕事だ。


 でも、ここでは、ナビも通信機も使えない。

 もちろん、GPS機能も使えないから環境保護局が彼らを救助に来るのは、不可能だ。

 そもそも、環境保護局は事故そのものも把握できてない。




 我々ミッション参加者は、ひたすらミッションコンプリートを目指すしかない。

 でも、それは結構きついものがあって、ストレスが溜まる。

 重たっくらしいものは、なるべく気にしないようにして、行くっきゃない。

 腹をくくって、前へ進まなければならないのだ。


 運転担当のレオは、ひたすら悪路を走った。

 私たちの車だって、いつ爆発したり、道路から転落したりするかもしれないのだ。



 琵琶湖に近づくにつれて緑が増えているのに気が付いた。確かに道路はボロボロだが、酸素濃度が回復しているんだろうか。


 車に装備されている外気状況測定装置を見たマリアが叫んだ。


「すごいわ。ここって、酸素濃度が人類適応能力範囲内だわ!」


 慌てて表示を見て驚いた。


 ここまではレッドゾーンの数値を推移していたのに、ここではイエローゾーンに入っている。

 明らかに人類適応能力の範囲内だ。


 いつから、こうなってたのだろう?


 道路状況に気を取られ過ぎて、気が付かなかった。


 もしかして、ブラックボックス地域に入った段階で、こうなったのだろうか?

 だとしたら、酸素濃度とブラックボックス地域に何か関係があることになるんだけど……。

 

 人類適応能力範囲内ということは、車の窓を開けても大丈夫ってことだ。

 でも、計器の故障だったら……。

 開けたい。

 でも、怖い。

 でも、でも、でも……。



 ってか、勇気が湧かない。


 しばらくして完全にセイフティゾーンに入ると、平行して走っていたホシヨミが車窓にスケッチブックを示した。

 スケッチブックにはメッセージが書かれている。

 通信装置が使えなくなったら、この方法で相談しようと打ち合わせしてあったのだ。


「無事、酸素濃度が人類適応能力範囲内に入ったようです。

 ここから、別の意味で危険ゾーンになります」

 

 ナギが同じようにスケッチブックに書いて、二人はスケッチブックを使って会話をした。


「注意して進みましょう。できれば、会いたくない」

「それは無理でしょう。でも、ナナの判断に従えば、最悪な事態だけは回避できるはずです」

「了解。とりあえず、このまま進みますか?」

「ナナに確認を」

「ということなんだが、前進で良いんだね?」

 


 ナギが確認したので、黙って頷いた。


 ここで別の答えを出したら、その理由を言えって、ねちねち訊かれるに決まってる。

 


 しばらく走り続けて、車の窓を開けた。


 乾いた空気が心地よい。

 気のせいか、緑の香りが強い。


 そりゃそうだ。こんなに緑に囲まれているのだ。

 

 あまりの心地よさにうとうとしかける。

 風に頬をなぶられて、自然はこんなに心地よいものだったのだと再認識した。

 


 とろとろと眠るでもなく起きるでもない状況でまどろんでいると、もの凄い音がして、一瞬で目が覚めた。

 

 何、今の音?


「気を付けろ。雷だ。スコールが来る」

 ナギが遠くを指さしながら、叫ぶ。


 遠くの空に黒雲が見えた。

 雷鳴が響き、風が強くなる。

 みるみる黒雲が頭上をおおい、稲光が乱舞する。

 どこかに落ちたのだろう、ものすごい雷の音がした。


 大粒の雨がポツポツ降り出したと思ったら急に激しくなって、気がつくと滝のような雨のど真ん中にいた。

 まるで水中を走っているようだ。


 怖い。

 このまま、雨に押し流されるってことはないんだろうか。



 私たちの車は、三日目、つまり明後日ですが、水難によって消滅すると出ているのです。



 ホシヨミの言葉を思い出した。

 でも、あれって、三日目だって言ってたから、明日のはずだ。


 今日は、無事なはず。


 そう、大丈夫。


 あんなハンサムな男が死んだら、人類の損失だ。


 空に稲妻が走り、どこかに雷が落ちたのだろう。

 地獄の底から響くような地響きがした。



「ナナ、この場合、どっちに進む?

 右へ行くか、左へ行くか、それともこのまま直進するか」

「動いちゃダメ。様子が分かるまで待った方が良い。

 できれば、雨が止むのを待って。周りを確認するまで動かないで!」

 

 怖くて、思わず、そう叫んでいた。





ナギとホシヨミは、ナナを行くべき道の選択担当にしますが、惰眠をむさぼれなくなったナナには、良い迷惑です。

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