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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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名古屋からの旅の繰り返し

夢の世界では、死にそうになると目が覚めます。おかげで、同じところを何度も繰り返すことになります。

 食堂へ戻ると、マリアから、ホシヨミと何の話をしたのと、やいのやいの訊かれた。


 別に色気のある話じゃないと言うと、当然でしょ、あなたに色気があるとは思えないわ、と宣う。


 つくづく、嫌な女だ。

 今日も一緒に行動しなければならないと思えば、頭が痛い。



 でも、今日は昨日よりちょっぴり嬉しいことがある。


 昨日、マリアの化粧と誰かの整髪料かオーデコロンの臭いが狭い空間で鼻について、大変な思いをした。

 辟易したのは、私だけじゃなかったのだろう。昨日の夕食会議の最後に、ナギが化粧品を含む香料の使用を控えるよう言ったのだ。


 狭い空間だ。一理ある。と、リョウは簡単に同意したが、レオはマリアへの点稼ぎに走った。


「男はそれで良いが、女は困るんじゃねえか?」


 男たちは、マリアと私を見た。

 正確には、二人の化粧を見比べた。


「悪かったわね。すっぴんで」


 私が開き直ると、マリアが情けなさそうな顔を作った。


「私が悪いのね。私が、無香料の化粧品を使えば良いんでしょうけど、使ってる化粧品を変えるのって、女にとって、とっても大変なことなの。

 ごめんなさい」

 


 よよと泣き崩れる様が、わざとらしい。

 思わず、そんなに気にしなくって良いよって、言いたくなってしまうほどの名演技だ。


 でも、ナギはその上を行った。


「申し訳ないけど、狭い空間なんだ。協力してもらいたい。

 それに、君は化粧なんかしなくても、十分美しいんだ。化粧する必要なんかないだろう」

 



 出ました。女殺しの決め台詞。


 


 このエリートは、ときどき、どっちが本性か分からなくなる。

 きっと、軟派野郎の方が本来の姿なのだ。


 噂によれば、エリートって、恋人だってセックスフレンドだって選び放題らしい。

 中には食い散らかすヤツまでいるって話だ。

 っていうか、むしろそっちの方が多いとも聞くぞ。


 マリアの嘘泣きは簡単に見破られて、今日から、すっぴんの仲間入りだ。



 ザマあ。


 でも、今朝マリアに会って驚いた。こいつは、すっぴんでもきれいなのだ。



 面白くない。どうせ。私とは違う人種なんだ。


 だが、今日から、あの臭いから解放されると思えば、ナギもたまには良いことをしてくれる、と自分を慰めた。



 

 それに、ホシヨミはマリアを相手にしなかった。

 その点だけは、マリアに勝った気分だ。



 バンザイ。


 こんな私をケツの穴の小さいヤツと呼んでくれ。




 朝食後、短い打ち合わせをすませて各チームが出発して行った。

 

 道路状況が想定以上に酷いのだ。

 後になるほど、先に走った車のせいで道が悪くなる。

 なるべく早く出発したいと思うのは、どのチームも同じだった。


 だが、昨日の今日だ。どこも入念な点検も施した。

 でも、点検で遅れたせいで道路事情が悪化するのは、避けたいのも正直なところだ。


 我先に出発するチームを後目に、ホシヨミはナギに相談を持ちかけた。

 多少遅くなってもさほど影響がない、と判断したのだろう。


 ホシヨミは、私たちと一緒に行動したいと申し出たのだ。



 充電器の問題は解決したが、これからもいろいろな問題が起きることが予想される。

 実際、過去三回、同様のミッションが行われ、三回とも失敗に終わっている。

 助け合いは必要なのだ。


 ナギもホシヨミと同じ判断をしたようで、二台の車は協力して旅することになった。



 車に乗るとき、ホシヨミが手を振ってくれた。

 この夢で初めて味方といえる人と行動を共にすることになったのだ。

 胸の奥に暖かいものを感じた。



 今日は、私が助手席に、ナギとリョウとマリアが後部座席に乗っている。

 道路状況が想像以上に悪いので、迂回路を調べるため、ナギとリョウが並んで座ったのだ。



 ワーイ。ナビで遊べるぞ。


 と、喜んだが、琵琶湖周辺は、ナビも通信機も使え得ないことが判明した。


 くそっ、面白くない。


 二台の車は、連なって走る。

 ウチのチームの車の後ろをホシヨミのチームの車が続くのだ。


 しばらくは、昨日と同じような荒れ地が続く。

 ゴーストタウンをやり過ごし、耕作放棄されたかつての田畑を見送った。


 車は完全な密室状態だが、景色から判断する限り、空気が乾いていて、気温が高いように思えた。


 実際、車に装備されている外気状況計測機械のメーターを見ると、酸素濃度が薄いのはもちろんだが、気温が高く、動植物の生育に適しているとは言いがたい数値を示していた。


 いわゆるレッドゾーンだ。


 

 昨日に引き続き、道路が道路として機能していない。


 迂回路を探って走り続けた。



 昨日より安心感があるのは、ホシヨミのチームと相談できることだ。 



「ナギ、なんか既視感デジャヴ感じない?」

「どこも似たような景色だからね」


 マリアが猫なで声で訊いて、リョウと迂回路の相談をしていたナギが上の空で答えた。


「マリアの言うとおり、どっかで見たような気がするな」

 ハンドルを握ったレオもマリアに同意する。



 そりゃそうでしょうよ。ここを走るのは、もう三回目なんだから。


 既視感なんかじゃない。本当に、そのまんま『見た』のだ。




 最初は、名古屋を出て直ぐ交差点で右折したら、その先に崖があって、あえなく転落。

 ジェットコースターも真っ青な勢いで落っこちた。


 落っこちる怖さよりマリアの絶叫が凄まじくて、あの声で目が覚めたといって良い。


 夢から覚めた私は、翌日、名古屋から出発するところから再スタートした。


 問題の交差点を左折してやり過ごし、五分ほど走ると道がなくなっていた。

 少し後戻りして道を探す。かつて道があったであろう道なき道を走ること15分。大きな川にぶち当たる。人工衛星からの写真で橋を探してひたすら走り、ようやく渡れそうな橋を渡っている途中、橋が落ちて一巻の終わりとなった。

 ミシミシという嫌な音がしたかと思ったら、アッと言う間に橋脚が折れて、橋桁がずれ落ちたのだ。

 セメントや鉄が砂ぼこりのように舞い上がり、目の前が見えなくなって、やっと視界が開けたと思ったら橋桁が消えていたのだ。


 マリアだけじゃない。

 レオやリョウまで助けを求めて叫んだ。


 ナギは、声も出なかったのだろう。腰がぬけたみたいで、口をパクパクさせるだけだった。


 そういう私は、「これは夢。夢なのだ」と、ひたすら呪文みたいに唱えていた。



 目が覚めたら、現実リアルの私はベッドから落ちていた。


 で、三度目の正直が今日なのだが、それにしても、いい加減嫌になってくる。


 三度、名古屋からスタートしたのだ。

 だが、問題の交差点で左折を主張しても、マリアは、右折を主張する。


 右の方がパッと見、マシだからだろう。

 

 そっちへ進むとゲームオーバーだって言っても、相手にしてもらえない。

 こんなことなら、予知能力があるって吹いておけば良かった。

 このまま行けば、明日また、名古屋からスタートすることになる。


 東京スタートの二の舞になることが予想され、うんざりだ。



 ただ、ナギは、私の必死さに何か感じたのだろう。

 ホシヨミと相談して、私の意見を聞き入れてくれた。


 

 ホシヨミと同行できて本当に良かった。


 おかげで、マリアがヘソを曲げて、マリア親衛隊長のレオがネチネチ嫌味を言った。



「あ、その橋ダメ。壊れるから!」


 問題の橋の手前で、思わず叫んでいた。






そっちへ行くと終わるのが分かっていても、マリアを始めとする周りの面々に聞き入れてもらえないのです。そのうち、だんだん耐性が付いてきて、死にそうになっても動じなくなるでしょうか。

頑張れ、ナナ!

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