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これは夢、夢なのだ。  作者: 椿 雅香
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藤島先輩と彼女

ナナは、現実リアルで仲の良い藤島先輩の彼女と初めて会って、恋愛について考えます。

 夢でちゃんと眠れると爽やかに目覚めることができるらしい。

 久しぶりの安眠に、私はご機嫌で登校した。

 今日は講義もないし、一日、じっくり勉強できる。昨日みたいに、眠くもないし。


 例によって、昼ご飯、六回生に誘われた。


「今日は爽やかな顔してるね。昨日、ちゃんと眠れたの?」

 森田先輩が目を和らげて訊いてくれた。

「はい。しっかり寝ました。

 向こうで爆睡したので、本当に夢も見なかったんです」

「ということは、夢を見ないで眠る方法って、夢の中で爆睡するってことになるんだね。

 この前の難問が解決したってことになる」

 

 

 山下先輩が先日の話にこだわるので笑えた。

 

 そういうことになるんでしょうか。でも、確かに、おっしゃるとおりかもしれませんね。

 と、笑いながら答えた。

 

 ひらめいた。


 そうだ。そういうことなら、夢の中では、できるだけ寝るようにしよう。

 って、夢の中で寝るって、どうよ?


 

 馬鹿話していて気がついた。六回生の中に、藤島先輩の姿がないのだ。


 珍しいこともあるものだ。

 藤島先輩が研究室にいないって、どうしたんだろう?

 


 私の気配に気が付いたのだろう。

 山下先輩が教えてくれた。


「藤島は、亜季ちゃんが来てるから」

「亜季ちゃんって?」

「藤島の彼女」


 私は、この瞬間ときまで、藤島先輩の彼女の名前も知らなかったことに気が付いた。

 もちろん、上の名前も知らない。


 私にとって、藤島先輩の彼女は、あくまでも『ウチのヤツ』だ。

 

 何となく拍子抜けしたが、別にどうってことない。

 藤島先輩は彼女のもので、私は利害関係を同じくする同士なのだから。

 彼女がいようがいまいが、私と藤島先輩の仲は、それ以上でもそれ以下でもない。


 森田先輩や山下先輩が気を遣ってくれるのが分かった。

 でも、気を遣ってもらうと、かえって気分が悪い。

 うん、何故か面白くなかったんだ。

 


 3時に自動販売機のコーヒーでも飲もうと、席を立った。

 財布を片手に階段を降りると、階段を上ってくる二人連れに気が付いた。

 

 向こうも私に気が付いたようだ。

 


 藤島先輩と彼女だ。



 こんなところで会うなんて。


 三人とも驚いて短い沈黙があった。

 それから、ニッコリ笑って、社交辞令の場となる。



「七瀬さんね?」

 少し高めのハスキーな声。

「七瀬さん、こっちがウチのヤツだ」

 藤島先輩が紹介してくれたので、軽く頭を下げて挨拶した。


「はじめまして、七瀬です。

 藤島先輩には、いつもお世話になってます」 


 そう、先輩におごってもらってるってことは、この人のお世話になってるってことになるのだ。

 いつも、おごってもらってます。ごちそうさまです。


 もう一度、心から頭を下げた。



「とおるくんがお世話になってるそうで、ありがとう」


 藤島先輩の『ウチのヤツ』は、微笑みを浮かべて首を傾げた。


 何となくその笑顔が固いように感じたのは、考えすぎだろうか。

 


 研究室へ向かう二人とすれ違い、別棟の学生生協購買部の自動販売機に向かった。

 紙コップに注がれたコーヒーを一口すする。



 彼女が、藤島先輩のウチのヤツ――亜季先輩――だ。

 確かに、顔は私の方が勝ってるかも。

 スタイルは、藤島先輩が言ったとおりバッチリだった。

 で、二人は、研究室で他の六回生に挨拶して、それから、どっかへ行くのだろう。


 そう言えば、前に先輩がラブホテルの話をしてくれたことがある。

 街の東部のホテル街の某ホテルがお気に入りで、部屋がゆったりしていて大きな鏡があるのだとか。

 確かそういう話だった。

 

 使うならあそこにしなさい、とも言っていた。


 こっちは、そんなもの興味なかったし、第一、一緒に行く相手もいない。

 

 あのときは、彼女が訪ねてきた直後だったのだろう。

 藤島先輩は遠い目をしていた。

 心は彼女を追っていたのだろう。



 きっと、二人はこれからあのホテルへ行くのだろう。



 私の周りには、恋人とセックスをしている人もいれば、そういうことに縁のない人もいる。


 吉田伸子ちゃんなんか後者だし、上野麗子なんか前者だ。上野麗子なんか奮ってて、彼氏を別の女性と争ったらしい。

 というか、上野麗子と彼氏が、まだ本格的に付き合い出す前に、彼氏と学部が同じ女性が熱を上げて迫ったって話だ。あの三角関係には、セックスもありだったと聞く。

 結局、上野麗子と彼氏がくっついた。


 上野麗子のことは好きだし、自分の生き方に徹底して責任を持つ厳しい態度に尊敬さえしている。

 ただ、同じ年頃の女として、とても真似ができない。


 戦いに敗れた彼女はそれからどうなったのだろう?

 学部が違うので稀にしか会わないが、可哀想な気がする。

 結局、彼氏は、彼女とも上野麗子とも関係を持ったことになる。

 彼氏が優柔不断だったせいで、あんな悲劇が起きたのだとしたら、彼氏のことを責めたくなる。

 でも、三人が納得してるなら、私がとやかく言うことじゃない。


 恋愛というのは、幸福感に舞い上がることもあれば傷つくこともある。

 少なくとも必要以上に人を傷つけないようにすべきだ。


 上野麗子からことの顛末を聞いて思ったのは、相手を好きだとか尊敬できるとか、そういうことと、フィジカルな恋愛は別の次元の話だ、ということだ。


 私の周りにセックスフレンドのいる人は、いるのだろうか?

 

 そういう類の話は、吹聴することじゃないから分からない。

 分からないということは、いないということになるのだろう。

 うん、いないんだ。きっと。


 普通の付き合いとセックスは別物だという考え方からすれば、私自身がセックスに対して抵抗があったとしても、私がその事実を知らず、日頃の付き合いに支障がなければ、『ない』ことになる。

 

 つまるところ、全然オッケーなわけだ。



 藤島先輩も同じだ。確かに藤島先輩は好きだ。

 だが、彼女と関係を持っていることをオープンにするってのは、私の倫理観では抵抗がある。

 でも、知らなければ、それで良いのだ。

 私と藤島先輩の間にあるのは、人畜無害の暖かさだけだ。

 藤島先輩に彼女がいても、その彼女と藤島先輩が何をしようと、私が気が付かなければ、それは『ない』のだから。




ナナは、奥手でセックスに対して臆病な設定です。

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