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同窓会

作者: 芥屋 葵


中学を卒業して10数年…いい思い出も無いし、連絡をとっているのも数人、その数人さえ社会人になってからSNS経由で連絡をとりはじめたような感じだ。


いい思い出が無いというのも、女子グループの中でいじめに遭っていたからだ。その連鎖は一部の男子生徒にも伝染し、学校生活はなんとか過ごせたものの、いい思い出とはいかなかった。


その分高校は楽しくできたし、良くも悪くも普通の生活を過ごしていた。


社会人になり、地元を離れ遠方に出た私は人生が待っていましたと言わんばかりのガラリと変わった生活になった。


30手前になって、連絡を取っていた同級生の一人からグループラインへの招待がきた。

何気なしに参加したグループは“同窓会のお知らせ”という名前だった。


参加する気はあまりなかったが仲良くしてくれていた数名のプッシュもあり一応有給希望を提出したところ、すんなり許可が出てしまい参加することになった。


今がはじけ飛んだ生活をしていてもやはり思い出の引き出しの中にあるのは億劫なものが多く行く足取りは重かった。


地元に帰る新幹線の中はいつも聞く音楽も騒音だったし、懐かしいはずの方言さえも好ましくは感じなかった。

1日実家でゆっくりし、翌日が同窓会

翌日、いつものようにメイクをし会場に向かった。

受付を済ませたが、受付の人の視線も気になって仕方がなかった。

行くと決めたクセに話すのは極力避けようとしていたのが私だ。


私の中で仲がいいという部類にカテゴライズされた友人にはすんなり10数年ぶりの挨拶もこなせた。

後は億劫そのもので、普段吸えない煙草を吸うのを理由に度々席を外した。


「お前今日無理してない?」

ビクッとしたがその声の持ち主は嫌いじゃないとすぐにわかったのである程度の作り笑顔で対応することにした。

「久しぶり、無理してないよ。楽しみだったんだから~」

我ながら無理のある語尾だ。

「おかえり」

「ただいま」

話の順番がまるでなってないけど、初めてでは無いので受け答えもお手の物だ。

「嘘つけ、お前の無理してるのは見てきたからわかるっつーの。見た目しか変わんねぇのな」

「失礼な、これでも大人になりました」

「はいはい、綺麗になりましたね」


見透かしたように言ってくるこいつは小・中学校の同級生でいじめられているのを知っていてもお構いなしに私に話しかけてきた奴。

現にいまの状況だってわかりきっているようだった。


この会話にデジャブを感じたのはいじめ真っ只中の頃に

「大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」

「無理してるだろ」

「そんなことないよ~」

「嘘つくなよ」

といったほぼ同じ会話をしたのを記憶している。

思えば核心つかれてあいつの前で泣いたっけ。


同窓会中は嫌でも何人も話しかけてきたが、あいつは察していたのか予防線を張っていたようだった。

おかげで席か喫煙所のみの動線だけで半分の時間が過ぎた。


「お前結婚してないの?」

「嫌味?」

「素直に聞いてるだけじゃん、根暗」

「えーえー、根暗ですからね、結婚なんてご縁がありませんよ」

「でも今楽しんでるんだろ」

「また嫌味?」

「女に余念がない」

「なにそれ」

学力は低めのグループに所属していたあいつが知っていたことばだとは、と思ってクスッとなった。


「言ったとおり、文字通り!環境がいいんだろうな、綺麗な女性になったって感じだよ」

「改まっていわないでよ、気持ち悪い」

「失礼だな、根暗」

「はいはい、失礼はお互いでした!」


「そういうあんたはお幸せそうで?」

薬指の指輪に話題を変える。

「上手くいっているかというとそうでもないんだなぁ」

「結婚とは…」

「「墓場」」

「やっぱりそうなんだ?」

「俺はな。人によってはいいものかもしれないけどな」

「なんで結婚したの?」

「ここは田舎だから、してないと文句いわれる」

「それだけ?」

「あと見栄」

「見栄ねぇ…田舎も大変ですね」

「お前もその田舎の血だからな」

「でも私を見てそう思う?見栄とか見栄とか見栄とか!」

「それは無い、俺もお前と外に出てたら違ったかもなぁ…」

「後悔ですか旦那さん」

「多少は?」

「なんで聞くの」


「俺さ、進学の時から後悔してるかも」

「そんなに前から?」

「中学のあの時、お前のこと近くで助けるって約束したじゃん」

「そんなことあったね」

「覚えてないだろうけどな」

いいや、ちゃんと覚えている。あの頃の私には勿体無いくらいの光みたいな存在だったから。むしろ覚えていたことに感動さえ覚えた。

あいつに恋心なんて抱いたことは全くなかったが…。

嬉し恥ずかし、そんなこんなでお酒が進んだせいで酔いが少し回っていた。


「お前さ、この環境で飲んでても美味しくないだろ?」

また急に話の方向が変えられ突然切り込んできたあいつはおふざけモードではなかったのが直ぐにわかった、次にくる言葉もわかる気がする。

そういって自分の口元に指を当て

「内緒」

そういってあたかも喫煙所に誘うように、荷物は脱いだ上着で隠して

私を連れ出したが行き先は喫煙所では無くタクシー。


会場から出たその足は軽かった。

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