僕がちびマになった日の話~その2
全部で3話です
僕がちびマになった日の話~その2
天狐の夫婦side
時は少しだけ遡る。
聖域を安定させ、なんとか天使が2体まで増えた所で彼等はもう充分だろうと判断して、この世界ミュールフェリスから撤退する事を決めた。
「では女神ミュールフェリス。私達はこれで失礼しますね」
「聖域の建物は好きにしてくれ。畑と果樹園の管理にゴーレムを何体か残しておくが、少しでも力が戻ったら自分の配下の精霊か、天使に交代するように。ゴーレムは必要無くなった時点で土に返る」
「分かりました。今後、頑張って育てます」
「まぁ頑張れ………無理だと思うけどな」
「あなた……………では、私達はこれで」
『待て!』
「!?我が君?」
『その世界を安定させるには世界樹だけでは間に合わないと判明した』
「そんな!まさか!?」
やっと帰れると思った矢先のまさかの話に天狐の夫婦はがっくりと項垂れた。
「今度は何をすればよいのですか?」
だが何時までも項垂れたままではいられないと天狐の青年が問うと
『地上に降りて、子供を育てろ』
「子供なら聖域で産んだ方が良いのではないですか?」
わざわざ地上に降りて産む意味が分からないと、天狐の女性が問えば
『産む必要はない』
「?どういう意味ですか?」
『すでに子供は生まれている。もっとも忌み子として捨てられてしまったがな』
「忌み子ね………」
「その子供を私達で育てろと言う事ですか?」
『そうだ。その子供は新たな天狐。本来ならそこの女神ミュールフェリスが守るべきなのだが…………まだそこまで力は戻っていないだろう』
女神ミュールフェリスを見ると先程の夫婦以上にがっくりと項垂れていた。
それこそ地面に埋まるぐらいにがっくりと。
「天狐なのに忌み子ですか?」
『世界樹と同じだ。誤った認識故のな』
思わず納得してしまった夫婦。
ますます落ち込む女神ミュールフェリス。
『とりあえず私の加護を仮に能えておいたので、辛うじて生きてはいるが、真名がないので猶予はない』
「真名がないって!名前すらも与えられてないのですか!?」
『そうだ』
「そんな酷い」
『とにかく地上に降りてその子供を育てろ。その子供が独り立ち出来る日まで』
「仰せの通りに」
『頼んだぞ』
新たな使命に天狐の夫婦はすぐさま動き出した。
「子供の居場所は?」
「…………我が君の加護をうけてるから………見つけた!行こう」
「はい。では女神ミュールフェリス。また後程」
「よろしくお願いします」
世界樹のおかげでなんとか存在が保たれた女神ミュールフェリスには、夫婦に頼るしか手がなかった。
天使が生まれ、そのおかげで天狐も生まれた。
少しずつではあるが間違えなく、この世界は再生への道を歩んでいる。
あとは信者が増えて神殿が建てば、もっと安心出来るのにと女神ミュールフェリスは思うのだった。