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アラサー勇者の婚活録  作者: 水無月
Mission 3
17/27

2

本日二話目です。



「んー…。やっぱりさっきのところが一番かしら!」


 一人宿屋を探していたライラは、十数件確認したのちにようやく一つの宿屋に目星をつけた。大通りから少し外れたところにあったが、静かでゆっくりできそうな場所だ。宿屋の一押しは、ゆっくり浸かれる大型露天風呂、というものだった。

 ライラは露天風呂、というのがなんなのかいまいち分からなかったが、大型、というには大きい風呂なのだろうと考えている。


「貸し切りとは難しいけど、広いならゆっくりできるわよね」


 大通りから少し離れているせいか、少しだけ安い。これならイヴァンヘルノが文句を言うこともないだろう。ライラはそう考え、店の扉を開いた。


「ごめんくださーい」

「!?」


 ライラが入った途端、店の人だろうか。ふくよかな男性がびくりと肩を揺らした。


「宿泊希望なんですけど」

「え、あ、あぁ…、すまないね、何泊だい?」

「とりあえず一泊なんですけど」


 若干挙動不審な男性をライラは不審に思うも話を続ける。すると二階からガタイの良い男性が降りてくる。


「店主、すまないが…客か?」

「あ、は、はい、宿泊を希望されておりまして」

「…問題ない。普段通りにしてくれ」

「ありがとうございます!」

「…?」


 ライラは二人のやり取りを見てさらに不審に思う。降りてきた男性はどう見ても店側の人ではない。だというのに、どうして店主がその男の言うことを聞くのだろうか。

 そんなライラの視線を感じたのだろうか、男がにこやかにライラに話しかけてくる。


「お嬢さんはお一人で?」

「…えぇ。貴方は?」


 ライラの警戒した様子に、男は苦笑を浮かべた。


「そう警戒しないで、と言っても難しいですよね。私はさる御方の護衛で。その為、少しだけぴりぴりしているんです、店主殿も」

「そうですか」


 ライラはそう言いながらも、男の一挙一動を観察する。そして、王国の軍団長クラスの強さだろうと考え、一気に警戒を解いた。彼程度であれば、ライラの敵ではない。

 しかし男はそうは考えなかったようだ。いきなり警戒を解いたライラに、面白いものを見たような視線を向ける。


「失礼ですが、貴女のようなお綺麗な方がお一人で? 他に誰かいないのですか?」

「!! 綺麗!? そ、そんなっ…」


 ライラは滅多に言われない(滅多に、というだけで全く言われないわけではない!)言葉を送られ、つい体をくねらせて照れる。

 一瞬で様子の変わったライラを見た男は、さらに面白そうにライラを見た。


「ちょっと、目的があって旅をしているんです」

「それはそれは……。しかし、危なくないですか?」

「大丈夫です、旅に離れていますし、少しは心得もあるので」


 ライラは内心でガッツポーズをした。あら、これ良い感じじゃない?と。男は筋肉流々といいわけではなく、しなやかな筋肉を持っていそうだった。顔は濃い目で、ちょっとだけライラの理想とは外れていたが、それでも悪くない顔立ちだ。


「貴女のような女性が…。旅はどれくらい?」

「まだそんなに…。町は二つほど行ったんですけど」

「伺っても?」

「えっと…ランバーとモーラムです」

「ほう…ということは王国の方ですか?」

「えぇ。貴方は?」

「名を名乗っておりませんでしたね。私はデュークです」

「デュークさん…」


 ライラは本格的にいい感じじゃない?と考え始めた。ここまで自分のことを聞いてくれる人は今までいなかった。もしかしたら、デュークもライラに興味があるのではないか。


「デューク」

「! マックス様!」


 すると、もう一人男性が階段を降りてきた。金髪の柔らかそうな巻き毛で、線の細い人だ。中性的な美しさを持っている。少なくとも、十把一絡げのライラよりは格段に美しいと、イヴァンヘルノがいたのであれば思うことだろう。


「もうよろしいので?」

「あぁ、心配かけてすまない…そちらは?」

「旅の方で…失礼、お名前は?」

「あ、ライラです」

「ライラ嬢。私はマックスです。ここには療養に?」

「そうです、旅の疲れを取ろうと」

「そうですか。私たちもそうなのですよ」


 マックスと呼ばれた青年は、柔和な笑みでライラに返す。その笑みは、女の子のようでライラの頬が一瞬熱を持つ。


「す、数日は滞在するので、もし食事でも…」


 ライラの申し出に、デュークはマックスを見る。マックスはそれに頷いた。


「私たちで良ければ、ぜひ。旅の話を聞かせてください」

「っ喜んで!」


 三人のやり取りを見ていた店主は、ライラの部屋を案内する。一人用だがそこまで狭くない。掃除が行き届いているのか、古くても清潔だった。

 何日かぶりの布団に、ライラの表情は明るくなる。野宿が辛いというわけではないが、やはり屋根のある場所で寝るほうがずっといい。

 今日の夕食は宿屋で食べるように手配したため、まだ時間はある。それならば。


「うん! 早速露天風呂っていうものに行こ!」


 そしてライラは早速準備をして露天風呂に向かった。







◆◇◆





「……マックス様、よろしいのですか?」

「ライラ嬢のことか?」

「えぇ…。いくら何でも、女性の一人旅はおかしいです。確かに、あの足運びからすれば多少の心得はあるようですが…」

「デューク。いくらあの人たちでも、女性を使ってまで事を成そうとするはずはないだろう」

「マックス様、それはいささか楽観視しすぎでは」


 デュークの言葉に、マックスは面白そうにくすくす笑った。


「デューク、お前の心配性は相変わらずだな」

「…マックス様が楽観的なせいでしょう」

「それは悪いことをしたかな」


 未だくすくすと笑うマックスに、デュークは居心地悪そうに居住まいを正す。


「…今回私がここにいることを知っているのは、数名だけだ。もし今回も何かあれば、彼らの内の誰かだろう」

「それは…」

「…デューク、私はもうたくさんなのだ」


 マックスの力強い言葉に、デュークははっとしてマックスを見る。


「もう、権力だけの時代は終わった。だが、今なおそれに縋ろうとする輩は多い。出来るなら、私はそれを一気に駆逐してしまいたい」

「…わかっております。だから俺がここにいるんですから」

「面倒をかけるな」

「いいえ、そのようなことを仰らないでください」









「ライラ、戻ったぞ…? ライラ?」


 イヴァンヘルノがライラの気配を辿ってやってきた宿屋の部屋に、ライラの姿はなかった。荷物などはあるから、部屋に間違いはないだろう。


「? どこに…」


 そして気配を辿りながらふよふよと浮く。


「む、ここか?」


 そしてイヴァンヘルノは外に出た。蒸気がすごく、目の前が真っ白になる。どこからか鼻歌も聞こえる。気配からして、ライラ一人だけのものだ。


「ライラ? おるのか?」


 そして、イヴァンヘルノは体を洗っているライラの目の前に姿を現した。


「―――へ?」


 体を洗っている、つまり、ライラは裸だ。そして洗っている真っ最中ということは、湯にも隠れていない。


「……何してんの、イヴァン」

「え、あ、いや、その、ライラを…」

「とりあえずさ」


 ライラの目が剣呑な光を帯びる。


「お、落ち着け、ライラ、すまない、悪気はなかったのだっ…」

「うん、うん、だから?」

「だからな、その、持ったモノを…」

「―――出てけーーーーー!!!!!」


 パッコーーーン


 ライラの投げた桶はイヴァンヘルノの霧の体を通り抜け、岩に当たって砕け散る。


「すまないすまないすまない!!」


 イヴァンヘルノはかつてない全速力でその場を後にした。




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