月の亡き夜
ブログに書いたのを移しただけですし、これだけ読んでも分からない事があるかもしれませんが…
詳しくは「神人な恋人」をご覧下さい。
「ねえ見てよ青龍。星があんなに綺麗よ」
巫女装束を纏った彼女は決まって言う。
「今日は朔よ。だから、月の光に邪魔されることなく星が光るのよ」
これでもう何度目だろう。
毎夜毎夜、夜空を見に行こうとせがむ彼女に俺はついて行く。
もう、習慣になっている。
「聞いているの?もう…そこに居るんでしょ?」
俺は常人には見えない。
今は、どんなに霊力の強い奴でも分からない。
―――はずなのだが……
「分かってるわよ。早くしてよ。変な人に見られるじゃない」
神社の境内の裏の川原。
もちろん誰が通ってもおかしくない。
でも、普通の民人が通っても俺は見えない。
意味のない事を……
「ほら、はやく」
いつもいつも。
俺はとことんこいつに甘い。
「私相手に隠れようなんて、百年早いわ」
だから、お前は命限りある人間だ。
百年なんて言葉、易々と使うな。
「百年後…お前は此所にいるのか?」
「え?」
俺はすでに三百年は生きているだろうか。
ヒトとカミでは次元が大きく違う。
それをこいつは何も無いかのように言ってのける。
「分かんないわよ、そんなこと」
夏の夜風が、吹く。
「でもね…私は何度でも生まれ変われるわ。青龍、あなたと会うためにね」
「無茶苦茶な言い草だな」
「あら、私達巫女は無茶苦茶じゃなきゃやっていけないわ」
ほら、またとんでもないことを…
「確かに…お前らしいな」
ため息を一つ。
それさえも払うように、彼女は笑った。
「好きよ、青龍」
「見て!!ほら、あれ!!」
彼の巫女にうり二つの少女。
名は、沙羅。
「青龍…?」
「分かっている…」
「今日は新月だよ。星が綺麗」
同じ声で……
同じ言葉を……
「聞いてる?ほんっとに無表情なんだから」
「……聞いている」
「じゃあ何か答えてよ」
「俺は月の方が好きだ」
「………私に文句言ってるの…?」
きつい目で睨んでくる。
でも、直ぐにゆるむ。
そんなところも似ていて。
「いいじゃない。私も月は大好きよ」
でもね、と続ける。
「あそこには、大事な人が居るような気がしない?」
また突飛なことを言い出す。
変わらなく。
「何考えてるの?」
「五月蠅い」
「まあっ!!失礼ね!!」
「……………」
本当に似ていて。
もう、絶対に離さないと。




