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天使に生まれ変わりまして  作者: 飴屋大吉
一章 王女と妖精のラブロマンス
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1話  森と山賊と赤ん坊





「───……え、森?」



 林か、森か。いつの間にか、木々に月光が遮られている場所へ僕は降り立っていた。

 いや、飛んできた訳ではないから降り立ったと言うのはおかしいかもしれないけど、今はそれどころじゃないので置いておこう。


 瞼越しにも眩しかった強烈な光が見えなくなって、恐る恐る目を開けたら、木と土の匂いが濃い森林の中。傾斜があるのでおそらく山の中だろう。


 ───ここは、どこだろう?

 ヒトセ達の様子からして、普段起こり得ない事が起こったんだろうなと言うのはわかったが……。なんか、イレギュラーばっかり引き起こしてるな、僕。


 仕事を始める前からこんなので大丈夫なのかと不安になるが、自ら望んでこうなってる訳でもないしこれはどうしようもない。ので、ため息を一つ溢してそれは一旦頭の隅に追いやった。


 今は一先ず、ヒトセが言ってた帰り方を実践してみよう。ここが何処かも分からないし、説明もまだ全部は聞いていない。

 何より夜の森にポツンと放り出されたのは怖い、凄まじく怖い。幽霊も去ることながら熊とか出そうで超怖い。現在進行形で全身が緊張でガチガチになってる。



「聞いた方法ですぐに帰れたらいいんだ、けどぁっ?!」



 心細さを紛らわす為に一人ごちていると、身体が強張っていたせいか背中に力が入り、半ば存在を忘れかけてた翼がブワッと大きくなって全身を包む。


 ヒトセと出会った時と違って視界は確保されているが、やっぱり邪魔である。あと先程は明るい場所に居たので分からなかったが、薄っすら光ってて凄く目立つ。


 夜更けの森でこれはいかんだろうと、さっさと帰るべく天上界の巨大門を思い浮かべた───その時。


 後方からパキッと、枝の折れる音がした。

 自分以外には誰もいないと思っていた空間に発生したそれに、僕は勢いよく振り向く。



「ひぇっ、こ、こっち見た!」


「てめぇが音立てるからだこのバカ野郎っ!」


「な、なあ、それよりアイツなんなんだ?天使か?まさか魔族じゃねぇよな…」


「………………」



 振り向いた先、十数メートル向こうには、腰を抜かしてる男が一人、少しへっぴり腰だが油断なく剣?を構えている男が二人、無表情でこちらを見ているだけの男が一人、計四人の男達がいた。


 ………全然、気付かなかった。どうやら夜の森で一人、ではなかったらしい。

 相手方の身なりが少々薄汚れているというかこう、山賊っぽいのがちょっと気になるが、人には変わりはない。………人、だよね、多分。


 見なかった事にして帰る選択肢もあったが、帰還の際にまた強烈な光に包まれる等の超常現象を起こして、それを目撃されてしまうのはちょっとダメなんじゃないかと思い、やめた。

 来る時に光ったから、帰りも光ると思うんだ。写真を撮られてSNSにあげられたら困る。とっても困る。


 既に翼を見られてるので手遅れな気がするけど、これはそう言う玩具だって伝えたらなんとかなる、んじゃ、ないかな。

 服もこう、コスプレ、とかなんか言い訳は出来るはず。


 深夜の森で背中に翼を着けて遊ぶコスプレイヤー………いや、ダメか、怪しすぎる。



「あー、えっと、その…こんばんは。こんな格好で説得力に欠けるかもしれませんが、怪しい者ではない、ですよ…?」



 自分で言ってて「(いやどう控え目に見ても明らかに怪しい)」と思うが、取り敢えず悪意がない事を示せば弁明の余地もあるだろう、とその場で身ぶり手振り、男達へ話し掛けた。

 すると、暫く訝しんでいる様子であったが、地面に座り込んでいた男が立ちあがり、剣を構えていた男達はその剣先を地面におろした。

 それにホッと胸を撫で下ろして男達の元へ、警戒させないよう慎重に、でも剣が怖いのである程度距離を保てる位置まで足を進める。


 無表情な男が何も反応を返してくれないのが気になるが、他の三人を納得させられさえしたら何とかなるだろう、と言うかなってくれ!と嫌な汗をかきながらゆっくりと近付く。

 山賊風の三人は丁度集まって何やらこそこそと話している所で、剣を仕舞う様子はないが、やられる前にやれと襲い掛かって来そうな様子もなかった。


 ………………あれ?待てよ、剣?このご時世に剣?


 顔の造りからして欧州かな?と判断をつけたのだが、それなら銃じゃなかろうか。抜き身の剣など持っていたら流石に捕まるだろう。


 何かおかしい、と足を止めた。そして男達とそこそこの距離を保ったまま、幾つかの質問させて貰おうと口を開いた。



「あの、少しよろしいですか?今、西暦何年です?」


「んあ?せい…暦?なんだそりゃ。今はカルラ暦835年じゃなかったか?」


「ああ、その筈だな」



 カルラ暦。とは。

 ………いや、ないよね、地球の歴史にそんな暦はなかったはず。


 もしや過去に飛ばされた?と思っての質問だったのだが、そもそも僕の知ってる地球ではない可能性が浮上した。と言うか本当に違う気がする。

 例えば、そう、今更過ぎて「いや、先に気付こうよ自分」となるのだが───


 今喋ってるの、何語だろう?


 問題なく会話出来るし何て言ってるか解るからスルーしかけちゃったけど、よくよく聞けば聞いた事のない発音だ。強いて言えばドイツ語に申し訳程度に似てる気がする。


 これはミハイルさんに幾つもあると聞いた世界のうちの、一つなのだろうか。

 確証は持てないが……けどまあそうだと分かった所でどうするのか、と言う話だろう。


 一先ず、帰ろう。SNSとかは未だ剣に頼る世界であるならば、恐らくはまだ開発されていない。

 そう思い、門を思い浮かべる前に妙な質問に答えてくれた男達へ礼を言おうと口を開け……ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる三人を見て固まった。


 すごい小悪党感。そして嫌な予感しかしない。



「なあ天使サマ、今日は良い夜だよなぁ」


「はぁ、ええ、そうですかね?」


「……良い夜さ。なんせ、今夜は空振りかと思ってたら、結構な上玉が目の前に現れたんだ。しかもそれがお伽噺に出てくるような天使ときた、売れば一生豪遊出来るだけの金になるだろうぜぇ。おいおめぇら、やるぞ」


「「おうっ!」」


「……………ああ」



 お、あの無表情な人、喋れたんだ。

 っていやいやいや、そんな事考えてる場合じゃなかった。え、なに、僕売られるの?捕まったら?問答無用?


 ジリジリと下向けていた剣を構えて距離を詰めてくる男達を見て、うわぁ本気だぁ…斬られたら痛そう……と軽く現実逃避した。


 出来れば走って逃げるか飛んで逃げるかしたいのだが、後者はまだ練習もしていないので無理だとして、だがしかし前者も前者で無理がある。


 地理が、全くわからないのだ。

 慣れない山道をこれで走るとなると……うん、どうなるか分からない。山を降りれば安全である保証もなし、それこそ肉食の野生動物なぞに出会したら、使える権能もわかっていないペーペー天使の僕なんて詰みだ。そもそも革靴で山道など、走りにくいにも程がある。


 だったら、大人しく捕まって安全を確保する方が良いのではないか。

 高値で売ると言うからには手荒なことはしないだろうし、どこかで隙を見付けてヒトセ直伝の方法で帰るか権限確認とやらで出来ることを探せるだろうと、半分諦めの境地で徐々に迫ってくる彼等の会話を何とはなしに聞いていた。



「なあランド、最初は誰が楽しむよ?頭に見せる前なら、ちょっとくらい味見してもいいよな?」


「そうさなぁ……そんじゃ、ちっとばかし穴の調子を試してみるか」


「さっすがランド!わかってんじゃねーか!そうと決まれば俺の自慢の杭で……」


「馬ァ鹿、てめぇのじゃどう頑張っても小枝だろうがよ。先ずは俺の魔剣で試し掘りだ」



 前言撤回。それは無理。


 いや待ってよホント待ってそう言う対象なの僕?男ですけど。紛れもなく性別は男性なんですけど。………胸が平べったいし、多分、男性だよね?て言うか、そう言うのは美少女の役目って相場で決まってなかった?

 高く売れる云々ってあれじゃないの、翼が物珍しいからって鑑賞品になるみたいな、そんなんじゃないの?


 そう言う目で見られてるのか!と悟ったと同時、くるっと方向転換して全力で駆け出した。隙を見てとか言ってられない、一刻も早くここから逃げなければ!


 こういうときは言うことを聞くのか、自然にバサッと音を立てて開いてくれた翼でバランスを取りながら、木々の間を抜け斜面を滑るように降りていく。

 その速さはまるで風にでもなったようで、場違いにも少し高揚した心地でどんどん速度をあげた。


 ───が、調子に乗って足元が疎かになっていたらしい。

 二十メートルほど駆け降りたあたりで、大きく飛び出た木の根に足を引っ掻けて、盛大に転けた。ズシャーーーッと音を立てて。


 僕が走り出したことで慌てて追い掛けてきた山賊風……どころか山賊か盗賊のどちらかであったのであろう男達は、僕が転けたのをしっかりと目視したのだろう。安心したような嘲っているような笑い声を上げて、僕の所へと走ってくる。

 翼で風を受けていたおかげか立てた音に反して傷は少ないが、立ち上がろうと腕に力を込めた時、既に先程の四人の気配はすぐ側にあった。



「オラ、手間かけさせんなよ天使サマ」



 ランドと呼ばれていた者の手が翼に伸びるのが視界の隅に映り、思わずギュッと目を瞑った。


 ─────…………。


 ──────………………?


 ───────……………………あれ?


 翼を掴まれるような感覚が一向になく、転けた際に擦りむいた鼻を擦りながらゆっくりと上を向く。

 そこにあった筈のランドの姿はなく、それどころか他の三人の姿もない。


 この一瞬で一体どこに消えたのかと、一種の心霊現象に出会ったような心地で恐る恐る身体を起こして逃げてきた方向へ向き直る。

 ……………と同時に、目の前の光景に頭が思考停止した。



「あー、あうっ」


「だっ!」


「だうっ、あう!」


「…………ふぇ、ここ……どこぉ…?」



 ─────赤ん坊、赤ん坊、赤ん坊、子供。

 目の前に、三人の赤ん坊と7歳くらいの男の子がいた。


 わけがわからないよ。と言いたくなった。本日二度目である。







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