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天使に生まれ変わりまして  作者: 飴屋大吉
序章
1/6

欠片1





 とくり、とくり。

 柔らかな心音が聞こえる。


 音につられて目を開ければ、すぐそこに命があった。

 いや、命である筈のものと言った方が良いのか。自分には、それが命であると断定出来なかった。

 それほどまでに、目の前の存在は曖昧に過ぎる。


 だけど自分は、それが何なのかをよく知っていた。




「───だい───なたは───ない──」




 声がはっきり聞こえない。何を言っているのか、聞き取れない。

 でも、包み込むように優しい声だった。


 いや、その表情も。

 その瞳も、愛し子を見つめるそれであった。

 どのような顔をしているのかも分からないのに、それだけは何故かよくわかった。


 血の如く赤い、命の奔流の如く赤い。

 赤々しい煌めきを放つその眼が、緩やかに弧を描く。


 きっと瞳であったのだろう。よもやあれは幻ではあるまい。

 見ようとするほどぼやける黒と白の輪郭の中、二つの光だけはよく見えた。




「───っと───らたな───なる」




 ふと、目の前の存在から赤色の光が消えた。

 ああ、瞳を閉じてしまったのだ、と思った。


 とても美しいのに、見ていたいのに。

 寂寥感に苛まれる。自らの前にある存在が、どうしようもないほどに今も昔も自分の全てであるのに。

 何故、自分を見る事をやめてしまうのか。


 悲しい、悲しい、悲しい。

 ああ、だめだ、遠ざかる。自分の目まで閉じてしまう。


 体の端から世界に融けていく。いや、自分に体などあっただろうか。

 わからない、知っているのにわからない。


 怖い、嫌だ、怖い。

 瞼を閉じても、目の前の何かの気配はあった。だのに、恐ろしいと伝える術がない。


 そうだ、自分は声すら持っていない。




「────サイカ────」




 耳馴れぬその言葉を最後に、何かの存在も掻き消えた。

 いや違う、消えたのは自分だ。


 とうとう融けたのだ。世界に。この剥き出しの意識だけを残して。

 ああ、だが──次第に、この意識すら───。


 願わくば、そう、願わくば。

 思ったのだ。強く。強く。


 どうか、また愛して欲しいと。






長編小説初投稿!です!

至らない点など多々ある作品かと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。宜しくお願いします!

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