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loop and high  作者: 戦域管制官
4/4

刺客

─福岡空港 PAC-3陣地─

 先日の通常弾頭装備型弾道弾迎撃の緊張から未だ解き放たれず、加えて疲労からか小野曹長は刹那の安らぎを求めていた。

 

 「あー。寝ても寝ても嫌なイメージしか湧かなくてな…士長、五分だけここ任せてもいいか?」

 

 彼はそう言い残すと、電源車の影に向かいスマートフォンを取り出す。妻の小野美希だ。妻とのツーショットの写真はいつでも見られるようにホーム画面に貼り付けている。久しくLINEも開いていなかったがこの際だ。コッソリ開いてみると、妻から身体を案ずるメッセージが何通も送られてきていた。

 個人チャットを開くと彼はその一言一言を噛み締めるように下へとスクロールを進め、最後の言葉を読む。

 

 「こんな格言を知っているかしら?なーんてね。お仕事お疲れ様です。今も忙しいでしょうからメッセージだけでも残しておきますので、時間が出来たら見てくださいね。決して無理はしないように、身体に代えられるものはありませんからね」

 

 彼はふと、疲れが飛ぶような感覚に陥る。疲労は偽物ではないので抜けているわけではないが、何か心の中に詰まっていたものが綺麗さっぱり無くなるのは実感できたのだ。彼女からしたら何気ない気遣いの文面であろう。だが、その一言一言が彼を再び任務へ舞い戻らせる力となって彼を勇気づけた。そろそろ五分は経つだろう。小野曹長は地面を完璧なグリップで蹴り、士長に預けた配置へ戻る。

 

 「士長ありがとう。えーと、きっかり五分だな」

 

 と本来は五分以上経ってはいたが士長も察しがよく、五分という事にして士長が立ち去ろうとした。その時である。空港裏ゲート(PAC-3部隊正面ゲート)の方向から銃声に混じる叫び声が聞こえる。この陣地の警備は、空港敷地下なので県警が担当しており、陸自は何度も県警を説得したが聞く耳を持たずに意地で警備をしていた。

 

 「まさか・・・おい士長、念の為に陸自に応援要請しておけ」

 

 小野はそう言い残すと各小隊に4丁支給された64式小銃を手に取る。手に取った64式小銃には銃剣、無理やり付けたレイルを介してACOGサイト(高度戦闘光学照準器)、フォアグリップを取り付けたものとなっている。レイル、サイトとグリップに関しては隊員の自費購入であり、官用品ではないが暗黙の了解で取り付けが許されているものである。

 銃声に混ざった悲鳴は他の隊員の耳にも届いたのか次々と小銃、もしくは9mm機関拳銃を手に取り、クリアリングを開始する。

 小野はACOGサイトから物陰を睨む。すると、全身黒づくめでAK-47を構えた数人の人影が映る。咄嗟にセレクターを「ア」から「タ」に切り替えコッキングハンドルを引き確認発声を行う。

 「安全よし弾込めよし単発よし!」

 訓練通り射撃モーションに入り警告メッセージを発した。

 

 「航空自衛隊だ動くな!!」

 

 「This is Japan Air Force!!freeze!!」

 

 その声がかえって相手を刺激したらしい。突如、その集団がこちらに向けて発砲してきたのだ。その発砲により隊員1名が被弾し、断末魔を上げながら倒れる。

 小野は正当防衛の名目における射撃を開始する。もう何も躊躇う必要もなく、発砲してきた集団に7.62mm減装薬弾を容赦なく叩き込む。他の隊員もそれに追従する形で射撃を行い数名を制圧するも、2名が逃走し、見えなくなってしまう。

 

 「うおおああああああああああああ!!」

 

 好機と見た隊員が突撃しようとする。だが、それは罠であった。突撃した隊員が次々と被弾し、鮮やかな血色の湖が広がる。

 手榴弾があればいいが空港の敷地内で爆発物はリスクが高すぎる。例えあったとしても、PAC-3がすぐそこにある場所で投げたらどうなるかは火を見るよりもというものだ。だからといって飛び込めば他小隊の二の舞になる。考え込む時間も惜しいのに考えなければ自分はもとより部下を死なせることになる。正直お手上げ状態だった。

 

 その時、白バイのサイレント思われる音に加えて凄まじいエンジン音が響く。陸自の応援部隊だ。高機動車、軽装甲機動車、96式装輪装甲車が正面ゲートより進入。覆面を被ったWAIR(西武方面普通科連隊)隊員が89式を構えつつ各車両から降車し陣形を整える。

 その間に雁首の部隊長が小野に駆け寄り状況の確認を行う。こういう時になると曹長クラスが信用できるらしく、雁首の部隊長は空自幹部陣には追認を求めるだけであった。確認を終えたWAIRはクリアリンクを開始し、問題の箇所を何の苦労も無く片付けてしまう。小野はどことなく胃のあたりから込み上がる悔しさをどこかへぶつけたかったが、自制心がそれを厳しく押さえ込んで好きにさせてくれなかった。

 

 ─芦屋基地─

 格納庫裏を斎藤は缶コーヒーを片手に持ち、もう一つを飲みながら小林に歩み寄る。近づくや否や缶コーヒーを投げ渡して話題を振り出す。

 

 「こば、福岡空港のPAC陣地が襲われたらしいな」

 

 「WAIRが即応体制をとっていたから助かったようなもんだよな。何せ空自さんの64に私物を付けただけではどうにもならん事もあるし、地上戦に関しては装備も練度も違う。ってかいつから俺の呼び方変わったんだよ!」

 

 「え?ああ、気分次第。ま、加えてアソコは空挺団から降りてきた奴もいるし、むしろ強くなかったら困るさ」

 

 ふと話題が途切れると自然と視線が上を向く。そして斎藤は独り言のように話始めた。

 

 「なぁ、こんな事言いたかないけどさ。まさか戦闘状態に入るとは思わなかったよな・・・俺達も今までのように定年まで訓練に明け暮れて何も無いまま退官すると思ってた。だがどうよ、今となっては自衛隊初の敵国の兵士を殺したコンビ。皮肉だよな」

 

 

 その言葉を手に取るように小林が返す

 「遅かれ早かれそうなっていたと思う。誰がトリガーを引いたか。違いがあるのはそれだけだ」

 

 今日も 我々A/OH-1Sの部隊にスクランブルがかかった。だが、この数日でスクランブルに上がった仲間の半数以上が2度と芦屋基地のエプロンに帰ることはなかった。当初プロトタイプ機を含めて15機いた機体も今となってはスクランブル待機の2機と私の乗るプロトタイプ、他予備機体の1機を合わせた4機にまで減少していた。撃墜された原因は隊員の一瞬の迷いに隠れ、未だ姿を現さない。北民国が新型の地対空誘導弾を配備しているとの噂が今となっては濃厚になって空を覆い隠す。これまでの戦死者の為にも我々は生きて終戦に持ち込まなければならない。それも「防衛勝利」という、他国の軍隊も成し得ない結果を。

 政府は借金覚悟で弾薬を購入してきたが、その限界が目の前に来ているらしい。全国の弾薬庫を掻き集めても、全国の部隊が一斉に1回だけ全力出撃すれば尽きるほどまでに減っている。だが、北民国も数年前まで支援していた国家が支援を打ち切り、今にも軍部の不満が爆発しようとしている様子が他国からも良く見えている。米軍は未だに介入して来ず、日本海側の秩序は荒れたまま回復の兆しも見えなくなり、海上保安庁の日本海側に充てる警備救難任務に投入可能な勢力はとうの昔に尽き果て、麻痺していた。海自は夜間に奇襲してくる半潜水艇の脅威を克服しきれず、当初投入していた旧式護衛艦はほぼ撃沈されていた。カバーするように様々な戦力を投入しているが、どこまで持つかも分からない。

 

 我々に残されたチャンスはあと───

 


 

 

 次回 loop and high「虚無の空」

私情により投稿遅れました。1ヶ月に1話のペースで頑張りますので応援宜しくお願い致しますm(*_ _)m

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