舞い降りた奇跡
(一之瀬目線)
スキルを発動させようとする。
何度も何度も。
しかしスキルは発動しない。
なぜだ?
なぜスキルが発動しない?
そのきっかけは……
そうだ……俺が彼女を好きになったことだ。
改めて淡い感情が胸に広がる。彼女を好きになるということで……人を好きになるってこんなに幸せなんだな。
その瞬間、俺はスキルをもらったときの神様の顔を思い出した。
「……ははは、やりやがったな」
思わず笑みがこぼれる。
ああ、そういうことか。
今頃あいつは天界でニヤニヤしてるんだろうな。
やっと本気で自分のことを考えるようになった俺を見て笑っているんだろう。
「はは、そういうことだったのか」
まったく、神様ってやつは本当にお人よしなんだから。さすが神様、俺のことをよく分かっていやがる。
だから不細工に転生させたのか。他人のことばかり気にするなってか。
まあそうだよな、二度目の人生なのに他人のために生きてどうすんだよ。
いいよ、俺は自分の幸せのために生きてやる。
「自分のために……か。まずは」
まずは、好きな人に好きと言おう。
好きな人に好きっていう。それはなんてわがままなことなんだろう。
でもいいんだ。これからは自分の幸せのために生きて行こうって決めたんだ。
こんな不細工でもわがままになっていいんだって、あの神様に見せてやろう。
そしてわがままな俺は、彼女に告白をした。
(南目線)
な、な、何が起きたんだ。
さっきまで楽しくお話していた隼人さんだった人が、突然イケメンになっていたのだ。
私はずっと今まで(やっぱり彼氏にするならイケメンがいい)と常々思っていたのに、最近では隼人さんと一緒にいる、心地いい時間が好きになっていた。こんなことは初めてだった。
そんな彼と会話をしているときに、急にイケメンが出てきたのだ。
私のストレートゾーンど真ん中のとんでもないイケメンが。
「え、え、何、顔が」
これは誰だ? 隼人さんなのか? でも、でも顔がイケメンだ。
混乱する私に「彼」はそっと近づく。
「南愛さん、あなたのことが好きです。結婚を前提に俺と付き合ってください」
……え?
えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!????
だ、誰、この人?
さわやかなイケメンが私に告白してきて私の混乱はさらに深まった。
「あ、あ、あなたは誰ですか」
「うん? ああ、ごめんね、急に。俺は正真正銘、一之瀬隼人だよ。でも今までとは違う生き方をしようって決めたんだ」
そう言って彼は、グイッ、と顔をこちらに近づけてくる。
「わがままになろうってね」
そっとささやく彼の二重の目がはっきりと見える。
目鼻のスッキリしたイケメンだ。
ち、ち、ち、ちかい! だって私、不細工な彼を好きになったのに、今の隼人さんはイケメンで。いや、でもイケメンでもいいよ。どっちでもいいんだけど。
ん? 不細工な隼人さんが、イケメンで、一之瀬さん?
(あわわわわ)
私の思考は混乱を深める。
「それで、返事を聞かせてくれるのかな」
パニックになり慌てている私に、彼は再度問いかけた。
とっさに出てきた言葉は
「私も! 好きです!」
私の本心だった。
「ふふっ嬉しいな」
その言葉とともに
彼のかっこいい顔が近づいてきて
唇が近づいてきて
そして
チュッ
唇が触れるだけの、人生で一番幸せなキスだった。
(完)




