好きになる権利
「俺は不細工だから、見た目だけで嫌われる存在だから、誰かを好きになる資格はないんだ」
「ある」
「……仮に俺が誰かを好きになったとしても、俺を好きになってくれる女性はいないよ。だから――」
「いる、ここに」
そう言って彼女は俺に近づき、手をとった。
何の見返りも求めない純粋な好意がそこにはあった。
本当は怖かったんだ。誰かを好きになることが。こんな不細工なのに、誰かを好きになっていいはずがないって、ずっと考えることを避けていたんだ。
好きになれば、それだけ裏切られる可能性も出てきてしまうから。
好きになれば、それだけ相手に期待してしまうから。自分が醜いって知ってしまうから。
ならばいっそ――
「すきになることは、それだけで、しあわせ」
「だれにでも、だれかをすきになるけんりがある」
「わたしも、おまえがすきで、いましあわせ」
「だからおまえも、だれかをすきになっていい」
一歩踏み出すのを待ってくれているような、そんな声音だった。
少しずつ、本当に少しずつでしかなかったが、飾り気のない茶音の言葉が、俺の心の氷を溶かし始めていた。
「……俺も、俺も誰かを好きになっていいのかな」
茶音が近づき俺の涙を不思議そうに見つめる。
彼女は無言で俺の手をギュッと握りしめ、涙を流す俺のそばに座る。
しばらくの間、部屋には俺のすすり泣く声だけが反響していた。
次話は、茶音主観の話です。




