再会
「の、の、のりさん!?」
「ふふふ、びっくりしたやろ」
得意げな顔で笑うその人は、少しパーマのかかった髪に中性的な顔をした関西弁の男性だった。やや垂れ目でにこやかに笑うその様が人の好さを表している。
「そりゃあ、びっくりしました。前の職場は辞めたんですか」
「うん、20代終わる前に公務員試験でも受けてみるかってなって、1年くらい勉強したら受かっちゃってんけどな。いやあ配属される検事の名前聞いたときはほんまびっくりしたで」
やや高めのテノール声が部屋に響く。
ものすごい偶然だ。以前の職場で一緒だった俺たちがこうして再開することなんて、確率的にかなり低いだろう。
「どう、実際に見た僕の顔? けっこういけるやろ?」
「え、ええ、良いと思います」
手をあごに当てて決め顔をしてくるが、どう反応していいか分からない。
想像していた通りの関西人のノリだった。
確かに男性にしては白くてきれいな肌をしている。ちなみに背は俺のほうが高く、少し彼を見下ろす形になった。
「それにしても、同じ職場になるなんて、これも運命かもしれへんな、僕といっちーを結びつける何かがあるんかもしれへん」
のりさんが事務官の席に着きながらしみじみとつぶやく。
「ふふふ、そうかもしれませんね」
電話越しに聞いていたのりさんの関西弁をこうして聞けることが面白くて、検事の席に着きながらつい笑ってしまう。
「……ほな仕事しよか」
じっとこちらを見ていたのりさんが目をそらす。少し顔が赤いが、のりさんも緊張しているのだろうか。
最初の担当は覚せい剤自己使用罪の事件だった。
取調べに応じた被疑者は素直に話してくれた。
「私は9月6日、東京駅丸の内南口前交番の近くの路上でさくらん状態になっているところを発見され、覚せい剤を持っていたということでたいほされました。私は、9月1日に覚せい剤を買ってから、続けて何度も覚せい剤を使っていたので、さくらんして路上にいたのはそのせいだと思います。
私が、この覚せい剤を買ったのは、「たっくん」と呼ばれている30代くらいの男からです。たっくんさんは、世田谷区の1階がコンビニになっているマンション「ラリ世田谷」の202号室に「あやさん」という女性と一緒に住んでいます。私が覚せい剤を買ったのは202号室ではなく、405号室です」
彼は概要、以上のことを話してくれた。
その後、覚せい剤が暴力団の資金源となっていること、そのせいで迷惑を被る人が大勢いることを話し、自分自身の人生のためにも二度と使わないよう彼を諭す。
「はい、二度としません。すみませんでした」
そう言って彼は取調室から出て行き、拘置所へと戻って行った。
「……いっちー、今の人、きちんと更生できると思う?」
「無理でしょうね」
冷たく聞こえるかもしれないが、現実は厳しい。
彼はところどころ髪も抜けて歯もボロボロだった。明らかに常習犯だ。
覚せい剤の常習者が使用を断ち切ることはほとんど不可能に近い。残念ながら刑務所を出た後も使い続けてしまうのだろう。
「きちんと入院させることができればいいんやけどね」
それが本当に彼のために、社会のためになるのだろうか。俺は無言でのりさんの問いに答えた。
とりあえず俺達にできることを、と本題に思考を切り替える。
「さて……問題は売人の「たっくん」ですね。捜索差押令状をとることはできるでしょうが……」
「覚せい剤は一瞬で証拠隠滅できるからなあ」
白い粉などトイレに流してしまえば後には何も残らない。
「玄関のドアの鍵もどうせ閉めているでしょうし、証拠を押さえるのに時間もかかりますし」
「何とかしてドアを開けさせないとなあ」
俺たちは悩まし気に応手を考える。
こういうときは宅急便などを装ってドアを開けさせることが多いが、チェーンをつけられた場合はどうしようもない。
のりさんが困っているのでスキルの発動条件を満たす。せっかくだしとっておきを使わせてもらおう。
俺がスキルを発動させると「〇日○時に405号室のドアの前でのりおに痴話げんかの真似をさせる」と出た。




