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祝杯

「かんぱーい!」

「かんぱい」

 チンッとグラスをぶつける音がする。

「ぷはー」

 南さんがビールを一気飲みする。

「ふう」

 唇についた泡を腕でぬぐうその様は俺よりも男らしかった。

「仕事上がりの一杯は最高だね」

 そう言って笑う彼女の濡れた唇に少しドキッとする。


 今日は検事になったお祝いとして、南さんに居酒屋に連れて行ってもらっている。

「いやーそれにしても司法試験に合格して検事になっちゃうなんて、本当にすごいわね。おめでとう」

 彼女がパチパチと手を叩く。

「ありがとうございます。それから、わざわざこうして飲み屋にまで連れてきてもらったことについても」

「いいのいいの、お祝いはパーットしなきゃダメでしょ! あ、店員さん、ビールお代わり」

「はーい」

 ハイテンションな彼女はガヤガヤと騒がしい居酒屋にマッチしていた。なんだかとても楽しそうだ。


「やっぱり弁護士並みにお給料もらえるの?」

 お通しを食べながら彼女が突っ込んだ質問をしてくる。

「いえ、公務員なので、それなりですね。普通のサラリーマンと同じくらいだと思います」

「えー、それなら弁護士さんになったほうがよかったんじゃない?」

「あはは、そうかもしれませんね」

 前世のことは言えないので、笑ってごまかしておく。

「ところで、検事になればそれなりの収入が入ってくるので、もう金銭的に困ることはないと思いんす。今まで本当にお世話になりました」

「いいのよ、一之瀬さんは私を助けてくれたんだから、部屋の一つくらいお安い御用よ」

「あの、もしご迷惑でしたら新居でも探そうかと思って――」

「いい! いいって! 本当に迷惑じゃないから。……むしろずっといていいわよ」

 慌てたように止められる。最後のほうはうつむいて何かつぶやいていたが店の喧騒で聞こえなかった。

彼女はこう言うが本当に迷惑ではないのだろうか。

「なんならお金を入れましょうか? 月数万円ほどだったら何とか――」

「本当にいいの! ……っていうか、財布はもう合わせて一つでいいっていうかさ」

 さっきからごにょごにょと口ごもるのでよく聞こえない。髪をいじりながらもじもじしている。彼女らしくない。

「え、何ですか?」

「もう、鈍感!」

 肩を叩かれる。

 なぜだ。

「それにしても、配属先が家から近くてよかったわね。まだ私の家から通えるじゃない」

 なぜか不機嫌になった様子で、出てきたおつまみのきゅうりを食べながらそう言う。

「ええ、でも検事は二年ごとに転勤があるので、あと二年間だけお世話になります」

「ええ!? そうなんだね。……これは早くしないといけないな」

「あ、このきゅうり美味しいですね」

 そんな感じでお祝いの席を楽しく過ごした。






 いよいよ検事の仕事が始まる。

 初仕事の日、ピカピカのスーツで登庁すると、そこには意外な人がいた。


 部屋に入るとすぐに頭を下げる。

「初めまして、今日からお世話になる、一之瀬隼人と申します。よろしくお願いします」

 ふふふ、と事務官の人が微笑む。この場を楽しんでいる雰囲気だった。

「初めましてになるんかな? 検察事務官の、五十嵐のりおっていいます。よろしく」

 その声はよく電話越しに聞いたことのある声だった。


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