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司法試験

「……」カリカリカリ

 茶音は今日も刑法と刑事訴訟法のテキストを開いている。

「茶音さん、分かっていると思うけど、刑事法だけの勉強では司法試験には受からないよ」

「けいじけいであっとう」

「……司法試験の論文は各科目で足切りがあって、各科目100点満点中25点をとらないと落ちるよ」

「!!!???」

 茶音の表情が驚愕と絶望に染まる。口も開いている。

 意外と表情豊かなんだな。いや、俺が彼女の表情を見分けられるようになっただけかもしれない。

「短答式(マークシート)試験も、憲法と民法で4割とらないと落ちるよ」

「!!!!!!!!!!!!!?????????? よ……よんわり……」

 バタン

 茶音の体が机に倒れた。泡を吹いている。


「さ、茶音! 大丈夫か!」

 倒れた彼女の背中をさする。なんだなんだと教室にいる生徒たちがこちらを見ている。

「みんじけい、いや……みんぽう、いや……」

 君は勉強すればできる子だろう。何でこんなに嫌がっているんだ。

 気分が良くなるまで背中をさすってあげ、その日は彼女の介抱だけで一日が終わった。




 いつの間にか五月になり、俺たちが司法試験を受験する日になった。

 司法試験は四日間にわたって行われる。水曜日、木曜日、休養日を挟んで土曜日、日曜日と長期戦になる予定だ。


 一日目の昼食の時、俺はコンビニで買ったおにぎりとお茶を用意していた。

「茶音、それなんだい」

「スニッカーズっていうチョコレート」

 茶音はなんだかよく分からないチョコレートを大量に食べていた。

「カロリーせっしゅがたいせつ」

「確かにそうだね」

 試験は体力勝負だからよく食べることは大切だ。

「うっぷ……すさまじいぜ」

「大丈夫かい」

 茶音はなんだか苦しそうだ。


 試験も三日目になった。

「おそといこう」

 お昼休みは結構長いので、近くの公園で一緒にお昼ご飯を食べることになった。

 今日は茶音もおにぎりとお茶を買っている。チョコレートは駄目だったようだ。

「ふう、疲れたね」

「うむ。ここからがしょうねんば」

「そうだね、頑張ろう」

「クルックー クルックー」

 二人でおにぎりを食べていると、目ざとく鳩が寄ってきた。

「これはわたしのたいせつなおひるごはん」

「クルックー クルックー」

「え、こどもがおなかをすかせて?」

「クルックー クルックー」

「そこまでいうならわけてあげないこともない」

「クルックー クルックー」

「れいにはおよばない」

 茶音はマイペースでいいなあ。





 そんな感じで試験を終える。

 九月には合格発表があり、司法試験の成績が返ってきた。


「いくよ、せーの」

「せーの」べりっ




一之瀬隼人

【短答】

憲法 40/50点

民法 50/75点

刑法 50/50点

合計 140点

合否判定 115点以上で合格 ただし各科目4割未満の科目があれば不合格

【論文】

公法系 122.34点

憲法   B

行政法  B

民事系 125.87点

民法   D

商法   D

民訴法  E

刑事系 150.55点

刑法   A

刑訴法  A

労働法 50.25点

合計 449.01点

総合得点 920.11点

順位 572位

合否判定 総合得点850点以上


白鳥茶音

【短答】

憲法 32/50点

民法 33/75点

刑法 50/50点

合計 115点

合否判定 115点以上で合格 ただし各科目4割未満の科目があれば不合格

【論文】

公法系 85.22点

憲法   D

行政法  D

民事系 98.78点

民法   E

商法   E

民訴法  E

刑事系 200.00点

刑法   S

刑訴法  S

労働法 43.25点

合計 427.25点

総合得点 850.10点

順位 1506位

合否判定 総合得点850点以上




「……はは、はは、ははははは」

 彼女の成績を目の前にして、乾いた笑いが止まらない。

「ははははは、はあ」

 ため息をつく。やばい、現実逃避したい。

「ははははは」

 茶音が俺のまねをして笑う。

 司法試験は偏差値で点数が出るので、満点は絶対に取れないはずだ。どうして茶音は刑事系で満点をとっているんだろう。これは夢なのか?

 頬をつねると痛い、この痛みは本物だ。

「たのしい?」

 茶音が真似して自分の頬をつねる。彼女はこの異常さを分かっていないようだ。

「いや、特に楽しくはないかな」

 頑張ったご褒美に、茶音の頭を撫でてあげる。

「えへへ」

 法務省から発表される論文の点数表を見れば一人だけ100点がいることが分かるので、2chの司法試験板が大炎上していた。また試験問題漏えいかよ、と騒がれているらしい。このSランクってのを見せたら更に炎上するんだろうな。


「この点数はさすがに信じられないね。試験官もこの点数をつけるのに勇気がいるだろうに。絶対に不正を疑われるからね」

 頭を撫でるのをやめて、成績表をしげしげと見つめつつ彼女に話しかける。

「しらないひときた」

「知らない人? ああ、試験委員の人が来たのかな、問題の漏えいがなかったかどうかということだね。でも茶音は法科大学院に行っていないんだし、試験委員の教授と接触したことはないんじゃない」

 結構前の話ではあるが、青〇〇一という明〇大学の教授が女子学生に司法試験問題を漏えいしたという事件があったから、法務省も敏感になっているのかもしれない。

「うん、ノータッチ」

「じゃあ、身の潔白も証明できたわけだ」

 彼女にはそもそも物理的に問題を知る方法・ルートがない。試験委員の疑いも晴れたことだろう。

「合格のご褒美、ワンタッチ」ズイッ

 頭を差し出してくるので、撫でてあげた。


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