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婚約者

 岩崎事件が終わった後、俺はセバスさんにお礼を言いに行った。

「セバスさんのおかげで何とか事件を解決することができました。ありがとうございました」

 セバスさんに頭を下げる。

 今回はアドバイスだけでなくスタントの練習にも付き合ってもらった。彼には頭が上がらない。

「いえいえ、一之瀬様の力でしたらご自身でも十分に事件を解決できると思っていました。良かったですね、その女性が助かって」

「はい、十年くらいは安泰らしいです」

「ふふふ、一之瀬様は人助けがご趣味なんですか?」

「いや、別にそういうわけではないですけど――」


 そんなお見合いでするかのような話を二人でしていると、一人の男が入ってくる。柏原様のように高そうな服を着ている。貴族の一員だろうか。そして――イケメンだった。

「おや、お客さんかな? それとも使用人かな?」

 俺を見つけて声をかけてくる。30代だろうか、サイドカットの髪型と少し生えたおしゃれなひげが、ダンディズムを発している。

 俺の顔を見ても嫌な顔をしない、この時点で彼に対する評価を高めに設定する。

 俺はすぐに頭を下げる。

「初めまして、家電アドバイザーの一之瀬隼人と申します。家電の掃除や整備などを行っております。使用人として接していただけると良いかと思います」

「初めまして。私は九条彦摩呂といいます。家電アドバイザーという職業は聞いたことがありませんが、何だか面白そうですね」

 頭を下げることはないが、きちんと挨拶をしてくる。

 大丈夫です九条さん、俺もこの仕事で初めて聞きましたから。

 彼は言葉を続ける。

「私は一応さくらさんの婚約者です。生まれた時からの許嫁なんだけど。よろしくね」

 そう言ってニコリとほほ笑む姿も好人物で、接する態度もとても温和だ。

 とてもいい人だ、柏原様とお似合いじゃないか。

「へー柏原様に婚約者がいたんですね。すごくお似合いだと思います」

「あはは、そう言ってくれると嬉しいな。でも最近なんだか違う男にうつつを抜かしているみたいで、ちょっと困っているんだ」

「ほうほう、それは大変ですね」

 それ、俺のことじゃないよな? 手汗がジワリとにじむ。

「さくらももうすぐ三十路みそじだし、跡継ぎを生むという貴族の使命のためにも早く結婚して子供を産んでほしいんだけれど」

 今は結婚しない、産まないという選択肢も尊重されてしかるべきな時代になったが、貴族の世界では違うのだろうか。

 ふとセバスさんをみると、不満げな顔をしている。どうしたんだろう。

「時代は変わりました。今は慣習や風習に則らず、さくら様ご自身の好きなように生きるべきだと思います」

 セバスさんが彼をじっと見つめ、いや、睨みながら言葉を紡ぐ。

「甘いね。富を持つ者にとって跡継ぎを残すのは義務であって、その相手もそれにふさわしい人がなるべきだ。生まれた時からそう生きるように決められているのさ」

 九条様が言葉をかわすように手を振るう。

「最も大切なのはさくら様のご意志であり、どう生きるべきか、ではありません。お相手もさくら様の愛する相手を身分に関係なく選ばれればよいでしょう」


 九条様が笑みを深める。まるで勝てないのに強がる子供を見るような目をしていた。

「ほう、それは自分のことを言っているのかい?」

「いえ、私のような者ではなく、もっとふさわしい人がいます」

「ははは、君の言うふさわしい人が、果たして彼女の夫になるにふさわしい人なのだろうか」

「ええ、あなたの何倍もね」

 バチバチッと二人の間で火花が鳴る。おいおい、どうしたんだセバスさん。

 セバスさんがふと視線を外すと俺を見た。

 どうやらセバスさんは俺を対抗馬としてぶつけたいらしい。今までの会話の流れから察するに、身分や金、女の役割(跡継ぎを残すこと)などに執着しない俺のほうがふさわしいと考えているようだ。


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