準備完了
私は一之瀬さんにいつもと違うカフェに呼び出された。何やら作戦会議があるらしい。
場所を変えたのは、いつものところだと伸也と遭遇する可能性があるからだ。
「南さんの悩みをまとめると、彼氏と別れたい。言っても聞かない。ストーカーじみたことまでする。ということでよろしいでしょうか」
「はい、そうです」
「それでは南さん、今から俺の言うことをよく聞いて実行してください。そうすれば解決のきっかけになるかもしれません」
「はい、分かりました」
常に不安を抱えた日々は辛く、解決の方法があるのであれば何でもしたい。
藁にも縋る思いで彼の言葉に耳を傾ける。
「まず、私は今元カレに追いかけられて困っているのでこの状況を解決したい、と思ってください」
「はい? そう思えばいいんですか?」
「はい」
私は言われた通り、この状況を解決したいと思うことにする。すると彼が頷く仕草を見せる。
「なるほどなるほど、ありがとうございます」
何がなるほどなのだろう。何かメモを取り出す様子もしない。ただ机をじっと見つめているだけだった。
「では次に、元カレに傷つけられそうで困っているので傷つけられるのは嫌だ、と思ってください」
「は? はあ」
私は言われた通り、傷つけられるのを避けたいと思う。
「なるほどなるほど、タイミングの問題ですかね」
先ほどから一之瀬さんの様子がおかしい。一人で頷くばかりだ。
「ふむ、それではもう一度お願いがあるのですが」
「は、はい」
「まず、南さんは車を持っていますね?」
「はい」
「車に乗せられた後も助けてほしいと思っていただけますか?」
「分かりました」
よく分からなかったが、疑うことは辞めて彼を信じることにした。
「ほうほう、これはこれは。かなり危険ですねえ」
深刻そうにつぶやく。
「分かりました。岩崎を無力にする方法を思いつきましたよ。きっとこれであいつも貴女に付きまとうことはできなくなります」
「あの、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫です。これで全て丸く収まりますよ」
気のせいだろうか、ニヤリと笑う彼の自信に満ちた顔は、一瞬かっこよく……いや、頼もしく見えた。
「それではまず――」
一之瀬さんに言われた通りにサバイバルショップのお店に行き、ナイフを探す。
護身用のスタンガンなども売っており、一個買っていこうか迷う。いや、一個じゃ足りないか、五個ぐらい……
「はあ」
ナイフを買い終えた私は思わずため息をつく。
一之瀬さんは大丈夫だと言っていたけれど、本当にこんな作戦が上手くいくのだろうか。
だけど何もしないよりはマシだ。びくびく怯えていた日々に比べれば、こうして何かしているほうが良い。
ホームセンターで吸盤付きの取っ手を探しながらそんなことを考える。
取っ手を買い終えると、車のボンネットの上に取り付ける。
この作戦が上手く行きますように、そんなことを祈りながら。




