相談
「――ということがあったんですよ」
家に帰った俺は、しばらく敗北感に打ちひしがれていたものの、このままではいけない、何とかしないいけないと思い、頼れるのりさんに電話で相談することにした。
「はえー最低な男やな。いっちー大丈夫やった? 僕を助けてくれたときにみたいにばばっと助けてあげなさいよ」
「あれは電話越しで、しかもちょっとしたことでしたから」
「まあ、せやったな。でもあれ以来いっちーとよく話すようになったやん」
懐かしい思い出だ。
「しかし、恋人同士の喧嘩に他人がくちばしを挟んでもいいんでしょうか。夫婦喧嘩は犬も食わないというじゃないですか。それに、俺は、ほら、不細工ですし」
「そんなん関係あれへんやん! 女の子が困ってたら助けてあげる、それが男の甲斐性ってもんやで!」
のりさんが鼻息荒く力説する。
「そう言えばいっちーってなぜか無駄に刑法に詳しくなかった?」
前世は検事だからな。そんなことは言えないので
「ええ、個人的に少し勉強したんですよ」
はぐらかしておく。
「それなら、その刑法の知識を使って、そのイケメンを罠にかけたらいいんちゃうかな。いわゆる「悪いやつをはめる」作戦やな」
のりさんの言葉を聞いた途端、前世の記憶がよみがえる。どうしても捕まえたい連続殺人犯を別件でしょっぴいたことがある。
あのときは……そう、殺人の嫌疑で家宅捜索できなかったから、一日中交替で見張りをつけて、窃盗の現行犯で逮捕、家宅捜索したんだった。これを応用すれば――
「ありがとうございます、のりさん。何とか道筋が見えてきました」
頭の中に岩崎を捕らえるための包囲網が浮かんでくる。証拠を残すためにも、いろいろ準備が必要かもしれない。
「おう! 気張れよ、いっちー!」
「はい、頑張ります。相談に乗ってもらってありがとうございます」
俺は久しぶりに頭の中の六法に手を伸ばし、必要になったボイスレコーダーとボールペン型のカメラを買いに行くことにした。
準備を整えたものの、いざ実行に移すとなるとどうすればいいのか分からず悩んでしまう。
柏原様の屋敷で仕事の合間、セバスさんに相談することにした。
「セバスさん、少しいいですか。ちょっと相談したいことがあって」
「ええ、構いませんよ」
俺が現状を話すと、彼は静かに微笑む。
「一之瀬様でも解決できない問題というものがあるんですね。その時は何か考えることができない状態だったのでしょうか。というのも、一之瀬様はいつもどんな問題があっても解決策を思いつくではないですか。その頭脳をもってすれば解決できない問題などないと思っていましたが」
セバスさんの言っているのは俺の「他人が困っている場合にその問題点と解決法を表示する」というスキルのことだ。なるほど、スキルか。
そう言えば前回あのイケメンと会ったときは使っていなかったな。自分には使えないから殴られるのは止められなかったが。
最終解決まで持って行ければよかったんだけど、不細工と言われてすごすご退散したから、そんなことを考える暇がなかったのかもしれない。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、とんでもございません。ただ、惜しむらくは……」
「?」
「いえ、何でもございません。頑張ってその女性を解放してあげてください。応援しています」
二人の知恵を借りた俺は、イケメン退治へと作戦を練ることにする。
反撃の狼煙が今、上がろうとしていた。




