時給3000円
今日は柏原様の家の近くにある別荘に来ている。木造のロッジで、たまに避暑に利用するらしい。
いらない家電を引き取ったり、使われていない部屋の掃除をしたりするのが今日の仕事だ。
「ちょっと埃っぽいですね」
「最近は使っていなかったので、埃が積もっているかもしれません」
俺達が別荘の中に入ると、空気が入ったことで埃が舞う。
俺はさっそく水道から水をお借りし、バケツに入れて、雑巾で部屋の掃除をしていく。
「隼人さん、もしこの家が欲しければいつでも住んでいいですからね? 差し上げますわ」
「いえいえ、遠慮しておきます」
「ふふふ」
柏原様が何かを企むように笑い、車で屋敷に戻っていった。
仕事が終わり、ある程度部屋も綺麗になったころ
「隼人さん、お疲れ様」
「お疲れ様です」
柏原様が再度別荘を訪ねる。このまま定時になれば解散すると思っていたのに、どうしたんだろう。
「実は、隼人さんの会社に泊まり込みの仕事を依頼したんです」
「はあ……は?」
「泊まり込みの仕事です。時給は3000円、お仕事はここで寝ながら侵入者がいないか警備することです。今日は帰らなくても大丈夫ですよ」
何が嬉しいのか、柏原様が微笑む。
「え、ええ? ちょ、ちょっと待ってください」
真偽を確かめるべく、会社に電話する。
「はい、こちら――」
電話に出たのは当直の先輩だ。
「すみません、一之瀬隼人です。」
「おお、一之瀬か。どうした」
「社長につないでもらえますか? なぜか俺の泊まり込みの仕事をすることになったらしくて」
「ああ、その話なら聞いてるぜ。良かったな、豪邸で泊まり込みなんてうらやましいぞ。俺なんか会社の宿直室だぜ」
ぜんぜん嬉しくねえよ。
「しかもお前の場合、寝ている間も時給が発生するんだ。深夜の時間外だから1.5倍だな。時給3000円、一時間で3000円だぜ? 俺なんか宿直代だけで1万円だよ」
先輩、美味しい話には裏があるって言うじゃない。
寝ている間に何されるか分からないでしょ!
「とにかく、社長につないでください!」
「ん? ああ、いいよ。ちょっと待ってろ」
保留音の後、電話が社長の渡さんにつながる。
「社長、一之瀬です。俺の――」
「業務命令だから断れないぞ」
ガチャン ツーツー
その一言で電話は切れた。
沈黙したスマホを見つめ、会社員の理不尽さを思い知る。
俺は柏原様に向き直って、当面の問題を伝える。
「着替えが今泊まっているマンションにあるんですけど」
「大丈夫です。隼人さんの体に合う服は全てこちらで用意しております。洗面用具などもご用意しておりますのでご心配なく」
控えていたメイドがタンスを開けて見せる。
しばらく使っていないのに不自然に綺麗な服があるなと思ったら俺用かよ!
「うーむ……」
どうするべきか悩む。俺にとってデメリットはあるだろうか。
よく考えれば一晩泊まるだけだ。
それにこれで収入も増えるじゃないか。
「分かりました」
メリットのほうが大きいと考え、泊まることになった。
その後、執事と一緒にご飯を簡単な作り、ご飯を食べて、お風呂に入って、おしゃべりして、寝る時間になった。
「あら、もうこんな時間ですか」
時計を見れば針は10時を回っていた。
柏原様はいつの間にかネグリジェに着替えている。いつ着替えたんだろう。早く屋敷に戻らないのだろうか。
ネグリジェはピンクの薄い生地で大胆に太ももをさらけ出している。ところどころ肌が透けてかわいいおへそなども見えてしまっている。胸や太ももにレースがついており、大切なところは隠しているものの、それがかえって扇情的な雰囲気を醸し出していた。
「もう夜も遅いですし、そろそろ寝ましょうか。」
「はい分かりました」
ベッドに入ると、柏原さんも一緒に入ってくる。体を寄せて密着しているので、柔らかい胸が腕に当たる。
な、な、な……なんだ? どうなってるんだ?
「寝るってそういう意味なんですか?」
混乱して口走るが
「はい、そういう意味です」
帰ってきた答えは答えでなかった。
どういう意味だ? 分からない。
いやいや、待て待て、そういう意味じゃないよな。
そう、添い寝だ、添い寝をするという意味なんだ。
「これも業務の一環ですか?」
「はい、こうしないと私眠れないんです」
ああ、そうなんだ。それなら仕方がないな。
スキルを発動しても、添い寝しろって書いてるし。
「分かりました」
時給3000円だしな。うん、頑張ろう。




