6/95

先輩

　私の先輩はすごい。

　困っているときの私の気持ちを瞬時に見抜いてしまうのだ。

　私は前の職場をパワハラで辞めた。仕事をしないでいると「言われたことしかできないのか！」と言われ、積極的に仕事をすると「何勝手にやっているんだ！」と怒られた。

　初めは私の要領が悪いだけだと思っていたが、胃腸炎になって入院したのを機に、母親や友人と相談し、仕事を辞めた。

　それに比べ、今の先輩はとてもいい人だ。絶対に怒らないし、とても優しく、どんな些細なことでも丁寧に教えてくれる。また、私が怪我しないようにいつも気を配ってくれる。

　私も最初は怒鳴られないかビクビクしていたが、今ではすっかり打ち解けている。こんなに優しい先輩が当たり前になるなんて、慣れって怖いな。

　それから顔もすごい。一瞬見た素顔はとても形容しがたいものだった。

　でも、あまり男性の顔をどうのこうのいう気はない。先輩と一緒にいるととても安心する。これからも先輩と一緒に心穏やかに仕事がしたい。

　もちろん、もっと仲良くなるための努力はする。

「あの、先輩、この後よかったら食事でも……」

「いやいや、家で食べるから、大丈夫だよ」

　しかし返事はいつもつれないものだった。

　もう不定期で1年も一緒に仕事をしているのに、未だに一度も食事をともにしたことはない。明らかに避けられている。私には魅力がないんだろうか。胸は結構あるんだけどな……。はあ……。

　ため息を一つついて、私は帰途についた。

ブックマークありがとうございます！嬉しいです！