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お前はもう

「戦いは始まる前に終わっている」

 俺の好きな言葉だ。盗みに入ってから勝負が始まるのではない。周到に計画を練り、いざ実行するときには既にお宝を盗んだも同然なのだ。その後の結果はおまけにすぎない。

 俺が怪盗として活動をするためには、潜入が不可欠だ。逆に言えば潜入さえ成し遂げてしまえば盗みはほぼ成功したと言っても過言ではない。

 執事としての作法を完璧に身につけ、波風立てずその屋敷をお世話し続ける。3年ほどして信頼を得た時にドロン。完璧な計画だ。

 毎回顔と名前等も変えているのでばれる心配もない。

 柏原家にも既に潜伏して4年になり、後輩の指導も任せられるなど、厚い信頼を得ている。屋敷に自由に出入りでき、一定の部屋の鍵も管理できるようになった。

「それじゃあ、そろそろおいとましますか」

 既に成功した盗みを実行に移すときが来た。


 夜、ひっそりと静まり返った屋敷で、いつも掃除をしている部屋に入る。

 盗むのは少しのネックレスやブレスレット、指輪などでいい。富豪はこういう小物に意外と金をかけるものだ。これだけで数年分の路銀にはなる。また、この程度なら仕方がないか、と思わせないと追及の手が厳しくなる。そして何より盗んだ後にばれにくいし、売りさばきやすい。

 装飾のついた豪華な机の引き出しを開けて、いくつかの装飾品をいただく。

「ちょろいな」

 呆れるほど簡単に成功し、ついつぶやいてしまう。


「これでだいぶ儲けた……な」

 初めは楽して働こうとして窃盗に手を染めたことがきっかけだっだ。あまりに楽すぎるのでこの年まで続けてしまったが、執事の給金に加え盗品を売りさばいた儲けもだいぶ残っている。今後しばらくの生活は安泰だろう。それに

「そろそろ引退するか」

 それに、恋人ができたのだ。年下の気立てのいいOLの女の子だ。もちろん職業は隠している。怪盗なんてやってると言えばきっと失望されるだろう。

 普通のサラリーマンだと思っている彼女にも申し訳ない。そろそろ引退を考える時期になったのだと思う。派遣社員で働くか。真っ当に執事をやってもいい。



 そんなことを考えながら部屋から出ようとした、そのとき

「観念しなさい!」

 ギギッと扉の開く音とともに、ぱっと電気がついて柏原さくらとセバスチャン、それに……なんだあの男、すごく不細工だな。

 いやいや、そんなことを考えている場合ではない。

 な、なぜ分かった? 俺の偽装は完璧だったはず、この屋敷のセキュリティも完璧に把握していた。ばれるはずがない。

 俺は後ずさりしながら必死に取りつくろう。

「な、なんのことでしょうか?」

「あなたが私のものを盗んだのは分かっています」

 ちくしょう、やっぱりばれている。これはマジでやばいかもしれない。

「ご、誤解です。そんなことはいたしておりません」

「言い訳は無用よ。セバスチャン! 捕まえなさい!」

「はっ」

 まずい! 迫り来る世界最強を前に、俺は屋敷のブレーカーを落とした。


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