女の子の弱み
そして魔の手はとうとう最後の砦まで迫ってきた。
「そろそろこっちの先輩にも挨拶しておきましょうか」
そう言うと手がだんだんと下りてきて、ズボンのジッパーを下ろされそうになる。
危機に瀕した俺は一瞬で数千の解決策から対処法を厳選する。
思い出せ、思い出すんだ。前世では数多くの女性と付き合った俺ならできるはずだ。信じろ、自分の積み上げてきた経験を信じるんだ。
俺は蔑むような目で橋本を見下ろす。
そう、女の子は
「あーあ、薫って淫乱だったんだね。ちょっと幻滅した」
「!? え?」
こうだ!
「俺、淫乱な子は好きじゃないんだよね。幻滅したよ、薫」
「!? ち、違います!」
こうだ!
「そんなに俺の息子が見たいんだね。もうちょっと恥じらいのある可愛い女の子だと思ってたよ」
「!? は、恥ずかしいです! 私も恥ずかしいですよ!」
こうするんだ!
「今見ようとしてたよね。その後何するつもりだったの? ナニするつもりだったんでしょ?」
「!? ち、違います! ただ挨拶しておこうかなって思っただけです!」
ここが突破口だ!
「あーあ、薫ってこんなに淫乱だったんだ。あーあ、幻滅したなぁ」
「!? 違いますぅ!」
そう叫ぶと俺の胸に飛び込んでグスグスと泣いて
「びえーん、嫌いにならないでくださいぃ。せんぱーい」
彼女はすがりつくように俺に懇願する。
鎖がジャラリと無機質な音をたてる。
ここだ! このタイミングで!
「よしよし、大丈夫、分かってるよ。薫は淫乱な子じゃないよね」
「グスッ。は、はい。淫乱じゃないです」
よし! いけるぞ!
「薫、こっちにおいで」
甘い言葉とともに、顔を近づける薫の頬にそっとキスをする。
「――そういうのは、夜にね。今やるとムードがなくなるじゃない」
「はい……ううぅ。ごめんなさい、先輩。嫌いにならないでくださぁい」
やった! 俺の勝利だ!
「うん、大丈夫だよ。その代わり、今は駄目だよ?」
「グスッ、はい、分かりました」
橋本は泣きながら俺の言うことを素直に聞いてくれた。
あれ、意外と扱いやすいな。ふっ、やるじゃないか俺。これなら何とかなるかもしれないな。
……ん? 待てよ? 俺さっき何て言った?
「夜まで我慢ですぅ。先輩に嫌われたくないから耐えますぅ」
……待て待て。何だ、何を言っているんだこいつは。
さっき俺は何と言った? そう
「そういうのは、夜にね」
だあああああ!!! 馬鹿野郎! こいつにチャンス与えてんじゃねえよ、過去の俺!
やっちまった。やっちまったよ、調子に乗りすぎて口が滑っちまったな。
「あ、ああ、いい子だね」
「へへへっ、隼人さんの大好きな薫はいい子ですぅ」
やばい、俺の貞操がやばい。自分で言った手前、夜には脱がされる、間違いなく。
先ほどから常にスキルを発動しているが、その表示に変化はない。このスキルは自分には使えないのだ。ええいこのポンコツめ。
タイムリミットは残り――数時間。




