探し人
やっと休日になった。仕事をしていると休日が恋しくなるものだ。しかしいざ休日になるとすることがない。
スマホでゲームをやり終わると、メール画面を開きつつ、もんもんと悩む。
「また一之瀬さんとデートしたいなあ」
デートはとても楽しかった。また行きたい、彼と一緒に時間を過ごしたい。私はいつの間にかそう思うようになっていた。
どうやら彼は奥手っぽいし、メールで誘うべきだろうか。しかし、以前の水族館は私から誘ったのだから、二回連続でこちらからお誘いするのもどうだろう。
「うーん……なんかプライドが……交替で誘い合えればいいんだけど。でも明らかに女慣れしてたしなあ」
あのデートでは、彼の所作の一つ一つが洗練されていた。どれだけの経験を積めばああなるのだろう。
彼にエスコートされるデートは、やっぱり優しい人が一緒にいて楽しいんだと、そう思える幸せな時間だった。
「幸せ、か……」
幸せって何なんだろう。休日に家のソファでだらだら過ごしているからかもしれない、そんな他愛もないことを考えてしまう。
「お母さん、幸せってなんなんだろうねえ」
「は? なに急に?」
唐突な質問に母が変な顔をした。
あ、今の顔、ちょっと一之瀬さんに似ている。ふふふ。
「もしかして今の私、ちょっと幸せかも」
「……あんた、大丈夫かい」
一人ニヤニヤしている私を、母は珍獣でも見るかのように見つめる。
家でいると暇だなあ。
あ、今ちょっと幸せポイントが減ったかも。
「うおー、幸せよ逃げるなー」
「家でごろごろしていないで、どこか出かけてきたらどうだい」
母の言葉に背を押されて、出かけることにした。
「うーん、じゃあカフェにでも行ってこようかな」
最近彼を見ないけれど、一度ベローチェに行ってみよう。
家を出た私はいつものベローチェへと到着する。店に入り席を見渡す……いない。
カウンターでコーヒーを頼み、席につく。
いったい彼はどこにいるんだろう。もうこのお店には来ないのかな。
そんなことを考えながら一口コーヒーを飲む。途端にコーヒー豆の香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「うーん、美味しい。美味しいけど」
美味しいけど……あの人のコーヒーにはかなわないな。
一之瀬さんはどうして私の好みが分かったんだろう。普通、人のコーヒーに砂糖とはちみつを入れたりしないよね。私も自分の作ったチャーハンに一口食べる前にいきなり醤油をかけられたら怒るもん。……いやそれはちょっと違うか。
今度彼にチャーハンを作ってあげたら喜ぶだろうか。いや、まだ付き合ってもいないのに、そんなことしたら重い女性って思われちゃうな。そもそもチャーハンじゃなくてこう、女の子らしい料理で――
なぜか最近、あの人のことばかり考える。あのとき母は
「不細工ってことさ」
自分を助けた人も不細工だと言っていた。
母を助けたのも彼なのだろうか。デートのときにその話をしたのに、彼は自分のことだとは言っていなかったけれど。
もしそうだとしたら、私はどうしたいんだろう。
自分の気持ちが分からない。
今の彼氏とも別れることができるんだろうか。
彼に会いたい、自分の気持ちが何なのか確かめたい。一人でコーヒーのマドラーを回しながら、グルグルと感情も渦巻いているようで、その気持ちはいっそう強くなっていく。




