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見えない罠

 ピンポーン

「はいはーい。あ、先輩、来てくれたんですね」

「ああ、あがっていいかな?」

「どうぞどうぞ」

「それじゃあ、おじゃまします」

 今日は橋本の家に来ている。通路や部屋はきちんと整理整頓されており、可愛いディズニーの人形なども置いていて女の子らしい可愛い部屋だ。


 デートの日程を決めた後、「どこに行きたいですか」と聞かれて「どこでもいいよ」と答えたのがまずかった。あれよあれよという間に彼女の家でデートをすることになった。

 今日は薫が昼飯を作ってくれるらしい。

「はい、どうぞ」

 30分ほど調理した後、肉じゃがにお味噌汁、サラダが食卓に並べられる。どれも一工夫加えてあり、いい匂いがする。

「わあ、美味しそうだね。いただきます」

 肉じゃがを口に入れると、じゃがいもの旨みが口に広がる。

「うまい! うまいよ!」

「えへへ、一番自信のある料理なんです。喜んでもらえてよかったです」

「いつも一人で作るときは適当だから、こんなに手の込んだ料理は久しぶりだなあ」

 一人の飯は誰かに気を使う必要がないからな。ついついカップ麺を食べてしまう。

「ご飯もバランスよく食べないと、お体壊しますよ」

「あはは、そうだね、気を付けるよ。薫は料理上手だし、部屋もきれいに掃除しているみたいだし、いいお嫁さんになれるんじゃないか」

「……え? ええ? 嘘? プロポーズ? は、早すぎ――」

「いやいや、そういう意味じゃないから」

 ちょっとやめて、この子すぐ拡大解釈するんだから。こいつと話すときには言葉を選ぶ必要があるな。


 ご飯を食べ終え、橋本が食器を洗い終える間、ソファでごろごろ新聞を見る。

 ……あれ、かなり身構えてきたのに、なんかくつろいでるな。こういうデートも悪くないのかもしれない。


「先輩! プレゼントがあります!」

 食器を洗い終えた橋本が、小さな袋を渡してきた。

 お、嬉しいサプライズか。こういうところに気が利くなんて、意外と良い彼女じゃないか。そんなことを考えながら

「ええ、ありがとう。開けてもいい?」

「どうぞどうぞ」

 袋の口を空けると、そこにはミサンガがあった。

「これはミサンガといって、ちぎれると願いが叶うと言われているアクセサリーなんです。私とおそろいなんですよ、つけてあげますね」

 ミサンガをプレゼントされた俺は、それを足につけられる。

 つけ終えた彼女は同じものを自分の足につけた。


「あ、ああ、ありがとう。嬉しいよ」

 ……なんだこの背筋を通るビリビリした危機感は。頭の中で警報が鳴り響いている。何か取り返しのつかないことをしてしまったんだろうか。いや、きっと気のせいだろう。このミサンガが俺を縛り付ける鎖のように思えるからいけないのだ。


「……ところで隼人さん。私たち付き合っているんですよね」

 頭の中の警報を必死に振り払っていると、若干低い声で彼女が話しかけてきた。

「あ、ああ、そうだよ」

「……他の女性と、遊んだりしていませんよね」

 な、なんだこの空気は。確かに南さんとは遊びに行ったが、なぜこいつはそれを知っているんだ。検事の経験上、嘘をついた場合ばれるとまずいことになる、ここは正直に答えよう。

「いや、遊びに行ったというか、なんだろうな、誘われてついていったというか。でも大丈夫だよ、ただ友達として遊んだだけで、二股をする気があるというわけではないから」

「……つまり、他の女性と遊びに行ったんですね」

「う、うん、そういうことになるかもしれないね」


 俺の言葉を聞いてじっと黙っていた彼女だったが、ポツリと

「憎い」

 呪うようにつぶやいた。


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