共通の人
一之瀬さんとのデートはとても楽しかった。
そもそもこうしたきちんとしたデート自体が久しぶりかもしれないな。最近はホテルか彼氏の家にしか行ってないし、会っても会話が弾むことはない。
久方ぶりの充実感や興奮を胸に帰宅すると
「ただいま」
「お帰り」
母が出迎えてくれた。
「デートって言ってたけど、どこに行ってきたんだい?」
「水族館だよ。今日、以前財布を拾ってもらったって人とデートしてきたの」
「ふーん。……そのときは顔が不細工だったって言ってたじゃないか。今の彼氏とは別れたのかい?」
「もうほとんど会ってないし、次に会うときは別れ話をするつもり。まあ、会わずに言うつもりだけど。別れる決心はしている。今まで愚痴聞いてもらってごめんね」
ふーん、と疑わし気な目でこちらを見る母。
大丈夫、今日のデートで私、どういう男が「正解」なのか分かったから。これから幸せになれる気がする。
「今日一緒にデートした人のことが好きなのかい?」
「うーん、どうだろうね、すごくいい人なんだけど、顔は良くないかな」
はあ、とため息が一つ聞こえた。
「いやいや、別にイケメンに未練はないってば! ただ、今は好きになれそうにない、ってこと」
はあ、そうかい。とまたため息。なんだなんだ、信用されていないな私。
「ま、少しでも前進したと喜んでおくかね。あんたももういい年頃だし、結婚も考えたらどうだい」
「結婚はまだ早いかな」
母だって35歳で私を生んだじゃないか。
「やっぱり付き合う相手と結婚する相手は違うよね」
ソファでくつろぎながらそんなことを考える。
「一丁前の台詞を言うじゃないか。どう違うんだい」
母が試すような目線でこちらを見る。
「恋愛はキュンキュンドキドキ、結婚はホワホワした安心で時々キュンキュン」
「なんだいそりゃ」
分からないかなあ、このキュンキュンに憧れる女子の乙女心が。
「やっぱり今はイクメンの時代だし、家事や子育てもしてくれる人がいいなあ」
「共働きならいいんじゃないかい」
母は主婦で家のことを全部してくれている。父は家ではでくの坊だ。
「うーん、今の職場に不満はないし、できるなら働き続けたいかなあ」
「でも子供が生まれると休職して、戻りづらくなるんだよ」
「やっぱりそうかなあ」
お局さんに睨まれたらやっていけないだろうなあ。
「あ、でも不細工な子供が生まれてきたら嫌だから、少しくらいはかっこいいほうがいいかな」
「自分の子供が生まれた瞬間、どんなに不細工な子でも親は可愛い可愛いともてはやすのさ」
「甘い、甘いよお母さん。ハーフの子供なんてすっっっごく可愛いんだから。その時点で人生勝ち組だよ」
金髪青目の外国人と結婚しようかなあ。英語できないけど。
「そんなことはないだろう。人生は長いんだから」
「おお、一丁前の台詞を言いますねえ」
「こう見えてもあんたの倍は生きてるよ」
そんな他愛もない話をしながらわちゃわちゃと楽しい時間を過ごす。
「そういえば」
唐突に母が話し出したことが、今思えば心の動くきっかけだっだ。
「私の荷物を持ってくれた人も、平安美人だったね」
「平安美人?」
「不細工ってことさ」
「え……」
それって、もしかして……




