カフェにて
「少し疲れましたし、椅子に座って休みましょうか」
そう言われて座ると確かに疲れが感じられる。ちょうどいいタイミングで休憩を入れてくれるので、全体を見て回ったときには疲れが残っていなかった。
何だこの人は。すごい、すごく女慣れしている。数々の女性と交際してきたに違いない、それほど立ち振る舞いが完璧だった。これが性格イケメンというやつか。
お魚さんたちを見終わった後、水族館の横にあるカフェで休憩する。
「今日はベローチェじゃないですけど」
「いえいえ、俺はどこのカフェでも好きですよ。こう、落ち着ける場所というか、安息の地というか」
安息の地? 表現が大げさだけど、彼もよくカフェに行くんだな。私と彼の共通点が浮かび上がって何だか親しみやすい。
「いつもカフェで何しているんですか?」
「読書が主ですね。後は思考に没頭しています。妄想ともいいますか」
へー妄想か。妄想というとエッチなことでも想像しているんだろうか。彼も一応男だしな。いやカフェでそんなことしないか。
「南さんは普段カフェで何をされているんですか?」
「うーん、一人の時はスマホでゲームをしたり、雑誌を読んだりしています。ただ、友達と行くことが多いので、よくおしゃべりをしますね。友達の最近あったこととか、話題の化粧品やお菓子とか、そう言ったことを話している気がします」
「へーそうなんですか。仲がいい友達がいるのはいいですね。俺はあんまり友達がいないので一人の時が多いです」
えーなんか意外、こんなにいい人なのに。
「あら、それなら私がお供しますよ」
そう言うと少し迷惑そうな顔をされた。失礼な。
「ふふっ」
彼と普通に会話をしていることにちょっと面白くなってしまう。
「どうしたんですか」
「いえ、なんだか不思議ですね。財布を拾ってもらったことから始まる縁があるなんて」
「……確かにそうですね」
あ、今この人、お前がいつもカフェに押しかけるんだろうがって思った。絶対思った。
むむむ……別に押しかけているわけじゃないもん。気分転換だもん。
そういえば
「実は、私の母も、男の人に助けてもらったんです。心優しい人が意外と近くにいるものですね」
「へ~、財布を拾ってもらったんですか?」
「いえ。確か、重い荷物を半分持ってもらったと聞いています。お礼をしようにも風の速さで立ち去ってしまったみたいで、お母さん残念がってました。ふふふ、まるであなたみたいですね」
まわりには意外と優しい人がたくさんいるのだ。
「ほ~、世の中いい人もいるもんですね」
口調が変わった彼の声はなんだかとぼけたような声音がした。




