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整形

 家電アドバイザーの業務中、いつもの無茶ぶりがくる。

「隼人さん、足をマッサージしてください」

「かしこまりました」

 最近、柏原様のお願いを聞くのも抵抗がなくなってきた。

 まあ、これくらいならいいかな、と思うようになってきている。以前、足を舐めてくださいと言われたときは一瞬耳を疑ったが、その後にきちんと訂正してくれたので、ただの言い間違いだったようだ。


「ほら、モップになれ」

「ニャー」

 サイベリアン(ベアトリス・雅・リノン)も風呂事件以来、素直になって今ではモップ代わりに体を使わせてくれる。

「おい、床が毛だらけじゃないか、しっかりしろよ」

「ニャー!」

 ベアトリスが抗議の声をあげる。上司に歯向かうとはいい度胸だ。

「隼人さん、無理を言わないでください」

 家電アドバイザーとは程遠い仕事だが、何だかんだ楽しくやっている。


 お昼休憩のとき

「隼人さんはいつも通り水でいいですか」

「はい、ありがとうございます」

 柏原様にお願いして、いつものように水を飲んでいると

「一之瀬さんは整形をなさらないの?」

 と聞かれた。

「整形ですか。俺はこの顔が好きじゃないんで、できれば普通の顔、いや、不細工でもいいんで人間らしい顔になりたいです。だから整形を考えたことはありました。しかし……」

 口ごもる俺に柏原様が提案する。

「そうですか、それでは私が頼んであげましょうか?」

 そう言って彼女が提案したのは、顔の整形手術を斡旋あっせんしてやろうか、ということだった。

 彼女の提案に心が動く。今まで何かと言い訳をつけて整形手術をしてこなかったが、いい機会だ。これから普通の人間として暮らしていくのも悪くない、いや理想的な状況ともいえる。

「ただし、条件があります。柏原の家で一生働いてください」

「ふむ……ここで一生ですか」

 もちろん、普通の顔になればその恩返しはしたい。しかし、ここで一生を終えるのは俺の人生として正しい選択なのだろうか。

「念のため言っておくけれど、隼人さんは人間の顔の原型をとどめていないので、手術自体も高額でリスキーよ。もちろんお金は私が出しますし、世界一の医師に手術をさせますので、心配は無用だとは思うけれど」

 医師に以前言われたことと同じこと言われ、悩みに悩む。

「うーん……」

 悩んだ挙句、俺は断ることにした。今のままでいいとは思っていない。だが自分の一生をここで決めるのが怖かったのだ。

「すみません。大変ありがたいお話なのですが……」

 しかし、なぜか眠い。

 何だ、なぜこんなに眠いんだ。まさか……

 そこまで考えて俺の意識は途切れた。
















「はっ!?」

 ソファの上で目覚める。

 慌てて体を起こし顔を触るが、何事もない。よかった、不細工のままだ。いや、ここは残念がるべきか。

「隼人さん、疲れて眠ってしまったようね。今日はもうお帰りになって構わないわ」

 しまった。俺は仕事を放り出して眠ってしまったのか。時計を見ると既に5時を過ぎている。窓から外を見ると夜のとばりが下りていた。少しでも柏原様を疑った自分に猛省する。

「す、すみません。仕事中なのに眠ってしまって」

 なんて失態だろう、社会人失格だ。

「いえいえ、お気になさらず」

 そう言った彼女の様子は、少しいつもと違っていた。



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