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おいでませ

 仕事終わり、先輩がこちらに向かってきた。

「お疲れさま」

「お疲れさまです!」

 先輩が私の目の前で立ち止まる。ああ、相変わらずかっこいいなあ、先輩。その独特の顔が、好き……!


 先輩はじっとこっちを見つめている。あれ、もしかして告白? 告白されるの私? えええ! 心の準備ができていないよ! でも先輩ならもちろんOKしちゃうから。今夜はお互いいっぱい愛し合いましょ――


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな」

「大丈夫ですよ。私はいつでもOKです!」

「……お昼休憩の時に、俺のタオルがなくなったんだけど」

 なんだそんなことか。

「え、そうなんですか。それは大変ですね。私のタオル差し上げましょうか?」

 そう言うと先輩が一瞬ギョッとしたように見えたのはたぶん気のせいだ。

「……辺りを探しても見当たらなくて、誰かに盗られた可能性が高いんだ。誰が盗ったか知らないかな」

「いやあ、ちょっと分からないですね。すみません。勘違いして誰かが持って帰ったのかもしれませんね。きっといつか忘れたころに出てきますよ」

 先輩はなおじっとこちらを見つめている。ああ、突き刺すような視線が気持ちいい、もっと私を見てください。


「ちょっとカバンの中を見せてもらってもいいか?」

 瞬間、冷や水を浴びせられたような感覚に陥る。

 な、なぜ、なぜばれた?


「ど、どうして私のカバンなんですか」

「タオルが盗られないか昼休憩の間ずっと見張ってたんだよ。タオルがなくなる前と後の間に荷物置場に出入りしたのは、お前、橋本だけだ」

 今日、たまたま先輩のタオルが鞄にかけられていたのは罠だったのか。おのれ、私をエサで釣ろうなんて、卑怯だぞ。

 まずい、まずい。一之瀬さんにばれてしまう。どうしよう、どうしよう。

「お、乙女のカバンには、プライバシーがあります。男の人に見せることはできません」

「じゃあ、女性のスタッフを呼んでくるから、それでいいかな?」

 ダメだ、それではダメだ。それでは私が彼のタオルをお借りしたことがばれてしまう。

「いや、あの、それは」

 口ごもる私を見て、ますます先輩の表情が険しくなる。

 冷や汗がダラダラと背中を流れる。やばい、やばい、マジでやばい。






 ……待てよ。

 仮にばれたとして、何か問題があるだろうか?

「やっぱりお前」

「だったらなんなんですか?」

「え?」

「先輩が悪いんですよ。好きって言っているのに、気づいてくれないから。一人で何とかするしかないじゃないですか」

 そう全部先輩が悪いのだ。

「ん? どういう――」

「もしやめて欲しいなら、私とデートしてください。私だけを見ていてください。できれば私と付き合ってください。結婚してください」

 そう、もともと二人が付き合えば何の問題もないじゃないか。

「つ、付き合うことはできない」

「分かりました。じゃあデートに行きましょう」

「え? あ、ちょ」

 ふふふ、何事も順番ということですよね。先輩、分かってますから。恥ずかしがる先輩の手を引いて、私たちは夜の街に繰り出すのだった。


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