他人から見れば
「……ということがあったんですよ」
「うん、それ単に自慢ちゃう? シバいていい?」
のりさんから鋭いツッコミが入る。さすが大阪人だ。
「俺は嫌なんです。まるで支配されているようで。俺を見る目が猫を見るそれと同じなんですよ」
「でもな、ええとこのお嬢様と一緒にお風呂入って、素手で体洗って、おっぱい触っていいって言われたんやろ? その話聞くと、ただ君が自慢したいだけに聞こえるから気を付けたほうがいいで」
「はあ、そうですかね」
「ってか、何で襲わんかったん!?」
おおい、急に大声出さないでくださいよ。俺はスマホから耳を遠ざける。
「君、据え膳食わぬは男の恥、って知ってるか!? そういうときは女性が襲ってくださいって言ってるんやから、きちんと食べてあげないと失礼やで! 一揉みぐらいしときーや! ホンマに君の思考回路はどうなってんねん。もしかしてゲイなんか?」
「いやいや、俺が襲った場合、強姦罪で告訴する、と脅されますよ。その場合、警察や検察は絶対に超不細工な俺の味方をしてくれません。」
俺も前世では、強制わいせつや強姦といった証拠が少なく「相手の合意」の有無で成否が変わる犯罪については、とにかく厳しい取り調べをした。証言が最も重要な証拠となるからだ。美女とブ男なら頭から合意なしと決めてかかってしまう。こういうのを経験則という。
「それが彼女の魂胆なんですよ。そうやって俺を支配しようとしているんです」
「考えすぎちゃうかなあ。嫌いな男におっぱい触らせる女なんかおらんで。単純に君のことを好きになってるとか思ったりせえへんの?」
「それこそないです。絶対にね」
はあ、と受話器の向こうでため息が聞こえる。
「まあ、こればっかりはしょうがないわ。逆に女のほうから襲われるのも時間の問題やし、そのときに気付いたらええんかもな」
確かに、その問題はある。俺が彼女に襲われる、というパターンだ。しかしそこまでして俺を支配したいだろうか。俺のスキルは魅力的だが、俺と交わりたくはないはずだ。
「そうですね、それには気を付けます」
しかし、このとき俺が本当に気を付けるべきは全く別のことだった。いや、このときには既に手遅れだったのかもしれない。
専門分野なので少し解説をば
皆さんは公然わいせつ罪(刑法174条)と強制わいせつ罪(176条)の違いが分かるでしょうか。
公然わいせつ罪は、いやらしいことを一般に公開することです。強制わいせつ罪は、相手に無理やりいやらしいことをすることです。
少し面白いですが、公道で無理やりキスをすることは、強制わいせつ罪にはなりますが、公然わいせつ罪にはなりません。キスは普通に人目のつく場所で行われてもいい行為だからです。
以上、刑法に詳しいおじいちゃんの解説でした。




