囲い込み漁
私は柏原さくら、巨万の富を持つ柏原財閥の娘。
お金で買えないものもあるというが、莫大な財は時として人生をも左右することができる。
例えば、仕事の環境は容易に左右できるものである。それが特別に労働者に不利になるものでなければ、簡単に異動などできるのだ。人事掌握などたやすい。
今回は「少しだけ」袖の下を握らせて、柏原さくら専用の「家電アドバイザー」という部署をつくらせた。部員は一之瀬隼人ただ一人である。当然部長も彼だ。
その業務内容は、家に派遣されて、もとい私の部屋に来て、相談に乗る、もとい私とお茶を飲みながら話をすることである。勤務時間は九時五時にしておいた。
「ふふふ」
ダージリンティーを飲みながら、思わず笑みがこぼれる。欲しい獲物を手に入れる過程のワクワクはたまらない。
「やみつきになってしまいますわ」
舌なめずりをして今か今かと待ち続ける。
狩りとは自分から獲物を捕りに行く野蛮なものではない。獲物を罠にかけ自分の下に参上させるのだ。
「ふふふ」
早くその顔を見たいなあ、隼人さん。
専門分野なので、労働法の解説をします。
配転命令の要件は、①配転の根拠(就業規則など)、②権利濫用(労契法3条5項)に当たらないことです。
ただし、配転を限定する特約(労契法7条ただし書など 勤務地限定契約という名前が多い)をしている場合には転勤命令を出せません。
また賃金の減少を伴う降格的配転は非常に厳しい要件の下でのみ認められます。
以上、法律に詳しいおじいちゃんの解説でした。




