決勝戦そして……
先輩を説得したので、近くのカラオケに入った。
薄暗い照明に個室で先輩と二人きりというのは少し興奮する。
もっとも、先輩は反対側のソファに座ってしまったので、さりげなく体を寄せる作戦は使えない。先輩が予約の機械を持っているときに画面をのぞき込んで「あ、この曲好きです!」と言いながら、さりげなく手を太ももの上に乗せる練習は四百回以上したのになあ……。
先輩の歌はとても上手だった。聞きほれてしまい、何度もおねだりしてしまった。スピッツやDEENの曲といった少し古い歌を歌っていたけれど、この歌がでたとき先輩は生まれていないはずじゃ? お父さんの趣味かな?
「橋本さんも上手だね」
私も歌うと先輩はほめてくれた。
これもう完全に恋人でしょ!
「今日は俺も楽しかったよ。なんかごめんね、いいアドバイスできなかったかもしれないけど」
ネオンサインに照らされた先輩、気のせいかな、ちょっとかっこよく見える。
「いえいえ、先輩のおかげでとても参考になりました。本当にありがとうございます」
無言の沈黙が続く。
ええい、早く誘わないと。先輩はタクシーを呼ぶために手をあげている。ちなみにまだ終電の時間ではない。
まずい、まずい、先輩が帰ってしまう。よく考えたら、最後のお誘いの練習は一度もしていない! 練習しようとすると恥ずかしくなってキャーキャーと転げまわっていただけだった。ここにきて痛恨のミス!
「タクシー来たよ、じゃあまたね」
ええい! かおる! 女は度胸よ!
「あ、あの!」
「うん?」
そう、今までOKをもらった誘い文句のように言えばいいのだ。
「こ、こ、このあとお時間ありますか? こ、今度合コンに行くんですけど、お父さんとホテルにも行くと思うんですね。女一人では価値観が分からないので、どうしても男性と一緒に行ってみてアドバイスが欲しいんです。一緒についてきてください」
あ、駄目だこれ。




