二回戦
一つ目の店を出ると、一緒に繁華街のショッピングロードを歩く。途中、どさくさに紛れて手を当てる。
「ご、ごめんなさい」
「ううん、気にしないで」
ふふふ、きいてる、きいてる。友達に「さりげなく手を当てて、「女」を意識させるのよ」と言われていた。先輩、何だかすごい汗だ。ドキドキしているんだろうか。
「先輩、あのクレープ美味しそうですね」
「食べる? おごろうか?」
「うーん……いえ、太ると嫌なので、やっぱり我慢します」
「橋本さんは十分細いと思うよ」
くびれのあるウエストと胸だけが取り柄ですから。先輩も後で見せてあげますからね。
さて、こうして隣同士歩いて甘いデート気分を満喫したいが、そろそろ二回戦と行こうか。
私は先輩に顔を向け、家で三百回以上練習した台詞を口にする。
「ところで、先輩、このあとお時間ありますか? 今度合コンに行くんですけど、カラオケにも行くと思うんですね。女一人では価値観が分からないので、どうしても男性と一緒に行ってアドバイスが欲しいんです。どうかお願いします、一緒についてきてください」
ん? と首をかしげる先輩。
「なんかさっき聞いたことのある台詞だな」
「え?」
「いやいや、何でもない」
先輩が何か呟いたが、聞こえなかった。
「もう夜も遅いし、帰ったほうがいいんじゃない?」
その手には乗らない、まだ九時だ。
「いえいえ、帰りはタクシーで帰るので大丈夫です」
先輩には終電を逃してもらわないと困る。今日は逃がさない。
「お願いします。どうしても不安なんです」
「うーん……分かったよ」
しぶしぶ、といった感じで先輩は了承した。




