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20世紀シーン1 若山編
後から役場の者らしい人物二人がやって来た。小太りの汗を搔きながら早口で喋る丹田と、ひょろひょろと黒い眼鏡をかけた神経質そうな、道旗であった。若山に、こう言った。
「若山さんのご両親は、兵庫県の赤穂ですが、既に亡くなっているんですね?」
「はい、親戚縁者も、今はどこに居るのか分かりません」
「ご兄弟は居ないと言う事ですが」
「はい、自分がニューギニア戦線に送られる前に、妹が病死しました」
深い憂いを見せて若山は答えると、二人は首を大きく上下し、同情的な所作をしながらも、
「どうでしょう・・そう言うご事情でしたら、こちらの新庄さんの所に籍を入れられませんか?」
「え・?」