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2014年/短編まとめ

指切り

作者: 文崎 美生

好きだと、大好きだと、愛してると何度告げても足りない。


もっともっとこの愛を確かめたい。


でも彼は不安だと言う。


端正に整ったその顔を小さく歪めながら、覇気のない縋るような声音。


ああ、そんなに不安にならないで。


彼の細い髪に指を絡めて向き合えば、彼は眉尻を下げて少し悲しそうな顔。


お願いだから、そんなに泣きそうな顔をしないで。


その顔を見せるのは私にだけだとしても、私はそんな顔をさせたい訳じゃないの。


何をする?何をすればいい?


彼の髪からゆっくり手を下に下ろしていき、男なのにキメの細かい肌に指先を這わせる。


すると彼が私の手首を握り、手のひらにキスを落とす。


「いつまで傍にいられるかもわからない、いつお前が心変わりするかもわからない」


つまらなそうな寂しそうなようわからない顔をして呟く彼。


私の手を握ったままもう片方の手で、くしゃりと髪を掻く。


本当に彼はやきもち焼きなのだ。


だけれど、私は彼のそういうところが好きなのだ。


だから私は何度も彼に嫌われないよう、同じ言葉をくり返し伝える。


「大丈夫」だと。


たった六文字の言葉に私の全ての想いを詰め込んで。


「大丈夫、私は心変わりなんてしないから。大体、貴方以外に好きになれる人なんて現れないから、大丈夫」


掴まれた手首が熱い。


私はその手にもう片方の手を絡める。


「…本当か?」


かすれ気味のテノールが鼓膜をくすぐる。


私の顔を覗き込む彼が愛しい。


「信用ないなぁ。約束するよ、永遠の愛を誓うよ」


苦笑混じりにそう言えば、ほんの僅かに彼の顔がほころぶ。


でもまだ不安があるのか、眉間のシワが取れない。


どうすれば信用出来るか、どうすれば不安が解消出来るのか。


彼が望むことなら全てしてあげたい。


だってこんなに思い悩むくらいに私を愛してくれている。


なら私も同じものを、それ以上を彼に返してあげたい。


髪を切るか爪を剥ぐか、何をすればいいか問えば彼は少し考える素振りを見せる。


そしてしばしの沈黙のあと、彼は何かを閃いたような顔つきになり私の手を離した。


まだ熱を持つ手首を指先でなぞる。


彼の懐から取り出された銀のナイフ。


「指切り、するか」


妖しくそれでもどこか寂しげな表情で笑う彼。


私は熱を持った手とは逆の右手を差し出し、彼に向かって微笑んだ。


愛を示すなら目に見える形の方がいい。


別に指の一本、二本なんてことない。


遥か昔遊女が愛を示すために指を切ったのと同じだ。


それくらいの覚悟がなくては、私は彼を愛せない。

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