表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

悲劇、秘密

 薄暗くなりかけていた周りが突如として明るくなる。明かりが消えたとき、そこに駆逐艦ラッセンの姿はもうなかった。

「「ラッセン」、沈没しました…。」

見張り員が気の抜けた声で報告を入れる。いつもなら「何気をぬいとるか!」を怒号がとぶところだが、誰もとがめられる者はいなかった。

「CIC、艦橋。敵性艦の位置を割り出せ。」

築地が落ち着かせるように、ゆっくりと低い声で命令を出す。

「敵性艦探知!方位3-3-5、距離…わずか40キロ!」

「バカな!?いつからそんな近くに!?」

右ウィングでは見張り員が血眼で水平線を見つめている。一秒でも早く敵性艦を見つけたいのだろうが、視認距離にはまだ遠い。

「艦橋、CIC!「マスティン」より入電!我、敵性艦へ攻撃に移る。貴艦は救助をされたし。」

「CIC、艦橋。了解と伝えろ。それからレーダーから目を離すな!」

「艦橋、CIC。了解しました。」

「マスティン」が敵性艦の方向へと向かっていく。

「機関両舷前進最微ー速!内火艇下ろし方用ー意!」

最上 瞬 船務長が声を張り上げる。すばやく救助しなければ、本艦も無事ではすまされない。

 内火艇が下ろされる。登ってこれるやつもいるかと思い、縄梯子を垂らしておいたが、結構な人数が自力で登ってきた。さすが、アメリカの屈強な軍人どもである。

「船務長!内火艇に連絡!島で待機しろと言え!」

「はっ!?」

新井のとっさの判断だった。

「面舵一杯!機関両舷前進全速!進路3-3-5!」

「副長?何をするつもりだ?」

「戦う気はありません。しかし、友軍艦艇を援護するくらいはするべきと判断します!」

有無をいわさない新井の一言に、誰も反論しなかった。いや、できなかった。

「…面ー舵。進路3-3-5。」

「機関両舷前進全ー速。」

進路を変え、マスティンの後ろについたそのときだった。

ドゴォン!

突然、マスティンに爆発が起こった。何人かの乗員が、海面に吹っ飛ばされるのが見えた。

「マスティン、被弾!」

「なんだ!?CIC、艦橋!ミサイルの発射された時間を逆算しろ!」

もう一度、マスティンから轟音が響いた。燃料に引火したらしく、もうマスティンの姿は見えなくなってしまった。

「CIC,艦橋!ミサイルの報告をしろ!」

思わず声を張り上げる。が、信じがたい報告が返ってきた。

「艦橋、CIC!ミサイルの使用確認できず!今の攻撃は、艦砲だと思われます!」

「バカな!たっぷり25キロはあるぞ!?…それに艦砲一発であんなになるとは思えん。」

「しかし、対空レーダーに一切のコンタクトがありませんでした!」

今さらながら、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。あれだけ近距離にいてレーダーに反応しなかった…。さらにこれまたレーダーに反応しないミサイル…。

「艦長!敵性艦艦砲が本艦の方向を向いています!」

「面舵一杯!バウスラスター起動!急げ!」

艦がググーッと左に傾く。その途端、凄い衝撃がきた。

「うわっ!」

艦が揺さぶられる。ローリングが凄い。まともに立っていられない。

「敵性艦発砲!左舷50に至近弾!」

「くっ、チャフをばら撒け!艦長、ひとまず引きましょう!」

軽やかなリズムで、チャフグレネードが打ち上げられる。

「!?艦長!」

築地は椅子の横に倒れていた。さっきの至近弾だろうか。

「誰か、艦長を!艦長負傷!」

大声で叫んだ。

「左ウィング、芦川三曹負傷!」

「機械室、2名が負傷!」

あちこちから負傷者の報告がとんでくる。ハード的な故障の報告がないのは、本当にないのか、それともわからないのか…

「艦橋、CIC!敵性艦、反転!」

「反転!?」

なぜ本艦を仕留めないのだ?砲撃一発が当たらなかった程度で?

「副長、追いかけますか?」

操舵装置にしがみ付いて難を逃れた沼上が訊く。

「…機関両舷前進原速。取舵一杯。…追わなくていい。2隻の乗員を救助しよう。」

新井は今の状況をどう理解していいか解らなかった。

「予備のゴムボートを使用する。…ああそうだ。準備しろ。」

最上が命令を出す。とりあえず、今の我々にできるのは一名でも多くの乗員を助け、共に帰投することだということしか、頭が回らなかった。

 もう陽が傾ききった洋上に、頭が浮かんでいる。いくら数えても、その数が2隻の乗員の人数に合うことはなかった。


 ウェーク島――

悲しくも、2隻の乗員の生存者を一人残らず救助したが、その人数はわずかに42名。満足に歩ける者は10人にも満たなかった。収容した遺体が、艦内のスペースの一部に整然と並べられている。

 「ライアンは死にました。遺体はこちらです。」

ハワイからきたのだろうか、アメリカ海軍の高級将校がクラークの案内で「こんごう」内のライアン中佐の遺体と対面している。

「新井中佐、後で話があるそうだ。ブリーフィングルームを借りたい。」

新井を見つけたクラークが小声で言った。

「わかった。後で行く。」

新井も小声の英語で答えると、医務室へ向かった。

 「副長!」

医務室には大田がいた。

「艦長の様子はどうか?」

「まだ意識が戻りません…」

うつむきながら答える。

「そうか…」

新井はそれしか答えられなかった。あの時、艦長に賛同して別行動をとっていたら…。後悔が頭をもたげる。

「またくる。引き続き様子を見ておいて。」

高級将校との待ち合わせを思い出し、ブリーフィングルームへと向かった。


 「君が新井中佐か。私は第7艦隊参謀のカーネル大佐だ。」

「お会いできて光栄です、大佐。」

ブリーフィングルームへ入ると、高級将校カーネル大佐を含め、何人か他のアメリカ海軍軍人がいた。全員、第7艦隊がらみだろう。

「そこに座ってくれ、いろいろと話さねばならない。」

ここは断るべきじゃないと、言われたとおりに最前列に座った。

「さて、状況はクラークから聞いた。ご苦労だった、と言いたいところだが、君にはまだ一仕事やってもらわねばならない。」

え?新井は間違いなく日本に帰れると思っていた。

「順序を追って話そう。…ハンス。」

「ハッ!」

他の将官がプロジェクターに映像を映した。艦の二面図だ。

「君たち二人は工作艦の救助を実行中、ある艦に襲われた。その艦がこれだ。艦名は、「アラスカ」」

「アラスカ…」

ふっと何かを思い出した。

「ア、アラスカって工作艦の内部にいた艦…」

カーネルがゆっくりと頷く。

「どうやら、工作艦から自力で出渠したようだ。…そして君たちを襲った。」

カーネルは映像に向き直った。

「実験駆逐艦アラスカ。搭載兵器が問題だ。」

映像が変わった。搭載兵器のリストらしかった。

「100mmレールガン、新型対艦ミサイル、EWAM…」

「EWAM?」

クラークが思わず漏らす。どうやらクラークすらもわからないらしい。

「Electronic Weapon Attack Missile、電子兵装攻撃ミサイルだ。電子を大量に放出し、目標の電子兵装に過電流を流して故障させる。」

「そんな兵器が…」

クラークは驚きを隠さなかった。新井も、目を見開いた。

「この艦はアメリカ海軍の最新技術の塊だ。なんとしてでもとり戻さねばならない。だがこれ以上秘密を知る人物を増やしたくもないのだよ。」

予想外の言葉に、新井は声が出なかった。つまり我々は帰るどころか、この艦の回収に付き合わされるということが明白になったのだ。

「クラーク中佐、新井中佐、両者には「こんごう」で「アラスカ」の拿捕を命じる。」

「おい、ちょっと待ってくださいよ!」

クラークが詰め寄った。

「クラーク中佐、君はサポートだ。「こんごう」に乗艦していてくれ。」

「あんな艦を拿捕しろってか?そんなことができるんだったら、ライアンは死んでない!」

「軍事機密の流出阻止が目的だ。最悪、撃沈してもらってもいい。」

ライアンのことを出して訴えたであろうクラークの必死の反論は、すぐにかき消されてしまった。あきれたといったように、首を数回横に振る。

「「アラスカ」の撃沈…で、いいんですな?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ