バースト〈解放の力〉
今回はありがちなパワーアップな感じです
煉の体から溢れ出る無限に近い炎は、天を貫く柱となり、この荒れ地に鎮座していた。
熱風と、何か分からない巨大な力が魔龍の動きを封じている。
しばらくして、炎の柱の中から、声が聞こえた。
「ウオオオオオッ!!」
煉の咆哮と共に、炎の柱が辺りに弾け飛ぶ。
炎の柱のせいで確認することが出来なかった煉の姿は、最初とは明らかに違っていた。
傷だらけの体からは傷はが消えている。折れているはずの腕も完治している。
瞳は黒から真紅へと変わっている。
そして、煉の右腕に握られている一本の刀。
黒の柄には赤の紐で模様が編まれており、鍔は金色で十字の形。
刀身は、真紅の刃に、刃紋に黒の炎模様が刻まれていた。
そして何より、煉に纏っている炎が変化、いや、進化していると言ったほうが正しいだろう。
今までの炎は、普通の赤。ごく普通の炎だった。
しかし今の煉の炎は、真紅。他に色はない。
純粋に赤い炎は煉の背中で、竜のような翼となっていた。
その姿を見たリオ達は、驚きを隠せない。
死にかけだった煉が何故か復活。おまけに刀を持ったりパワーアップしたりだの頭の整理に困っている。
「煉君……なの?」
美紀が口を開く。
煉は振り返り、優しく笑う。
「当たり前だ。正真正銘赤堂煉だよ」
「じゃあ、その刀は?」
リオが一番の疑問を口にする。
「刀…?何言ってんだよ。俺はそんなもん持って無いって……なんじゃこりゃあ!?」
自分が握っている刀を見て思わず叫ぶ。
「いや気付いてなかったの!?逆に!?」
「気付くか普通!?俺はあの時夢中で…気が付いたらこうなってたのか?」
「いや疑問形で聞かれても分からないわよ」
煉はしばらく考えて、
「まあいっか!!俺のエレメントに変わりねえし。
それにこいつ、何か初めて持った感じしない」
かるく刀を振る。空気を斬る音が鮮明に耳に響く。
「さあ、こいよクソ魔龍。しっかりぶった斬ってやるよ!!」
刀の切っ先を魔龍に向け鋭く言い放つ。それに反応した魔龍が、息を大きく吸い込む。
それに伴い、魔龍の体が風船のように膨れ上がる。
そして、放たれる爆音。
その衝撃波は、真っ直ぐに煉達に向かっていく。
「火城郭」
煉は右腕を真っ直ぐに魔龍の方向へ向ける。そこから現れた、炎の城壁が、魔龍の咆哮を防ぐ。
煉達は、ノーダメージで魔龍の咆哮を打ち砕いた。
「こんなもんか?本気で来いよ」
煉の挑発に乗った魔龍が勢いよく突進してくる。
漆黒に輝く双角はミサイルのように向かってくる。
が、煉は避けずに立っている。
それが魔龍をさらに怒らせる。
魔龍は煉の手前20mでジャンプし、体を高速で回転させながら突っ込んだ。
例えるなら、ドリルを搭載した巨大な隕石。
当たれば何も残らない。
それでも煉は避けずに直立不動を保つ。
やがて魔龍が煉に落下する。誰もが死んだと思ったが、そこには信じがたい光景が広がっていた。
受け止めていたのだ。
巨大な魔龍の一撃を。
空いてる左腕で、魔龍の左の角を掴んで、魔龍の体を空中で受け止めていた。
「案外軽いな、お前」
煉は左腕に力を込め、背負い投げの要領で魔龍を背中から地面に叩きつける。
地面に亀裂がはしり、クレーターが出来上がる。
『ギュアッ!?』
魔龍は何が起こったかを理解するのに少し時間がかかっただろう。
自分の半分以下の人間に投げられたのだから。
魔龍は憤怒で顔を染め、立ち上がる。
そして、煉に向かって右腕を振り抜く。
それな対し煉は右手に握っている刀を逆手で左手に持ち換え、空いた右腕に今までにないほどの炎を纏わせる。
「火禺鎚っ!!」
再びぶつかり合う炎の拳と黒い拳。
今度は、煉の拳が、魔龍の拳を打ち砕く。
粉砕された右腕を見た魔龍は、左腕を構えて再び煉に向かって振り抜く。
が、これも煉の拳で粉砕される。
一度に両腕を封じられた魔龍は、煉から距離をとり、双角を真っ直ぐに向け、突進してきた。
煉は左の刀を右手に持ち換え、右足を前に、左足を後ろに。上半身を屈め、刀を左の腰に、鞘に納めるような姿勢をとり、目を閉じる。
「って煉!?こんな状況で目ぇつぶっちゃ駄目でしょ!?」
リオが叫ぶが煉は応えずに静かに維持する。
「あれって、大丈夫なの……?」
ライズも心配そうに呟く。その時、
「……居合いでござる」
十蔵が口を開く。
「居合い…?何それおいしいの?」
「食べ物ではないでござる」
ライズのボケに十蔵が冷静につっこむ。
「居合いとは日本に古来より伝わる剣術でござる。刀を一度鞘に納め、気を巡らせて、自分の殺傷範囲に入った相手を切り裂くものでござる。気により高められた剣に断てぬもの無し。まさに一刀必殺の技でござる」
「う~ん……ようするに凄いって事は分かった。ボンヤリ」
分かったのか分からなかったのか理解出来ない反応をするライズに十蔵はため息をもらす。
煉はずっとあの姿勢のまま。魔龍もあと30秒で着くだろう。
辺りに漂う張り詰めた空気がリオ達に緊張をはしらせる。
やがて近付いた魔龍。
双角で煉を貫こうとした瞬間、二つの斬撃音が響く。
煉は刀を抜いていた。
魔龍は煉の手前で動きを止める。
見ると、魔龍の角が消えていた。根元辺りから消えていたのだ。
その角は、回転しながら空を舞っていた。
『グオオオオッ!?』
魔龍は頭を押さえて絶叫する。
「おいおい、大根の方がまだ固いぞ?」
刀を肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべて煉が魔龍を見る。
魔龍は尻尾を回転させ、煉を薙ぎ払おうとするも、
「あめえよっと!!」
刀を軽く振り下ろし、尻尾を切断する。
一度落ちた尻尾はバウンドして、角同様に空を舞っていた。
魔龍はこれで、双角、両腕、尻尾を失った。
最初の強さは、完璧に失われていた。
『グルル……ギュアアッ!!』
魔龍は翼を広げ、空へと逃げる。
「あーっ!!あいつ逃げる気だよ」
ライズが指差しながら怒鳴る。
「分かってるわよ言わなくても!!と言っても、飛べる奴……いる?」
リオの一言はごもっともである。
飛べる能力を持った奴はいない。
「大丈夫!!手ならあるよ。十蔵!!」
「何でござるか?」
「俺が十蔵を蹴り飛ばすからそれであいつを撃ち落としてこい!!」
「それって拙者が危ないでござらんか!?」
「問題なし!!終わった後は背中から羽が生えて飛べるから」
「それは手遅れでござる!!」
gooポーズをつくるライズに十蔵が必死に抗議する。
「大丈夫だ。俺が飛べるから」
煉がそう言うと、炎が再び竜の翼となる。
それを羽ばたかせ、煉は魔龍の後を追う。
「……どんだけ?」
リオは短く呟いた。
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「さあて、追い付いたぜ。魔龍よお?」
煉はものの数分で魔龍に追い付いた。
「正直めんどいから、速攻でケリつける…!」
煉は刀に炎を纏わせる。
真紅の刀身は眩しいほどに輝き、刃紋も黒から真紅に変色する。
「仲間傷付けた落とし前、きっちりとってもらうからな」
上段に構えた刀がさらに輝きを増す。
「欠片残さず燃えやがれっ!!!!!」
振り下ろした斬撃は、魔龍を両断。さらにそこから発火し魔龍の体は欠片残さずに燃え尽きた。
魔龍を倒した煉は皆のいるところへ戻る。
改めて刀の事を聞かれたが、疲れがどっときてそのまま気絶してしまう。
煉が目を覚ますのはそこから2日後であった。
ありがとうございました