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The Element  作者: Silver
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赤髪紅蓮の炎使い!?

初投稿です。暖かい目で見て頂ければ幸いです。

ではどうぞ

「迷っちまったな…」

360度森に囲まれた場所で1人の少年が呟いた。

赤色の髪に漆黒の瞳、身長は170ほど。半袖とジーパンといったラフな格好だった。そんな少年が今、絶賛迷子中であった。

「いきなり来いだの言っといて迎えも無しなんて…勘弁しろよな」相当疲れてるようだ。

「たっく、このままじゃ一生着けるかわかん…ガフッ!!」突然衝撃が後頭部にはしる。何が起こったかわからないまま、少年の意識は闇に消えていった。


~~~~~~~~~~~


「う、ん」先ほどの気絶から目が覚めたようだ。

「いったい何だったんだ?って…何だこれ!?」

少年の体はロープでぐるぐる巻きにされており、その挙げ句木から吊るされていた。「おいおい…何が起こったんだ?」少年はとりあえず周りを見る。が、あるのはどこまでも広がる森だけ。時折鳥や獣の鳴き声も聞こえる。そんな感じで辺りを見回していると、

「目が覚めた?」

突然人間の声がどこからか聞こえた。女のようだ。

「目覚めたって、お前か!?いきなり人の頭ぶったたきやがったのは!?」少年は見えない誰かにツッコミを入れる。「おまけに縛って木から吊るすって、俺はそういう趣味はねーんだよ!!」どこか間違ったツッコミであった。

「うるさいわね~、おとなしくしなさいよ!!〈骨喰い〉!!」女の聞きなれない単語に少年は首をかしげる。〈骨喰い〉?誰を言ってるのかわからなかった。

「おい!!俺はそんな奴知らねーよ!!つーか誰だその骨喰いってのは!?そもそも隠れてねーで出てこいや!!」少年の怒涛のツッコミが炸裂した。

冗談じゃねーよ!!いきなり無実の罪で捕まるなんて。「わかったわよ、出てくるから」案外素直に姿を現すようだ。近くの木の影から現れた女は、緑色のポニーテールと金色の瞳といった姿、格好は黒のブレザーとチェックのスカート。ブレザーからは、白シャツ、ネクタイが覗いていた。

「あたしはリオ・ハーマス、この学校の生徒よ」

リオと名乗った少女は木から吊るされている少年の前に立つ。

そしてお気づきだと思うが、学校と言う言葉に

「どういうこと?」と思う人もいるだろう。

そう、この場所は地球ではない。1つの世界がまるごと学校という、超巨大な学校である。

名を、界立SE学園。

「ここの生徒…お~っ!!ちょうどよかった、俺道に迷ってたんだよ」少年は木から吊るされてる状態で体をくねらせながら言った。

「道に迷った?嘘言っても無駄よ、どうせこの辺りに埋められてる骨でも喰うつもりでしょ」

「いやいや、だから喰わねーって!!つーか何をもって俺をその骨喰って奴と思ってるんだよ!?」

再び体をくねらせながら

言う。

「何って………怪しそうだったからよ」つまり証拠の欠片すら無いという。

これには流石に少年はぶちギレる。

「おいぃぃぃぃっ!!いきなり殴って気絶させて勝手に何やったかわかんねー犯人にしといて証拠はって言えば怪しそうだからだあ~!?ふざけんなチキショー!!」「う、うるさいわね!!それより、あんたは誰!?ここで何やってんのよ!?この世界は関係者以外は入れないのよ!!」リオは少年のツッコミに一瞬押されるも言い返す。「ああ!?俺は赤堂煉、今日からこの学校に通うもんだよ。んで途中で道に迷ってここにいたんだよ!!」煉と名乗った少年は簡単な自己紹介と自分のこの状況のなれそめを説明した。

「転校生ってこと?でも、何も聞いてないわよ、あたし達」

「だろうな、昨日突然来いだの言ったからな、生徒が知らなくて当然だろ」

「来いって…誰かがあんたをここに呼んだ訳?」

「ああ、誰だと思う?」

煉はリオに質問を投げ掛ける。しばらく悩んで、

「チァゲスさん…?」

「誰だよっ!!知らねーよそんな奴!!」まるで知らない人の名前にツッコミを入れてしまった。

「え~、じゃあ誰が呼んだのよ?」今のが正解だと思っていたのか、リオは口を尖らせていた。

「理事長だよ」

煉のその言葉にリオは一瞬フリーズする。そしてフリーズがとけた後になぜか笑いが込み上げた。

「にゃははははは!!あんたが理事長の紹介で!?うそうそありえない!!あんたが理事長の知り合いって言うのも馬鹿馬鹿しいわよ」

爆笑の後の散々な批評に煉は額に青筋をうかばせながら言った。

「証拠ならあるぜ。俺のズボンのポケットん中に紹介状が入ってるぜ、〈シンディ・アレイオス〉って名前で」煉が言ったそね名前にリオは耳を疑った。

煉が言ったその名前が理事長の名前であったから。

「じゃあ…あんた…本当に?」

「理事長の紹介で来た転校生。証拠見てーんならロープほどけ!」

リオは嘘の可能性もあると思ったが、これだけ言ってるので嘘の可能性は無いとと思っていた。

「わかったわ、今ほどくから」

「おう、サンキュ!!………んっ?」煉は何かを感じ取った。なにやら、獣のような獰猛な気を…

「じゃ、ほどくわよ」

リオは気づいて無いようだ。煉の変化にも気づかず、右の手に力を込める。

すると、みるみるうちに風が手に集まり、小さな風の刃が出来上がった。

「おっ!エレメントか、風使いってとこだな」

「そっ!あたしの契約属性よ、風はあたしの意のままに操れんの。」

エレメントとは、大地が生み出した力のこと。様々なものがあり、炎や風、雷、水、氷、岩など、これの他にも多くのエレメントが存在している。そして、エレメントと契約して体にその力を纏い操る者を〈エレメンタル〉と呼んだ。

そしてそのエレメンタルを教育する場所こそ、

この界立SE学園である。「ほい、じゃ、降ろすわよ」そう言ってリオは煉を吊るしてるロープを風の刃で切断した。と同時に煉の体は地面に落ちる。

「痛て~なぁ、もう少しちゃんと降ろしてくれよな、たく……よっと!」

煉は倒れてる状態から、ネックスプリングで立ち上がる。ちなみにまだ体はぐるぐる巻き状態である。

「体のほうも今ほどくか……」

「伏せろっ!!」

「きゃっ!!」突然煉がリオの足をはらってこけさせる。リオはうつぶせで地面に倒れる。

「ちょっと!?何すんの…」リオの言葉の続きは目の前を通過した巨大な何かに遮られた。通過したものは先ほどまでリオがいた高さにあった木を粉砕した。

木が倒れ、辺りに砂ぼこりと木屑がまいちる。

「いったい何なの!?」

リオは急いで立ち上がり、周りを見る。すると、自分の前に巨大な化け物がいた。形は人に近いがサイズはゆうに3メートルは越えていた。赤い体に黒の斑模様。腕と足には巨大な爪が3本はえていた。そして、顔らしきものには目は無く、禍々しい牙がずらりと並んだ口だけがあった。

「気持ちわる!!何こいつ!?」リオは後ろに飛んで化け物と距離をとる。

「へえ、グールじゃねーか。何でこんなとこに?」

「何!?あんたあいつが何のかわかんの!?」

リオは煉のほうを見る。

「まーな、あいつは〈グール〉つってな、簡単に言えばゾンビみたいなもんだ。しっかし……おかしいな?」「何がおかしいの?」

リオは煉を見る。

「こいつは本来夜行性なんだよ、でも今は昼。こいつがいるのは本来ありえないんだ」

「偶然出てきたんじゃないの?」

「その可能性もあるけど、普通の出来事じゃね………おわっと!!」

喋ってる煉の後ろから巨大な爪がふりおろされるが、ギリギリで前に飛んでかわす。もう一体のグールが現れたのだ。

「もう一匹いたのかよ」

煉とリオは二体のグールに挟み撃ち状態に陥っていた。

「なあ、リオとかいったな?」煉がリオに喋りかける「何よ!?」焦っているのか、言葉使いが荒い。

「お前、少しは戦えんの?」

「当たり前でしょ!!甘く見ないでよね!」

「オッケ!!じゃあ一匹任せた」煉は自分の前にいるグールから目を話さずリオに言った。

「いやいや、あんたは戦えんの!?」リオは改めて煉の姿を見る。足は使えるものの、体はロープで拘束されている。とても戦える状態ではなかった。

「お前こそ甘く見んな。これくらい、ハンデにもなんねーよ」煉は自信たっぷりに言った。

本当に大丈夫か?リオは内心心配だった。

「じゃ、任せたぞ!!」

煉はグールに向かって駆け出す。途中、巨大な爪の猛攻があったが、ステップを踏んでかわし間合いに入り、「おらぁ!!」腹に強烈な蹴りを叩き込む。

まともにくらったグールは後方に吹き飛び、周りの木々をなぎ倒しながら地面に落ちた。「嘘ぉ!?」リオは思わず叫んでしまった。自分よりもはるかにでかいグールをたった一発の蹴りで吹き飛ばしたから。

するとリオ担当のグールが襲いかかってきた。

爪の攻撃をジャンプでかわす。力を入れたように見えないのに、グールの頭上で身を踊らせた。

そして後ろに着地して右手を構える。

「ハアァァァァ!!」

声と共に、リオの右手に風が集まる。辺りは暴風が吹き荒れる。やがて風は一つの巨大な刃となる。

「『風魔刃!!』」放たれた風の刃はグールに吸い込まれるように正確にとらえた。グールの体は縦に切り裂かれ、左右に半分となったグールが倒れた。

「やるな~、んじゃ、俺もとっととすますか」

そう言うと、

「ふんっ!!」自分を縛っているロープをいとも簡単に引きちぎった。

「嘘ぉ!?」本日二回目の叫び。とにかくリオは空いた口が塞がらなかった。

「やっ~と自由に動ける、そんじゃ……いくぜ!!」

煉はゆっくりとグールに近づく。もちろんグールは容赦無く、巨大な爪をふりおろす。が、煉はそれを腕一本で受け止める。「きくかよ」そう言って、煉は腕に力を込める。

ギリギリとグールの腕が締め付けられた。

『ガグ……グガァァ!!』 グールはもう一本の腕で、煉を薙ぎはらおうとするが、また受け止められる。

両腕を締め付けられてグールは片膝を着く。

「ちっちゃとすますぜ」

煉はグールの両腕をしっかり掴んで、

「おらぁぁぁ!!」持ち上げた。持ち上げたられたグールは空中で足をばたつかせてる。そしてさらに、

グールを回し始める。

ジャイアントスイングのように振り回す。

「そ~らよ!!」やがて空に放り投げる。

放り投げられたグールは

頭から地面に落下、そのまま動かなくなった。

「うーし、終わった」

煉は手をパンパンと叩いてリオに一つの封筒を投げる。慌てて受けとったリオは「開けるわよ?」

「どうぞ~」

一応許可を得て封筒を開ける。中には一枚の手紙。

『は~あ~い。煉、元気だった~?突然なんだけど、あたしの学校に来てくれない?理由は後で話すから♪じゃ、よろしく~♪来なかったらどうなるか~

シンディ・アレイオス』

と、なんとも軽い感じだった。しかし書かれている

理事長の名前は本物。

間違いない、リオはそう思った。

「それが証拠だぞ」

煉が勝ち誇ったようにニヤニヤしてリオを見る。

「わかったわよ、学校まで案内したげる。けど、さすがに遠いかな……あの子呼ぼう」リオはブレザーの胸ポケットから翡翠色の笛を取り出す、リオは大きく息を吸い込み笛に息を吹き込む。

『ポーーーーーーッ!!』

聞いたことの無い音色が森の中を駆け抜ける。

しばらくすると、離れたところから何やら足音が聞こえてきた。

『カッ!カッ!カッ!』

やがて、足音の主は煉とリオの前に姿を現した。

鮮やか緑の体の馬だった。背中には一対の天使のような翼。そして最大の特長は体に纏っている風。そばにいるだけで飛ばされそうな勢いだった。

「ストームペガサスか、お前のペットか?」

「そっ!あたしの愛馬。名前はウィンよ、ほらご挨拶」リオがそう言うと、ウィンが煉に頭をさげる。

「ご丁寧に」

煉もお辞儀をする。

「じゃあ乗って、学校まですぐだから」

リオはウィンにまたがる。煉もリオの後ろに飛び乗る。

「いっくわよー!!」

リオの掛け声でウィンが駆け出す。風のごときスピードで森を駆け抜ける。

やがて森を抜けると、目の前に広がる、崖。

「おいおい、この先崖じゃん、大丈夫なのか?」

案外落ち着いてる煉と、

「当たり前よ!!この子をなめないでね!」

余裕綽々のリオ。

そして二人を乗せたウィンは崖から飛び出した。

が、落ちはしなかった。

ウィンは翼を羽ばたかせ、空を舞っていた。

その姿は、まさに芸術。

「もうすぐ着くわよ」「あとどんくらいだ?」

「もう見えたわよ」

「本当にすぐだな」

煉はリオと同じ方向を見る。そこには、巨大な街のようなものがあった。

真っ先に目に入ったのは

純白に輝く巨大な時計塔

それを中心に形成されている街。

「へえ、これがSE学園か、つーかでかすぎだろ?」

ウィンにまたがってる煉は上空から下を見る。

「当たり前よ、言っとくけど、この学園は色白なエリアに分かれてんぬよ。例えばここが中心の『学園エリア』で、自然が豊富に栄えてる『ガイアエリア』、エレメントの実習に使われる『エレメントエリア』。

まあ他にも沢山あるわ」

リオは簡潔に学園の説明する。

「豪華なこった、まあいっか。なあリオ?」

「何?どうかした?」

振り返って煉を見る。

「ばあさんがどこにいるかわかるか?学園に着いたら顔見せろって言われてるから」「ええ、わかるわよ。あの時計塔の最上階が理事長室になってるから」

「じゃあ早速連れてって」煉はすぐリオに頼む。

「わかったわかった、連れてくから、ウィン」

リオはウィンに呼び掛ける。するとウィンは翼を強く羽ばたかせ上昇する。

あっという間に時計塔の最上階に到着する。が、

「来たはいいが、どうやって入るんだ?」

確かに、時計塔の壁には扉らしきものは無い。

あると言えば、少し大きめの窓があるだけだ。

「大丈夫よ、よいしょっと!」リオは窓の近くにあるボタンを押す。すると突然窓の前に巨大な魔方陣が出現する。

そしてウィンはその魔方陣に近づく。

「これを通れば中に転移できるわ」リオが煉に簡潔に説明した。

「こんなのもあんのか」

何でもありの世界に煉は苦笑する。

そんなことを思っていると、いつのまにか時計塔の中に入っていた。

中世貴族のお屋敷の様に豪華できらびやかな装飾が所々に見られた。

「随分派手だな」

「理事長のデザインよ、いかすでしょ?」

「あ~、そうだなー」

「随分と適当な返事ね」

煉は派手な出現装飾に目がチカチカしていた。

リオはそんな煉を睨むが気づいてないようだ。

「まあいっか、理事長室どこ?」

「そこの扉よ」

リオが指差した扉は、

金色に縁取られた漆黒の扉だった。飾りは、羽を生やした竜が向かい合ってる様子が彫られていた。

「派手すぎだろ!!」

煉は思わず突っ込んだ。

「うるさいわね~、理事長、リオです。ただいま戻りました」

リオは扉をノックして向こうの人物に話しかける。

『どうぞ、入って』

扉の向こうからは色気のある女性の声が返ってきた。「失礼します」

と、リオがドアノブに手を掛けようとすると、

「はいストップ」

突然煉がそれを制する。

「え?どうしたの?」

リオは頭に?マークを浮かべる。

「見てろって」

そう言った煉がドアノブを回して扉を開ける。

その瞬間、開けた扉から

何かが高速で煉に向かって飛んできた。

「あらよっと」

煉はそれを指で挟んで軽く受け止める「な、何か飛んできた」

リオは口を開けて驚いている。

「相変わらず恐ろしいな、ばあさん」

煉はその呼び方を懐かしむように言った。

「あんたも変わりないようね、煉」

そして理事長室の中央に置かれた机に肘を置いている一人の女性が煉に言った。美しい人だった。

流れる様な長い金色の髪、それと同色の瞳は宝石のごとき輝きを放っていた。

八頭身のナイスバディを包むのは漆黒の生地に銀色の欠片を散りばめたロングのワンピース。

この人物が、界立SE学園現理事長、シンディ・フレイアンその人である。

「たくっ、開けた時にいちいち物投げんなよな」

煉は指で挟んでいる羽ペンをくるくると回していた。どうやら最初に飛んできたのは羽ペンのようだ。

「いいじゃないの、当たってもたいして痛くないでしょ?」シンディは悪びれた様子を見せず軽く煉に返す。

「昔あんたが投げた鉛筆(HB)のせいで俺が病院に送られたのを忘れたか?」

煉は額に青筋を浮かべてシンディを睨む。が、

「そうだったっけ?」

まるで覚えて無いように振る舞うが、煉から見たら、とぼけてるのは明らかだった。

「まあ、いいわ。改めてようこそ、赤堂煉。我が学園に。でも、大分遅かったんじゃないの?」

「あ~、その件だが、ここに来て色々面倒なことに巻き込まれちまってよ」煉は頭をかきながらリオのほうを見ながら今までの経緯を話した。

「あらあら、大変だったわね。」

シンディはクスクス笑いながら言った。

「で、リオ、《骨喰い》は見つかったかしら?」

シンディは真剣な表情でリオを見る。「いえ、まだ捜索途中です。手がかりは…」

リオは申し訳なさそうにうつむいた。

「そう、大丈夫よ。きっとすぐ見つかるわ」

シンディはリオに優しく言った。すると、

「なあ、ばあさん」

煉が突然口を開く。

「どうかした?」

「関係があるかどうかわかんねーけど、ここに来る前に、二体のグールに襲われたんだけど」

煉はそのことを話すのをすっかり忘れていた。

「てことは、昼あたりね、おかしいわね?」

シンディは煉と同じ意見を口にした。

「だろ、何かあると思うけど…」煉はそこで考えこんだ。

「わかった、この件は詳しく調べるわ。リオ」

シンディはリオを呼ぶ。

「はい」リオは短く返事してシンディに歩み寄る。

「煉をクラスに案内してあげて。ベニーにも話してあるから」

「わかりました……って!?あたしと同じクラスですか!?」リオは思わず声を大きくしてしまった。

「ええそうよ。何か問題でもあるかしら?」

「ありますよ!うちのクラスは特進クラスですよ!?色々と転校生でもテスト受けないといけないんですよ!?」リオはまだ驚いているのか自然と声のボリュームが上がっていく。

「テストってどんなんだ?」煉がリオに聞く。

「簡単に言えば、エレメントの素質を試すの。聞いてたと思うけど、あたしのクラスは特進クラス。エレメントの扱いに長けた人間が集められたクラスよ。転校生が入るにはクラスの代表とエレメントの実戦をしていい評価を得れば入れるって言うシステム」

「なるほどな、要するにお前んとこの代表を倒せば入れるってことな?」

煉は口元に余裕の笑みを浮かべていた。

「簡単に言うけど、口で言えるほど甘くないわよ」

「まあいいじゃん、ちっちゃとすませたいからな」

本当に大丈夫か?リオのそう思っていた。

「じゃあ早速クラスに行ってもらうわよ。代表は……適当に決めていいわよ」

シンディは軽くリオに指示を出した。

「わ、わかりました…」

「んじゃ、案内よろしく」煉は手をパタパタさせながらリオに言う。

そうして二人は理事長室を後にして特進クラスへと向かった。

一人となった理事長室。

シンディは机の上に置かれた一枚の写真を手に取った。そこには、幼い頃の煉ともう一人の人間が映っていた。

「煉は……強く育ったわよ。爛…」シンディが口にしたその名前。それを出す度にシンディの心は締め付けられるようだった。


~~~~~~~~~~~


「ねえ、煉?」

「ああ?どうした?」

煉とリオは教室に向かう最中に話していた。

「理事長とあんたの関係ってどんなんなの?」

リオは気になっていた疑問を煉にぶつけた。

「ばあさんとの関係ね~……なあリオ?」

質問の答えを返さず、煉はリオに呼び掛ける。

「何?」

「《崩界戦争》って、知ってるか?」

煉が口にしたその言葉。

それを聞いたリオは顔色が変わる。

「当たり前よ。3年前に起きた超大規模戦争でしょ?確か……地球界で起こったのよね?」

《崩界戦争》これを聞いて知らないと言う者は世界広しどいないだろう。

突然なんの前触れも無く始まったこの戦争は、数万の大群が次々と国を崩壊させていった。

首謀者は未だに不明。

歴史上最凶の犯罪者として指名手配されている。

「それが何かあるの?」

「その戦争で俺は家族を殺されたんだ」

「えっ……?」

不意討ちだった。あまりにも突然に自分の辛い過去を話されたので上手く答えることが出来なかった。

「正確には、親父とお袋が殺されて、兄貴は今も眠ってる。全部……あの野郎のせいでな…」煉はあの野郎と口にすると拳を固く握りしめた。

「…………」

リオは黙って聞いてるしか出来なかった。

「おっと、悪いな、辛気くさい話をしちまって」

「うん、気にしないで。あ、着いたわよ」

リオが立ち止まった扉には『Ⅱ-Ⅴ』と掘られた銀の表札が掲げられていた。

「ここがあたしのクラスよ。ちょっと待ってて、先生呼んでくるから」

そう言ってリオは教室に入って行く。

中から挨拶をかわす声が聞こえた。

突然話す人間がいなくなったから煉は一気に暇になってしまった。

「何か面白そうなのねーかなー?」

近くの窓から外を見てると、「おっ!」何かを見つけたようだ。

待っていろと言われたにも関わらず煉はすでに教室の前から姿を消していた。

「お待たせ~……煉?」

リオが戻った時には煉はいなかった。

「あいつ、どこいったのよ!まったく!」

怒りながらまわりを見ていると、窓の外から聞き覚えのある声が聞こえた。

急いで窓に近づき顔を出すと、

「おっちゃん!この野菜最高!めちゃめちゃ旨い」

「かっかっか!!若いのに中々わかってんじゃねーか!!ほれ、もう一本サービスだ!!」

「おっ!!サンキューおっちゃん!」

窓の下にある野菜畑で煉と麦わら帽子をがぶった農家らしき老人が楽しそうに話していた。

「ちょっと煉!あんた待っときなさいって言ったでしょ!!」「お~リオ、お前も食うか?旨いぞこの人参」

煉は左手に持った人参を振っていた。

「いらないわよ!それより早く上がって来なさい!皆待ってんだから!」

「うっせ~な~、分かったよ。すぐ行く。じゃあおっちゃん、またな」

「おお!また来い、今度は胡瓜が収穫できるから」

煉は農家のおっちゃんに別れを告げてリオが顔を出している窓の下に走ってきた。ちなみにリオが顔を出している窓は煉がいるところから10メートルほど高いところにある。

「お~いリオ、窓から離れとけよ?」

「はあ?何でよ?」

リオはてっきり階段を上がって来ると思っていた。

「ばーか、ぶつかったらどうすんだよ?そこまで飛ぶからどいとけって言ってんだよ」

「あんた……飛ぶって、ここまで来るなんて無理でしょ!?」リオは当然つっこむ。助走も無しに、いやあったとしても無理だろう。

そんな芸当が出来たらオリンピックで金メダル以上が取れるかもしれない。

「大丈夫だって……よっと!!」煉はその場で膝を曲げて、掛け声と同時に曲げた膝を一気に伸ばす。

すると煉の体はリオが顔を出している窓まで飛び上がった。そして窓の縁に手足を掛ける。

「……………」

リオはもう何も喋らなかった。目の前にいる常識はずれの力を持った人間には何をつっこんでも無駄だと分かったのだ。

まあエレメントで風を自由に操っている少女に常識はずれの力を持った人間と言われた煉が少し不憫に思える。「じゃあ行こうぜ。代表とやらも倒さないといけね~んだろ?」

煉は人参をポリポリ食いながら教室の扉に向かう。

「まったく、遅れたの怒られたらあんたのせいよ」

リオは文句を言いながら教室の扉を開く。

その音に反応したのか中にいた生徒達(約30人)が一斉にこちらを向いていた。

「遅いよ~リオちゃん」

男子生徒の一人がリオに話しかけた。

「ごめんごめん、色々あってね。ほら、入って来なさいよ」リオは外にいた煉を強引に中に引っ張りこんだ。すると今度は煉に視線が集中する。

話辛れー、煉の内心だった。すると、

「君が赤堂君ですね?」

どこからか聞こえた声、

少し大人びた女性の綺麗な声だった。が、肝心な話してる本人の姿が見受けられない。どこにいるのかと回りを見てると、

「下ですよ、下」

また聞こえた。下?

声に従って下を見る。

するとそこには煉の腰あたりくらいしか無い伸長の女性?いや女児が煉の顔を見上げていた。

「気付きました?」

「え~と…誰ですか?」

煉はとりあえず一番の疑問をぶつける。

「私はこのクラス担任をしてます、ベニー・プラムと言います。話は理事長から聞いてますよ。編入テストを受けるんですよね?」

「話が早くて助かりますよ、で…代表は誰です?」

煉はクラスを見回す。

「あ~、それなんですけど、理事長は適当に選んでと言ってたので。う~ん………誰かやりたい人!!」

挙手制かよ!煉は内心でつっこむ。

「じゃあ俺やる!」

「あ!!じゃあ俺も俺も」

「お前がやんなら俺がやるわ!!」

「オレダオレダオレダオレダオレダオレダ!!!!!」

なんだかめんどくさいやりとりが行われているのを横目で見てると、

「うるさいですよ!!僕が一番ふさわしいでしょ?」

突然一人の眼鏡男子が声を上げた。

「「「何だと!?」」」

「ナンデスト!?」

若干一人はもれなかったが一斉に眼鏡男子を睨む。

「君たちじゃ負けるよ。少なくとも僕なら勝てるよ。君たちより実力があるしさ」隣で聞いてる煉も若干ムカついていた。

「俺に勝てるねぇ?ふーん、言ってくれんじゃんかよ。いいぜ、お前で。」

煉は挑発するように眼鏡男子に言った。

「言っておきますが、君のような素人では勝てるわけないと思いますよ?理事長の紹介か何だか知りませんが、逃げてもいいですよ?」嘲笑うように煉を見る眼鏡男子に煉は声に威圧感を纏わせて言った。

「素人かどうかわてめえで確かめな。どうせ嫌でも知るからな」

煉と眼鏡男子のにらみ合いにクラスの生徒は口笛を吹きながら盛り上げた。

「じゃあグラウンドに行きましょう♪早速テストですよ~!!」

『オーーー!!!』

クラス全員大合唱で掛け声を上げた。


~~~~~~~~~~~


そしてグラウンド。普通の学校のグラウンドととは規模が違った。トラックは一周500メートルほどあり、端々には体操器具等が設置されていた。

そのグラウンドの真ん中で煉と眼鏡男子が対峙していた。回りにはクラスの生徒の他に、別クラスの連中

そして何故かシンディの姿もあった。

「では、テストを開始します。合格基準は相手を戦闘不能にすることです。エレメントの解放も許可します。では、開始!!」

ベニーのテスト開始の合図が上がった瞬間、眼鏡男子が両手を地面に叩きつける。すると、地面が棘状に変化してまっすぐ煉に向かっていったが、

「よっと!」煉はジャンプで棘をかわす。しかし、

「甘いですよ」

ジャンプで空にいる煉の真上に巨大な岩が浮いていた。「うおっ!?」

さすがに煉も驚く。

「かわすことなんて計算済みですよ。潰れなさい!」 眼鏡男子の言葉で岩が煉に向かって落下していく。

当たれば痛いのレベルではすまない。かなりヤバイ状況というのに、煉は余裕の笑みを浮かべていた。

「甘いのはどっちだ?」

煉は空中で体を後方に回転させ、回転で威力を上げたサマーソルトキックを岩にぶちあてる。

岩は煉のキックで粉々に砕け散り地面に落ちた。

「よっと」

煉も少し遅れて地面に降り立つ。

眼鏡男子は忌々しげに煉を睨み付けている。

「口では結構なこと言ってたけど、この程度か?」

挑発が気に入らなかったのか、眼鏡男子は怒りで顔を染める。

「黙れえええええ!!!」

怒りの声とともに右手にバスケットボールほどの岩球を作り出した。

「食らえ!!」

放たれた岩球は鈍い衝撃音をたてて煉の胸あたりに激突する。回りのギャラリー達数名が悲鳴をあげる。

「テストは終わりですね?僕の勝ちです」

眼鏡男子は息が上がっていた。最初と違って冷静な感じが消えていた。

「おいおい、何勝手に終わってんだ?」

「なっ………!?」

突然の声に眼鏡男子は言葉を失う。岩球は当たっていたはず、だがまるで平気そうな声に思わず背中に冷たいものがつたう。

「だいたいこんなんでやられるほど、やわな鍛え方はしてないんでな」

煉は岩球を片手だけで受け止めていた。普通のバスケットボールを片手で掴むのは難しいのにも関わらず、岩球を受け止めた煉の力は異常なほどだった。

「岩を操るロックエレメントか…まぁまぁだな。じゃ、そろそろ終わらすか」

そう言うと煉は掴んでいた岩球を握り潰した。

ぼろぼろと煉の手から破片がこぼれ落ちる。

「ひっ!?……化け物!」

眼鏡男子は喉で小さな悲鳴を上げた。

「化け物とは言ってくれんじゃんかよ。まあ、別にいいけどな。んじゃ、ちっちゃとやるか」

煉がゆっくりと近づく。

「く、来るなーー!!!」

眼鏡男子は今度は3つの岩球を生み出し煉に向かって放つが、全て正確に蹴りかえされた。眼鏡男子の横、上をすれすれに遥か遠くに飛んでいった。「あ……あっ……」

もはやまともに話すことすら出来なかった。それだけ目の前にいる人間に恐怖を覚えたということだ。

「いくぜ」煉が言ったたった一言で眼鏡男子は顔を青ざめさせた。

すると、今まで目の前にいたはずの煉が消えていたのだ。ほんの少しの間に煙のように消えてしまっていた。

「どこだ!?どこにいる」

眼鏡男子は回りをひたすら見るがどこにもいない。

すると、

「後ろにいるぜ」

不意に聞こえた声。

「くっ!?………があっ!」 振り向こうとした瞬間、首に衝撃がはしる。煉が脛椎に手刀を叩きこんだのだ。眼鏡男子は短く呻き声を上げて地面に倒れこんだ。

「はーい!そこまで。赤堂煉君、編入テスト合格です!!君も今日からこの学校の生徒ですよ」

ベニーのアイズでテスト終了。同時に煉がこの学校の生徒になった時だった。「案外簡単だったな」

煉は余裕そうに言ってるが、シンディとベニー以外のギャラリー達はいまだにざわついていた。

それもそうである。学園の中でも優秀な生徒を集めた特進クラスの人間をエレメントを使わず、手刀一発で気絶させたからだ。

おまけに巨大な岩を握り潰したり、蹴り砕いたりすれば、たいていの人間は驚くしかリアクションをとることは無理であろう。

「少しは成長したわね」

シンディが煉に歩み寄って言った。

「あんたがいなくなった後も鍛えてたからな。ま、実戦は久しぶりだったから、勘を取り戻すにはちょうどよかったよ」

「ふふ、ならよかったわ。あっ、煉」

「ん、どうかしたか?」

煉は振り返ってシンディの方を見る。

「エレメントのほうは最近使ったかしら?」

「いや、あっちでもこっちでも、ここしばらく使ってねーな。使える機会がありゃいいんだけど…」

煉は右手の甲に描かれている、黒い紋章に視線を移した。この紋章は《属性陣》と言われてる。エレメントと契約を結んだら人間のみにある、エレメントを持っていることを証明するためのものである。「まあいいわ。ここならエレメントの実戦なんて腐るほどできるから、勘を取り戻すにはそう時間はかからないでしょうね」

「だといいけど………おっ、忘れてた忘れてた」

煉はいまだに気絶中の眼鏡男子に近づくと、

「ほっ!!」背中を掌でかるく押す。一瞬体が動き、しばらくすると眼鏡男子が目を覚ました。

「う……つぅ…」痛そうに煉の手刀がヒットした箇所をさすりながら起き上がった。すると目の前には、

「目、覚めたか?」

煉が口元を歪ませながら立っていた。

「ぎゃああああああっ!!でたあああああっ!!」

戦う前の威勢はどこえやら、眼鏡男子は完璧に煉に対して尋常じゃない恐怖感を抱いてしまっていた。

「おいおい、でたはないだろ。人を化け物みたいに言いやがって」

とは言いつつも煉の力はエレメントを使わなくても遥かにでかい岩を簡単に砕けるので化け物並の力は持っていた。

「ひい!すいませんすいません!調子にのったこと言っちゃって!勘弁してくださーーい!!」

眼鏡男子の見事な土下座と態度の豹変ぶりに煉は若干戸惑いつつも何とか会話を終わらせた。

「さて、煉」

シンディが煉を呼ぶ。

「どうしたばあさん?」

「編入テストに合格したあなたは今日からこの学園の生徒になるのはわかるわよね?」

「当たり前だ」

「色々な説明があるからこれが終わったら理事長室に来てちょうだい」「わかった。なるべくはやくいくから」

「10秒で来なさいね」

「どう考えても無理だろ!!」シンディの無茶な要求につっこんだ煉は約5分後に理事長室へと着いた。


~~~~~~~~~~~


「さて、煉。あなたに渡す物がまず2つあるわ」

「制服とカバンか?」

煉の予想はこの2つだったが、

「この学園は制服は無いわよ。どんな格好でも問題ないわ。カバンも同様よ」

理事長室にある机を挟んで煉シンディに学園の説明を受けている真っ最中だった。

「じぁあ何を渡すんだよ?あいにく、他にはうかばねーぞ?」

そんなことを言うと煉にシンディはこめかみをおさえる。「まったくあんたの頭の許容量には呆れるわ」

「いやひでえな!!」

自分の頭の許容量を馬鹿にされた煉は即座にシンディにつっこむ。

「一応オーソドックスなの言ってなーんで許容量無いだの言われなきゃなんねーんだよ!!」

「うるさいわね~、とりあえずあんたに渡すの物は《属性獣の笛》と《コネクトサークル》よ」

「何だそれ?」

初めて聞く2つの言葉に煉は頭に?マークを出す。「わかってないみたいみたいだから説明するわよ。まず《コネクトサークル》これはエレメントを持つ者同士が離れた距離で通信することができるものよ」

「ようわ携帯電話みたいなもんか」

煉の例えにシンディはかるくうなずく。

「で、《属性獣の笛》のほうだけど、この学園の生徒全員が自分にあった属性獣と契約を結ぶの。あとちなみに、属性獣っていうのはエレメントを全身に纏った獣なの。で、それを呼ぶ為にさっき言った笛が必要なのよ。わかった?」

シンディの怒濤の説明を聞いた煉は、

「だいたいわかった。つーことで、その2つをさっさとくれ」わかったのかわからなかったのか、呑気に言葉をかえす。

「コネクトサークルは簡単だけど…属性獣のほうはしっかり選ばないと後が大変よ?」

「選ぶって、どうやって選ぶんだよ?」

煉は不満そうに言う。

「属性獣にも色々いてね。ま、とりあえず呼んでみるわよ」

「どうやってだ?」

煉が言うと、シンディは机の一番上の引き出しを開ける。すると中には様々な色、形の笛が規則正しく並べられていた。

「これが《属性獣の笛》よ」「色々あんな~、どんくらいあんだ?」

「ここにあるのはごく一部、ほかの笛は別の倉庫に保管してるわ」

ふーんとうなずきながら煉は、

「なあ、おすすめとかは無いのか?俺こういうのはわかんね~からさ」

頭をかきながら煉が呑気に言う。

「おすすめねえ?うーん………あっ!」

机をあさっていたシンディが1つの赤い笛を取り出した。十字の形で真ん中には金色の宝玉が埋め込まれていた。

「これが一番のおすすめよ。あんたのエレメントとも相性がいいわよ」

シンディは自信たっぷりに煉に言い放つ。

「ふーん、こいつがね~?まあいっか」

「あと言っとくけど、ここでそれを吹かないようにね。その子かなりじゃじゃ馬だ……」

『ピューーーーー!!』

シンディが言い終わる前に煉が笛を響かせた。

「ん?何か言ったか?」

吹き終わった煉がシンディのほうを向く。

「あんたっ!?ここで吹くなって言ったのに!?なんでそう最後まで話を聞かないの!?も~また修理代がかかるじゃない」

「修理代って、なんだよ、そんなに暴れん坊なのかよ?こいつ」

煉が先程吹いた笛を指に引っ掛けてクルクル回していた。

「すぐにわかるわよ…」

シンディの言葉には『こいつ何してくれちゃてんの?』的な雰囲気を纏わせていた。

そしてしばらくすると、

どこからか何かが高速で地を駆ける音がした。

カッ!カッ!カッ!カッ!と

馬が蹄で地を響かせてるような音だった。

「何の音だ?……馬?」

「やっぱり来ちゃったわね~~……」

何もわかってない煉と、

理解していて頭を悩ますシンディがいる部屋に突然巨大な何かが突っ込んできた。豪華な装飾に飾られた壁や窓は木っ端微塵に砕かれた。煉は慌ててその場から退き、何が起こっても対応できるように戦闘体制をとった。が、その必要はなかった。

「いったいいつになったらまともにここに入ってくるの?バーンズ」

「わりいな。ついついスピード出しすぎたわ」

煉が戦闘体制をとって警戒しているわりには中々の温度差で会話がされていた。バーンズと呼ばれたのが気になり、煉はまだ破片などがまいちる中で目をこらす。すると目の前にいたのは、馬だった。ただ普通の馬ではなかった。深紅の体に漆黒の鬣と蹄。瞳は金色に輝いていた。そして一番の特徴は、頭に生えた一本の角。まるで日本刀のような長さと鋭さを備えていた美しく雄々しい角だった。

簡単に言えばユニコーンである。

「こいつは、フレイムユニコーンじゃねえか、初めてみるな」

煉は目の前にいる巨体な一角獣を見つめていた。

「おい小僧、お前が俺を呼んだみてーだな?名前はなんだ?」

「あぁ!?」

いきなり馬に小僧呼ばわりされたのが気に入らなかったのか、煉が額に青筋を浮かべる。

「誰が小僧だこら!?俺には赤堂煉って名前があんだよ!!初対面の相手には礼儀くらいわきまえろや!なめた口叩いてっと馬刺にすんぞこら!!」

空想上の一角獣にむかって馬刺にするぞと言ったのはおそらく煉が初めてであろう。

「ほ~う?俺様を馬刺だぁ?言ってくれんじゃんかよ、俺様の名前を聞いたら腰抜かすぜ?」

フレイムユニコーンが勝ち誇った顔で言う。

「天駆ける赤い流星、深紅の刀角、止めることは100%ノンストップ!!フレイムユニコーンのバーンズとは俺様のことよ!!」

「……………」

バーンズの芝居がかかった自己紹介に煉は無言&無表情だった。今時こんな恥ずかしいことをいとも簡単に言っている一角獣が可哀想だった。

「けっ!!びびんのも無理はねーぜ、なんせ属性獣のカリスマだからよ」

うわ~、自分でカリスマとか言ってるよ。痛すぎるよこいつ。煉の心の声。

「はいはいそこまで。いつまでやってんの?バーンズ、あんたいい機会だから、こいつと契約しなさい。幸いあんたと同じエレメントだし。問題なしよ」

シンディが一人と一匹の間に入る。

「ちょっと待ってくれよシンディ!?俺様がなんでこんな小僧と」

「小僧ゆうな!!角折ってただの馬にすっぞ!?」

「んだと小僧!?俺様の角はな、竜の鱗も貫ける代物だぞ!そう簡単に折れるかってんだ!!」

「竜の鱗くらい俺だって素の力で砕けるわ!!なめんな馬が!!」

「あぁ!?じゃあ今ここでやるか!?」

「上等だよ!!叩き潰…」

「いい加減にしろ!!」

『ガンッ!!、ガンッ!!』

対峙する一人と一匹にシンディが一喝&拳骨をそれぞれの頭上に振り降ろす。

「がっ!?」「あいでっ!」 それぞれの呻き声を上げてその場にうずくまる。

「いつまでやってんのよ、煉、右手出して」

「いってー、あぁ?右手?ほれ」頭をさすりながら素直に右手を差し出す。

するとシンディは煉の右手を掴むと、バーンズの額に強制的に接触させる。

瞬間、煉とバーンズは淡い赤の光に包まれた。

「うおっ!?何だ!?」

「あっ!!シンディてめ!」 驚く煉としまったと言わんばかりの顔をしたバーンズにかまわず互いを接触させ続けるシンディ。

やがて光は消え、残ったのは先程となんら変わっていない煉とバーンズ。

「はい契約完了。今からあんたらはそういう関係だから。わかったわね?」

「待てやコラ」

そう言って立ち去ろうとするシンディの肩を煉が掴んだ。

「いきなり契約させんなよ!!もうちょっといいのいたかもしれないだろ!!」

「あら、おすすめを紹介してくれって言ったのはあんたでしょ?大丈夫よ、飼い慣らせばいい子だから」

「いやいやばあさん…」

「わかったわね?」

「いや、だから……」

「わかったかしら?」

「…………はい」

シンディの氷のような声で煉は完全に負けた。「じゃあそういうことだから。あたしは仕事があるからじゃあね~」

手をひらひらさせながらシンディが扉を開こうとしたとき、

「り、理事長!!」いきなり一人の男性が扉を壊さんばかりのいきおいで理事長室に飛び込んできた。

どういう訳か顔が真っ青だった。

「いったいどうしたの?説明して」

シンディは突然の状況にも冷静に対処する。

「た、大変なんです!!今入った報告で学園エリアの森林地帯から総勢50のグールの大群がここに向かって来ています!!」

「何ですって!?」

その報告を聞いたシンディは思わず目を見開く。

「学園を囲んでる防護壁も破壊されており、校門前に到達するまであと、10分といったところです」

「ありえないわ、グールは夜に活動するはずよ。まだ日が登っている今に現れるなんて、それに群れになることも初めて聞くわ」

初めての状況に戸惑いを隠せないシンディと男性。

2人が頭を抱えていると

「なあ、ばあさん」

煉が口を開く。

「この学校でグールが現れたのは今が初めてか?」

「いいえ、数ヶ月前に一体現れたけど…」

「そいつはどうした?」

「見つけた生徒がエレメントを使って倒したわ」

「そいつの死体は?」

「蘇る心配は無かったからそのまま放置したけ………いたっ!」

最後まで言う前に煉のチョップがシンディの頭に振り降ろされる。

「何するのよ!?退学にするわよ!?」

「あんたは馬鹿か!!突然変異って言葉をしらんのか!!この馬鹿!本当に馬鹿!マジで馬鹿!もっかい言うぞ、馬鹿!」

「馬鹿馬鹿言い過ぎよ!」 煉の馬鹿ラッシュに流石にシンディもキレる。

「だいたい何よ!?突然変異って!?」

「通常とは違う特性を持つ亜種のことだ。今回のグールで説明するなら数ヶ月前に倒したグールが何らかの条件を満たし突然変異を起こした。夜に活動するはずのグールが昼に動いてたり群れを作ってたりしてんのはそのせいだよ」

煉の分かりやすい説明にシンディはおぉ~と呑気な声をあげている。

「じゃあ今回のこの騒動はそのグールから……?」

「そーゆーことだ」

シンディがあちゃ~という感じで頭を押さえてると

「理事長っ!!もう5分もかからないうちにグールが校門に到達します!!このままだと生徒達が!!」

「えっ!?もう5分経っちゃったの!?ヤバい!!」

なんて感じの2人を見ていた煉が、

「ばあさん、ようするにあいつらを学校に入れなきゃいいんだろ?」

「えっ?ええ…」

「久々に実戦ができるいい機会だ。50だっけ?俺がぜんぶもらうから」

そう言うと煉は先程バーンズが開けた穴に手と足を掛ける。

「すぐ終わるからよ」

タッ! 煉は高さ100mはある時計塔からいきおいよく飛んだ。

「あっ」「なっ!?」

軽い感じで言ったシンディに対し、男性は目を見開いていた。

急いで穴から身を乗りだし下を見るが当然姿は見えなかった。

「り、理事長…彼が…」

震える指で下を指す。

「まあ大丈夫でしょ。あたし逹も行きましょ」

別に心配してない声でシンディは廊下に出ていった。理事長室に取り残された男性は、

「大丈夫な訳………?」

一人顔をひきつらせていた。

~~~~~~~~~~~


時は同じく校門前らへん

数人のエレメント逹がグールの群れに攻撃を加えて激しい攻防を繰り広げていた。

「おいっ!!このままだと突破されるぞ!?もっと人間はいないのか!?」

先頭で戦っている一人の厳つい男性が荒い口調で回りを見る。

「これで限界です!!あといるとなれば特進の生徒だけかと……」

近くにいた若い女性が答えると、

「生徒を巻き込めるかアホ!!いくらあっちが強かろうが生徒を危険にさらせるか!!」容赦なく怒鳴りつける。ひいっ!!と短く悲鳴をあげていると、いつのまにか現れたグールが今まさに鋭い爪を振り降ろそうとしていた。

「きゃあ!!」もうだめだ。諦めて目をつむる。

しかしグールの爪がいつまでも自分の体にあたらないので、不自然に思い、目を開ける。そこには、

「ふぃー、まにあった」

どこからともなく現れた赤髪の少年がグールの爪を片腕で受け止めていた。

「大丈夫そうだな。早くここらの人間全員どかせてくれ。怪我したくなかったらな」そう言ってグールの爪をしっかり掴むと、

「そーらっ!!」

ぐるぐる回してグールが密集しているところへ投げ飛ばす。投げられたグールはボーリングのように回りのグールをなぎ倒しながら飛んで行った。

それに気づいた回りのグールが一斉に煉の方へ集中する。あっという間に囲まれた煉は余裕の表情で回りを見る。

「久々の実戦だ。かかってこいよ。まとめて叩き潰してやるからな!!」

左の手のひらで右拳を包み、骨をバキバキいわせながら50のグールに啖呵をきる。それが合図となったのか、グールが一斉に煉に飛びかかる。いくら先程のような化物じみた力をもった煉でも50を越える化物に一斉に襲いかかられれば無事ではすまない。誰もがそう思い思わず目を伏せる。

が、突然グールの群れが吹き飛ばされた。一体何が起こったか分からなかったが、答えはグールの体に刻まれていた。燃えていたのだ。グールの体は深紅の炎に包まれてその身を焼かれていた。

「使うのは久しぶりだから火加減しそこねちまったな。ま、てめえらに加減はいらねーからいいけど」

先程と変わらない調子で喋っている煉は明らかに変わっていた。

羽衣のように全身に纏った炎。まるで意思をもったかのように動く炎は近づくだけで体が焼けそうな超高温だった。なかでも右腕には炎が集中していた。

「今のでだいたい10は片付いたかな?この調子でさっさと片付けるか!」

そう言うと煉は自分の両足に炎を集中させて、

ヒュンッ!! まるで消えたかのような高速でグールの群れに突っ込む。

瞬間、一体のグールが宙を舞っていた。そしてすぐ別のグールが宙を舞う。それが繰り返されていき数十のグールが宙に打ち上げられていた。そこでやっと確認できた煉は今度は大きく跳躍してグールの上に行く。そして何もない宙を思いっきり蹴る。すると煉は宙で加速しグールに炎を纏った拳を叩きこむ。さらに宙を蹴り、もう一体に炎撃を、やがて煉は宙で跳ねるスーパーボールのように打ち上げられてグールを打ちのめしていった。

燃えて肉片になったグールは雨のように地上に降り注いだ。煉も少し遅れて地上に降り立つ。

「体も大分思いだしたから、そろそろ決めさせてもらうか」

煉は両拳を地面に叩きつける。すると回りの地表を貫き、いくつもの火柱が立ち上がる。煉は両腕を真っ直ぐ天に伸ばす。すると火柱が煉の両腕に集中しやがて1つの巨大な炎球を作り出した。

「燃え尽きろ!!《火爆炮》!!」

煉から放たれた巨大な炎の砲撃が残りのグールどもを焼き尽くす。破片も残さずに全て焼き尽くした。

「ふ~っ、まずまず」

煉はそう言って、エレメントを解除、炎を消した。

「煉~?」その瞬間に聞こえたシンディの声。

煉は振り返る。

「力は鈍ってないみたいね?安心したわ」

「まあな、あれからも鍛えてたし。全部焼いたから大丈夫だろ。たっく、転校早々大変だ……どふっ!!」

突然背中に衝撃。煉はすなおに飛ばされ地面に盛大にダイブする。

「痛えなコノヤロー!!」

速攻で立ち上がり後ろを見ると、

「煉~~~?」

般若のごとき表情のリオが腕を組んで立っていた。

その後ろには3人の男と1人の女がいた。

「何だよ、リオか。いきなり何しやがガガフッ!?」

抗議の声を聞かずにリオのストレートパンチが煉の顔面に直撃する。

ちょうど鼻に当たったのか少し鼻血を垂らしている。

「あんたは校則を知らないわけ!?学園内ではエレメントの第二解放は禁止されてるの!!転校早々校則を破るな!!」

その転校早々の煉に対して校則を知らないわけと言われても当然知るわけないのである。

「校則なんて知るわけねーだろ!!こっちは転校初日なんだよ!!あとあんな雑魚に第二解放を使うか!!通常解放で事足りるわ!!」

「嘘つくな!!あんな馬鹿でかい力が第二解放じゃないわけないでしょ!!」

「それがあっちゃうのよね~?」ヒートアップする煉とリオの間にシンディが割って入った。

「理事長?あっちゃうって……どういうことなんですか?」リオはシンディの言葉の意味が分からなかったのか、質問するリオ。

「そのままの意味よ。煉にとってはあれが通常解放なのよ。まあ驚くのも無理は無いわね。」

リオは信じられないといった表情で煉を見ていた。

通常解放や第二解放といったものは、エレメントをもつ者が体内のリミッターを外し、力を引き出すこと。通常解放はリミッターを1つ外すことで発動できる。身体能力の劇的強化、エレメントの威力の上昇といった感じになる。

第二解放は通常解放の倍の力を引きだせるが、身体にかかる負荷が大きい為学園では禁止されていることになっている。

「そんなに疑わなくて大丈夫よ。というよりあたしが鍛えたからあれくらい当然よ?」

「理事長が、煉を…?」

「ええ、だからあれが当然。だけど少し無駄があるからまた鍛えないとね?」

シンディのその一言で煉が凍りつく。

「へ?…………煉?」

煉の様子がおかしいのに気づいたリオが煉の肩を叩く。が、反応がない。

顔色が青を通り越して緑色になっている。

「ちょっと!?あんた大丈夫!?ちょっと!!返事しなさいよバカ!!」

リオの容赦ない往復ビンタが煉の頬を打つ。

パンパンパンパンパン!!

高速テンポで叩かれた煉はやっと我にかえる。

「あんたビビりすぎよ?そんなに厳しくした覚えはないのに」

シンディが不満そうに頬を膨らませ煉を睨む。「ふざけんなよ!!あれのどこが厳しくねーんだよ!?俺があれで何回死にかけたかわすれたか!?」

よほど忌まわしい記憶なのか煉の怒濤のツッコミが炸裂する。

「いいじゃん。そのおかげで今の力があんだから。文句言ってると、レベル上げるわよ?」

「わかったからそれだけは止めろ!!いやまじで!!」

煉のその表情を見てシンディは満足そうに笑って去っていった。

「あんたも大変だったのね?」

リオが落胆のオーラをガンガン出してる煉の肩をかるく叩く。

「あの修行をうけたら……ほんと死ぬから」「どんな修行なの?」

好奇心旺盛に聞くリオに対して煉は口を重そうに開いた。

素手で猛獣と戦わされたり、ひたすらエレメントの実戦をやらされたり、巨大なドラゴンとガチでやらされたり等そのたもろもろ。

よほどトラウマだったのか、話終えた煉の顔は真っ白だった。

壮絶な修行内容を聞いたリオと後ろの同級生達も若干青ざめていた。

「ところで今頃だが、その後ろの奴らは?」

煉の言葉を聞いてやっと触れてくれたとその4人が口を開く。

「いやーやっとふれてくれたからよかったよ」

「まったくでござるな」

「まあまあいいじゃん」

「体調、大丈夫?」

4人一度に話し出すから煉は少し慌てて、

「まてまて。まずわ自己紹介を頼むわ」

「「「「○×△□☆◇◎●!!」」」」

「まてまてまて!!なんでそこも4人いっぺんに言っちゃった!?俺は聖徳太子じゃねーからわかんねーから!1人ずつたのむ」

そう言われて4人はじゃんけんを始める。

煉もまあいいかと見ていたが、

『あいこでショッ!ショ!ショ!ショ!ショ!………』

「何回あいこになってんだよ!?奇跡か!もう早い者勝ちでやってくれ」

「「「「○×△□☆◇◎●」」」」

「いい加減にしろおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

煉のシャウトが響き渡る。「何回やんなきゃいけねーだよこのくだり!?いちいちつっこむのもめんどいんだよ!!おいそこの金髪!お前からやってくれ」

煉が一番右端にいた金髪の少年を指差す。

身長は煉と同じくらい、目は明るい青色。黒シャツの上に白いフード付きの上着を袖を捲っており、下はダメージジーンズと編み上げシューズ。そして首にヘッドホンをかけていた。

「おっ!俺からいくなんて、見る目あるねお兄さん。俺はライズ・ブルーム。ライズでいいよ♪エレメントは雷と契約してるよ~。そして通称《学園のソーシャルネットワーク》!!しくよろ~」

と、お分かりの通り、チャラ男である。

「ああ、よろしくな」

軽く返してライズの隣の男に視線を移す。煉よりも身長が10cmほど高かった。

青色のオールバック、切れ長の黒い瞳。服装は黒いズボンとジャケット。ジャケットは前を開けており、中からはドクロの模様が描かれたTシャツを着ていた。ぱっとみかなりヤンキー野郎と思っていたが、彼の一言でイメージが一瞬で崩れ落ちた。

「お初目にかかるでござる!!」

「は………?」

煉は突然の侍口調に思わず自分がタイムスリップしたのかと思ってしまった。

「拙者、海上十蔵と申す者でござる。水と契約してるでござる。貴殿、赤堂煉殿と同じクラスでござる。ご迷惑をお掛けするかもしれないでござるが、何卒よろしくお願いするでござりまする!!」「あ~……なあリオ?」

「十蔵の喋り方は素よ」

聞くよりも早く答えられてしまった煉は、マジで?みたいな顔して次の男に目をやる。銀のウェーブがかかった髪と同じく、銀の瞳。男からみてもかなりのイケメンだった。普通にジャ●ーズでいけるレベルだった。灰色のパーカーと七分丈のズボンを着用していた。

「僕はウェド・エルトゥーガ。エレメントは氷。よろしくね赤堂君」

女だったら確実に落とせそうな笑顔を煉にむける。

「お、おう…」

かくいう煉はウェドのイケメンスマイル(煉命名)を受けてすこしたじろいだ。

「ちなみにウェドは天性の女たらしよ」

「え~、ひどいよリオちゃん。僕はただ綺麗な女性に挨拶してるだけだよ」

リオの付け加えにウェドが口を尖らせて抗議する。

そんなやりとりを無視して最後の人間に視線を移す。最後は女だった。

栗毛のショートヘアーとおなじ茶色の瞳。服装は鮮やかな桃色のワンピースといった格好。

「い、岩坂……美希…です。エレメントは……岩と契約してます。…よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」

煉が返事を返すと顔を赤くしてうつむいてしまった。頭から若干湯気が立ち上っている。

「美希は極度の恥ずかしがりやだからね」

リオが美希の頭をなでながら言う。

「へ~、しかし中々濃いメンバーだな?」

「よく言われる。いっつもこのメンバーだしさ?」

「そうでござるな」

ライズが答えて十蔵が同意する。

「でももうちょっと華がほしいよね~?」

「へえ?あたしと美希だけじゃ不満ってわけ?」

ウェドのたらし発言に対してリオが般若のごとき視線を放つとウェドはすぐさま口をふさいだ。

「ウェド君……スケベ」

「ぐっ!?」

美希の鋭い一言でウェドがゆっくりと地面に倒れこんだ。

少しくらい望んだっていいじゃないか、とウェドが地面を叩きながら連呼した。「大丈夫だウェド!!男ならそれくらい思って当然だから!!」

「そうでござる!!きっと煉殿もそう思ってるに違いないでござる!!」

「おーい、いつの間に俺をいれてんだー?」

ライズと十蔵に煉の抗議の声が入るが2人は無視して続ける。

「きっと煉殿なら更に10人はおなごを加えてハーレムを作る気満々でござあべしっ!!」

十蔵は最後まで言えずに煉の飛び蹴りを後頭部くらってしまった。

「生憎そんな趣味はねーよ!!」

頭から煙を出しながらダウンした十蔵に煉のツッコミが炸裂する。

「十蔵君……スケベ」

更に美希の追い討ちが十蔵にあびせられた。

「まあどうでもいいけど、そろそろ教室行かない?この騒動に乗じて出てきたけどさ、煉が案外早く片付けちゃったからさ。そろそろ戻らないとベニーちゃんが怒ってるかもよ?」

ライズが全員に言った。

「まあね~。あたし達がいないことくらいばれてるかもね~」

「うーん、ベニー殿のお叱りは大変でござるなあ」

「同じく。どうしよっかな~?」

「とりあえず…行ったほうがいいよね…?」

ライズ、リオ、十蔵、ウェド、美希がそれぞれで何か面倒くさそうな顔をしていた。

「何だおめーら?ベニー先生がそんな怖いのか?」

煉が不思議そうに言う。

「いやいや、あの体格から怒られても怖くないよ」

ライズが即座に否定する。他の4人も同様にうなずいていた。

「じゃあ何があんだ?」

「ベニー先生はさ、身長も小さいけど精神面でも多少子供じみたところがあってさ、何かあるとすぐ泣いちゃうのよね。だからそれをあやすのが大変で…」

説明するリオの言葉にはかなり重さがあった。

「確認だが、ベニー先生は何歳なんだ?」

「25歳だよ。あ、2日前に誕生日だったから26歳だね。ちなみに好きな食べ物はカルシウム豊富な物。身長は135cm。体重はっておわわわわ!?」

女性のトップシークレットを言おうとしたライズの体は突如地面を突き破って現れた植物の蔦に縛られて宙吊り状態にされた。

「それ以上言ったら評価点さげますよ~?」

声のほうを見ると、笑顔だが、あきらかに怒ってるベニーがそこにいた。

「へえ、先生はグリーンエレメントですか。いい腕してますね?」

煉は宙吊り状態のライズよりベニーのエレメントに興味をひかれた。

「はい、ありがとうございます!!赤堂君もフレイムエレメントの使い方、素晴らしいです!5段階中5点ですよ!」

「あはは、どうもです。でもいつの間に?」

煉はベニーがエレメントを使うまで気配を感じなかったのだ。なので突然現れたベニーの存在に煉は素直に驚く。

「ライズ君が一番の秘密を暴露しようとした瞬間ですよ」

つまりあの短時間でここまで来たことになる。

「でもまったく!!ライズ君は人の秘密をばらしすぎですよ?いくら《学園のソーシャルネットワーク》と呼ばれてるからって、駄目ですよ!?」

「でもさ~、俺情報屋だし。せっかく集めた情報なら持っとくだけじゃなくて教えたほうが面白いじゃん♪ね?ベニーちゃん」

縛られてるライズはまるで反省していない。

「まったく、ライズ君は。あとベニーちゃんと呼ぶんじゃありません!!」

「ちょ……ベニ……ギブギブ……」

ライズの首を蔦がギリギリと締め付けている。

顔がだんだん白くなっていくライズを見て回りも多少慌てだす。

「先生!ライズが死にかけてますって!」

「落ち着くでござるベニー殿!!」

「ちょっと!?ライズ!?おーい!!意識なくね!?」

「自業…自得…だけどそろそろ…危ないですよ?」

「たく、落ち着けおめーら。あらよっと!」

『ブチッ!!』

ライズの首を絞めていた蔦を煉が軽く引きちぎる。

その他の体を縛っていた蔦も同様に引きちぎる。

「先生~?手加減しないと死にますよ?こいつ」

煉が半分死体化したライズを肩に担ぎ上げながらベニーに言う。

「手加減は当然しますよ。あと10秒絞めたら放すつもりでしたし。でも、素手で引きちぎるなんて、すごい力ですね~?エレメント無しでグールを投げ飛ばしたのも納得です」

「まあ、ばあさんの教えで『素敵でドラゴン倒せるくらいに鍛えろ』って言われて、あの地獄が始まりましたからね…」

そう話してる煉の顔がまた青くなりだした。

「あー!!そうだベニー先生?そろそろクラスに戻りませんかー?みんなー心配してると思いますよー?」

煉の状態を察したリオが棒読み全開でベニーに提案する。

「それもそうですね。では戻りましょうか。と言っても、この騒動のせいで今日の授業は中止ですけどね。HRだけして、あとは各自寮待機ですね」

「寮?俺は何も聞いてないすけど?」

煉が疑問そうに言うと、

「大丈夫ですよ。学生寮はコネクトサークルが鍵になっています。赤堂君は201号室ですよ。リオさん達についていけば分かりますから。あ、生活用具は全部揃ってますから」

「ご丁寧にどうもです。んじゃ、さっさとHRを済ませて寮に行かせてもらうとするか」

そう言いながら煉達は2年5組に上がって行った。

その後、教室では煉への質問攻めがあったが色々あった為、翌日に延期となったとさ。


~~~~~~~~~~~


そんなこんなでHRを終えた煉、リオ、ライズ、十蔵、ウェド、美希の6人は学生寮エル・クレセリアに到着した。中世的な外観の5階建ての建造物がいくつも並んでおり、全ての生徒がここで一人暮らしをしている。

「へえ、豪華だな」

「ほら、入るわよ」

驚く煉をリオが先導しながらエル・クレセリアに入っていく。

最初に目に入ったロビーからはいくつも階段が設置されており階段の横に部屋番号が書かれてある表札が掲げられていた。

「こっちだから」

リオが煉を手招きして呼び寄せる。

煉がリオのところまで行くと、そこが201だった。

「はい、あんたの部屋。そこに機械があるから、エレメントサークルをかざせば開くから」

リオの説明通りに機械に右手の甲に刻まれたエレメントサークルをかざす。

すると一瞬光り、部屋の鍵が開く音がした。

「お邪魔しま~す」

「いや、あんたの部屋だから」

部屋の中は外観と違い、近代的な造りとなっていた。リビング、キッチン、寝室、トイレ、風呂など全てが揃っており更にテレビなども設置されていた。

「ほえ~、これ家賃五万とっても問題ないな?」

「ま、あたしの案内はここまでね。あとは自分で暮らすだけだから。あと明日は8時半に学園に来なさいよ?」

「オーケー。了解した」

煉はリオの方を見ず、部屋を確認しながら、かるく手を振る。

「あ、言い忘れてた」

と突然リオが口を開く。

「あ~、どうした?」

煉が確認を中断してやっとリオの方を見る。

「あらためて、あんたと同じクラスになる、リオ・ハーマスよ。ま、よろしくね!」

突然の自己紹介に煉は少し戸惑いつつ、

「じゃ俺も。明日から世話になる、赤堂煉だ。よろしくな」

煉とリオはお互いにかるく握手した。

「そういうことで、じゃーねー」

リオはバタバタと煉の部屋を出ていった。

一人になった煉はとりあえず、今日一日の疲れを取るように寝室のベッドに倒れこんだ。

「今日だけで色々あったけど…退屈しねーな」

どこか楽しそうに、煉は笑う。

「明日から楽しむのもいいけど、あの野郎のことも調べねーとな……兄貴、絶対助けるからな」

煉は自分がやるべきことを改めて胸に刻む。

「それまで、今を楽しむかな」

煉はそう言って、眠りについた。

明日から始まる、騒がしい日常に気づくはずなく。

いかがでしたでしょうか?また少ししたら二話目を投稿しようと思っています。

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