暗闇に巣食う恐怖と光への安堵
家に着いたが、俺は恐怖を感じていた。
背中のあたりが寒い。
手や顔、足は暖かい。
しかし、なぜか背中だけは寒いのだ。
俺は何もしていない。悪いことなんかしていない。
なのに......なぜ......
俺は自室へと急ぎ、布団に潜った。
しかし、眠気というものは不思議でいくら恐怖を感じようと怯えていようと、襲ってくるものだ。俺は深い眠りへと落ちて行った......
翌朝はすばらしく目覚めが良かった。
居間に行きテレビをつけると、気になるニュースがあった。
『夢は現実になる可能性がある。大学の研究で発見。』
俺はこの前みたあの夢のことが気になりこのニュースに釘付けになった。
大学で夢について調べていた教授が見つけたらしい。しかし、100%というわけではなく正夢と言われるものが、現実になりやすいというわけだった。当たり前のことではないか、と思ったがそうでもないらしい。
人間が正夢だと思って見た夢が現実になるのは、脳がそのように働きかけているからだそうだ。
しかし、例外もあり何度も同じ夢を見たり、前の晩の夢の続きを見たりすることが多いと、現実になりえることがあるらしい。
実際、この教授も車で事故を起こしてしまう夢を何度も見たらしく、電車で通い始めて一週間経った頃、その教授のいつも使っている道でしかもそこをちょうど通る時間に事故が起きたらしい。トラックが横転して大事故になったらしいが、幸い死人はでなかったようだ。
ようするに、夢というものは侮ってはいけないようなのだ。
俺の夢も、現実になりえるものなのだろうか?
わからない......
俺はテレビを消してソファに寝転んだ。
休日の昼間だと言うのに、俺は何に恐れ慄いているのだろうか。
自分が愚かすぎて、笑いがでてしまう。
どうしたら......どうすればいいんだろう。
こんなことで悩んでもしょうがない気がするのだが、さすがに続けてあの夢を見てしまうと、そうも言ってられない。
しかし、そんな毎日気を落としていても自分が不甲斐ない。
あまり気にしないでおこう、そう俺は誓ったのだ。
いつの間に寝ていたのだろうか。窓からはオレンジの光が射していた。
ソファで寝てしまっていた。すこし首のあたりが痛い。
起き上がり、夕飯の準備をしようと冷蔵庫を確認すると、中身はほとんど空っぽの状態だった。
「これじゃあ、夕飯は用意できないな......」
買い物に行くか悩んでいると、ピンポーン、と家のチャイムが鳴った。玄関に行くとそこには小春がいた。
「どうした?」
「あの、あっちゃんがこの前体調悪かったから、大丈夫かなっと思って。」
「わざわざ、悪いな。今は大丈夫だよ。」
「よかったー。で、お夕飯はもう作ってる?」
「いや、それがさぁ、材料切らしてて買いに行こうか悩んでたんだよ。」
「それならちょうどよかった。うちで作ったおかずが余ったから、あっちゃんにあげようと思って持ってきたの。」
「まじか!悪いなぁ。んじゃ、上がってくれ。」
「はーい。おじゃましまーす。」
小春は家に入ってくるなり、家の中をぐるん、と一周見渡した。
「やっぱり、お部屋は綺麗だね。」
「まぁな。毎日の掃除は欠かせられないからな。」
家に一人でいる以上、家事をしないわけにはいかない。
当たり前のことを当たり前にやっているだけだ。
「じゃあ、ご飯用意しちゃうから座ってて。」
「俺も手伝うからいいよ。」
小春と共に夕飯作りを始めた。
と言っても、小春が持ってきたおかずを温めるだけだった。
お皿を準備して、盛り付けた。
とても美味しそうだ。小春は料理が上手だ。母親譲りなのだろう。
「よし、準備はできたな。小春、飯食べてけよ。」
「えっ!?」
「そんな驚かなくても......だめか?」
「いやっ、ダメじゃ......ないよ......」
「じゃあいいだろ。ほら、座った座った。」
「うっ、うん。」
「じゃあ、いただきまーす!」
「いっ、いただきまーす。」
「ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様でした。」
やはり美味かった。
味付けも完璧だし、申し分がない。
「もう遅くなっちまったな。送ろうか?」
「ううん、大丈夫。一人で帰れるから。」
「ダメだ。危ないし。送ってくからな。」
小春と共に家を出る。
外は月の光で淡く照らされている。
「ほんとにごめんね。」
「いいってば。別に。気にすんなよ。夜道に一人は危ないからな。」
二人は無言のまま歩いている。
月の光は小春を照らしている。その反射した光が輝を照らしていた。
どこかの演劇のようだ。
まるで、二人は......
「ここまででいいよ。もう家はすぐそこだし。」
「そうか。悪いな、付き合わせちまって。」
「いいの。一緒にご飯食べるの久しぶりだったり。」
「そうだな。また時間あったら食べような?」
「うん。じゃあ、また明日学校でね。」
「おう、じゃあな。」
小春が家にはいるのを確認し俺は帰ることにした。
しかし......
ヒタッ......ヒタッ......
「......!」
後ろに......何かがいる。
しかし、気にしてはダメだ。気にしては......
ヒタッ......ヒタッ......
さっきより近くで聞こえる。
俺は恐怖に駆られ、走った。
それでも、
ヒタッ......ヒタッ......
と追いかけてくる。
なぜだ......なぜ俺なんだ。
家が見えてホッ、としたのも束の間。
トンッ、と肩をたたかれた。
......冷たい......
後ろを振り返ってはいけない。
俺は立ち止まった。
......振り向くか?
輝は考えていた。今、後ろを振り返ったらどうなるのかを......