悲しみの涙
「しっかし、なぜあんな誘いを受けちまったんだろう......」
普通なら断るだろうが、
なぜかあの時に断わってはいけないような気がした。
なんというのだろうか、そんな雰囲気を醸し出していたのかもしれないな、彼女は。
「お、お待たせしました。」
「いや、今来た所だから。大丈夫だよ。」
「それならよかったです。」
「時に、聞きたいのだがよろしいかな?」
「はい、なんでしょうか。」
「なぜ、俺を今日誘ったんだい?俺は君のことを知らないし......」
「私のことを......知らないですか......あっちゃんは、私のことが分からないのですね。」
「あっちゃん......?」
とても、懐かしい気がした。
そんな呼び方をするのは......
「まっ、まさか!?小春......なのか......!?」
彼女は少し笑っていた。
笑っている、というより嬉しくてはにかんでいるように思えた。
「そうです、覚えていてくれましたか。忘れさられていたら、どうしようかと思っていました。」
「幼馴染だからな。」
「けど、全然気づかなかったじゃないですか。」
「そりゃぁ......」
俺が小学生の時............
「小春ちゃん!小春ちゃん!今日は何して遊ぶのー!」
「じゃあ、今日はかくれぼしようねー。」
俺は小春、桜庭小春とは小さい時からの付き合いだった。
家も近いことがあって、よく遊んでいたものだ。
しかし、中学に上がってから数ヶ月......小春がいきなりいなくなってしまった。
俺は気になり小春の家に行ったが、そこには両親の姿もなく閑散とした雰囲気を小春の家は醸し出していた。
それから三年経ち、今ここに小春を目の当たりにしているのだ。
「お前が......いきなりいなくなるから......」
「ごめん......私も色々あったからさ......」
「いいよ、もういいんだ。そんな昔のことは。今はもう、小春がいる。それでいいんだ。」
「あっちゃん......」
ふいに、小春の眼から涙が溢れてきた。
「おっ、おい。泣くなよ。」
「うっ......うん......。」
ふいに抱きしめたい衝動にかられたが、踏みとどまった。
俺は手を伸ばし、小春の頭を撫でた。
優しく、子供をあやすように......
すると、小春の眼から溢れんとばかりの涙が流れてくる
俺は、小春が泣き止むまでずっと頭を撫でていた。
陽が暮れ始めた頃、俺たちは家路に着こうとしていた。
「ごっ、ごめんね......泣きっぱなしで......。」
「別にいいって。気にしないよ。」
泣き続けていた小春の眼は少し腫れていた。
「じゃぁ、私はこっちだから......今日は本当にごめんね。また、明日ね。」
「おう、また明日な。」
「あっ、あっちゃん。明日から......その......一緒に学校いかない?」
「ん?あぁ、別にいいよ。」
「うん!じゃあね!」
「おう、じゃあな。」
笑顔で手を振る小春を見つめ、俺は自宅へと足を動かした。
「はぁぁ......やっぱ、風呂はいいよなぁ。」
湯船に浸かりながらお風呂のありがたさを感じる。
体の芯からあったまっていく。
まだ、夏の暑さの残るが、風呂はまた格別である。
風呂から出て、飯の用意を始めた。
両親が長期遠征の為、俺は家でほとんど一人なのだ。
それで、たまに高崎の家に行ったりすることもある。
あいつがいなかったら、俺はあまり前向きに生きていけないだろう。
あいつのお陰で、自分が変われた気がするんだ......
俺は中学時代はあまり良い生徒ではなかった。
特に中学入りたての頃は、自分でもなんであんなことばかりしていたのか、わからない。
両親がいないから、孤独がストレスとなってしまったのかもしれない。
しかし、中学二年の時俺は高崎と出会った。
そのときから俺は、一人でいることが多かった。みんなも俺のやっていたことは知っている。誰も近づこうとしてこなかった。
だから、俺も近づかなかった。
しかし、高崎は違った。あいつは、俺がやったことをまるで気にせずに話しかけてきたのだ。
俺は、最初は適当にあしらって高崎を気にしていなかった。
しかし、ついに俺も根負けをして高崎とは仲良くするようになった。
高崎と仲良くするようになってからは、俺も自然と角が丸くなり皆と自然に話すようになっていった。
「高崎......」
そう呟くと、携帯がなった。
みると、高崎からのメールだった。
ったく、噂をすればなんとやら、ってわけか。
「輝、さみしくねぇか?なーんて、いつものことか。お前の両親がいなくたって、俺がいるからさ。心配すんな。なにかあったら、俺のとこに来い。父さんもお前のこと気に入ってるみたいだし。遠慮せずにこいよ。あっ、あと明日なんだけどちょっとうちに寄ってってくれないか?少し用があるんだ。じゃあ、また明日な。」
ふっ......ほんと、いい奴だなお前は。
それより、用ってなんだ?
なんか、忘れ物でもしたかな?
まぁいい、明日行けばわかることか。
俺は、自分の部屋に行きベットに寝ることにした。
窓からは月の光が射している。淡い光の中、俺は......
「ん......」
目が覚めた。
「ここは......」
この前の夢で見た屋敷だった。
「一体なんなんだ......夢の割には随分ハッキリしてるな。」
辺りを見渡すが、これといったものはない。
ガチャ、と扉が開く音がした。
扉の方を見ると、女の人が立っていた。
またか............
俺は目をつむった。
しかし、その女が近づくことはなく俯いたまま何かをぶつぶつ言っているだけだった。
何をいっているか気になるが、俺の本能が近づいてはいけないと言っている。
何だ......何を言っているんだ......
俺はその場で立ち尽くすことしか出来なかった......
「はっ......!?」
俺はベットから上半身をあげた。
目覚めが悪い。
頭が痛い。あの夢の所為なのか。
あの女が頭から離れない。
しかし、恐怖という中にも少しだけ懐かしいという感じがしたのも間違いではない。
一体、誰だというのか......
俺は、急いで支度をすることにした。