[七]
車を走らせていると
山道で・・・
『ここ道悪いな〜』
海がそう言った
確かに・・・さっきから
何度も車が跳ねる
『大丈夫か?運転代わろうか?』
『大丈夫よ!』
と応えたとき・・・・
大きな音がして・・・・
『なんだ?』
なにかが燃えたような匂い・・・
『焦げ臭くないか???』
ハンドルがとられる〜・・・・・
『車止めたほうが・・・』
減速・・・・・
車が止まると前輪のタイヤがバーストしていて・・・
私はトランクを開けて
『俺がやるよ』
『いいから!私がやるから!』
ジャッキと工具とスペアータイヤを
下ろすと
ジャッキを手に取り・・
わぁ・・・道がガタガタしてて
うまくジャッキがかみ合わない!
私の手元を心配そうに覗き込んでいる海に
『大丈夫よ!』
そっけなくそう言うと
私はなんとかジャッキを固定させて
車を上げる
前輪のタイヤを外してスペアータイヤを・・・
『ちょっと待て!この車、前輪駆動だよな?』
『そうよ』
海は頭をかくと
『やっぱり俺やるから』
『いいわよ』
『いいから見てろよ!な!』
海はニカッと笑うと
『ここから・・ガソリンスタンドまでどのくらいかかるか
わからないから・・・こういう時は後ろのタイヤ外して、
前につけてやって、後ろにスペアーつけてやらないとダメ
なんだ・・・』
手際よくタイヤを交換していく・・・
『俺、ガソリンスタンドでバイトしてたし、車とかいじるの
好きだから・・・こういうのは任せろな!』
私は静かに海のその様子を眺めていた
『よし!終わった!じゃあ、俺運転していくから』
私が何か言おうとすると・・
『菜生はずっと運転してきたからそろそろ交換しても
いいだろ?それに・・・』
『何かする気なら、タイヤ交換そっちのけでもうしてるから、
安心しろ!』
私の頭に、ぽんと触れると
『じゃあ!行くか!』
海が運転席に乗り込むのを見て
私も助手席に静かに乗りこんだ
ガソリンスタンドはそこから
20キロ程先にあって
それまで海が運転してくれたんだけど・・・
車は私が運転していたときよりも揺れがあまりなくて
『山道には山道の運転の仕方があるから・・』
そんな海の言葉になんとなく納得していた
ガソリンスタンドで缶コーヒーを飲みながら
タイヤが交換されるのを待つ・・・
時間・・間に合うかな・・・・
『そういえば・・・』
海が話し始めた
『写真とか詩の話、沙織から聞いたぞ』
なんか言われるかな・・・私がそう思ってると・・・
『なんかそういうのいいよな〜』
思いもかけない言葉が海から帰ってきた
『おかしいとか、ヘンだとか思わないの?』
私のそんな言葉に
『思わないな。俺もその夢、そいつが見せてくれてるような気が
するしな。ただ・・・・』
『・・・ちょっとばかり妬けるけどな!』
私が思わず笑うと
『よし!決めたぞ!俺!映画監督になる!』
そういって大きく伸びをしながら立ち上がる
『・・・・え・・・?』
わたしはあまりの唐突さに・・・
って!!!!
『そんな簡単に人生決めるんじゃないの!』
と慌てて声をかける
海は振り返らず
『人生なんて結構簡単なものだと思うぜ・・・』
そのまま・・・・
『難しくする必要もないし、本人が幸せだと思う方向に
行けばいいんじゃないのか?』
『でも・・・・』
『俺は今そうするのが一番俺が幸せだからそうしたいだけだよ!』
海は缶コーヒーを飲み干すと・・・
『俺は俺のために生きてるんだからいいんだよ!』
缶を捨てて・・・
『じゃあ!そろそろ行くか!』
海は振りかえりニカッと笑っていた
私は海の後を追うように車に乗り込むと
『でも!もっと物事考えたほうが・・・』
と口に出ていた・・・
海は明るい口調で
『物事考えたって、うまく動くなんて稀だろ?なら・・・・』
前を見据えたまま
『物事いろいろ考えてうまく動かそうとするより・・・・』
『自分を信じてやった方がいいと俺は思うけどな!』
私はなんだか・・・・・その・・・・
海の圧倒的な力強さに
何も言い返せなくなってしまった
この人は・・・・どんな人なんだろう・・・
いろいろな顔を持つ人・・・・
でも・・・・・
そんなことを繰り返し考えていた・・・・
なんだろうこの感覚・・・・
ふいに視界が開ける・・・
山の中を抜け・・・・・・・
目の前に大草原が広がっていて・・・
『・・・・わぁ・・・・・』
思わず声が出る
想像していたものより
雄大なその景色
息を呑む。。。。
あと少しで・・・・あの景色がやってくる・・・・
祈るような気持ちで下弦の月を見つめる
『朝焼け見えるといいな』
海のそんな言葉に私は振り返らず頷く・・・・
もう少し
もう少し・・・・
静かすぎる空間に
私と海は声を出すのもためらう・・・・
もう少し
もう少し・・・・
キーンと耳が痛くなるほどの静けさ・・・・
あと少し・・・・・
鳥の・・・・
朝を
待ち焦がれる
鳥の声がして・・・・・
静かに朝焼けが空を染めあげはじめる・・・・
来た・・・この瞬間が来た。。。。。。
一眼レフを構えて
夢中でシャッターを
切る・・・・
呼吸音とシャッターの音だけの世界・・・
小気味いいリズム・・・
風が吹き上がる・・・
草原がゆっくりと
大きく
動く・・・
夢で見たものとはどうしても違う・・・違ってしまうけれど・・
それでも・・陸が伝えてくれた世界がここには広がってる。。。
陸。。。。。。。
一緒に見た景色だよ。。。。。
一緒に今・・・形にしてるよ。。。
陸。。。。。。。
陸も見てるよね。。。。
一緒にこの景色
見えてるよね。。。。。
陸。。。。。。。
陸。。。。
陸。。
私は一通り
撮り終えると
私はやっと・・・海の存在を思い出した
海は・・・・ん????
写真撮ってるけど・・・あれって????
『カメラもって来たって・・・使い捨てカメラ????』
海はちょっと変な顔をして・・・
『・・ん???悪いか???』
そう答えた
その顔がおかしくて
思わず一枚パシャリ☆
『とるなよ〜!』
そういいながら海は困ったように笑っていて・・・
私はそれが面白くてたまらなくて
何度もシャッターを切っていた。。。
[八]へ続く