[十]
大学の文化祭当日。。。。
これから・・・映画が上映される。。。。。
暗幕のひかれた薄暗い部屋の中・・・・
私は一番後ろの列の席に腰掛けると、白いスクリーンを
ただ・・・・
みつめていた。。。。。
これから映画が上映される・・・・・
こんな形で夢が現実になるなんて
思いもしなかった。。。。
夢が形になるなんて・・・・・
『よッ!整理券完売したらしいな!』
海が声をかけてきた・・・そして隣の席に座り込む
『ん?あぁ。そうらしいね。』
わたしが静かに応える
『・・・・どうかしたか?』
『ん?なんでもない・・・ただ・・いろんなこと思い出してた』
わたしは
いろんなことを
思い出していた・・・
漠然とした思い出・・・・
そんなものが・・・・
とりとめもなく
心の中を
ゆき過ぎていく・・・・
その一つ一つを
ぼんやりと・・・・・・
取り押さえることもなく
ぼんやりと眺めていた。。。。。
映画が
もうすぐ・・・・
始まる・・・・・
部屋が暗くなる・・・・・・
音楽が聞こえる・・・・・
きれいなピアノの曲・・・・・
月明かりが差し込む窓辺にピアノが置いてある・・・
明るい月明かりの下ピアノを弾く男・・・・
その窓の外のベランダには
髪の長い女が・・・
サラサラと髪を風になびかせて、
男のピアノに耳を傾けている・・・
視線を合わさず・・女はただ月を見つめ
男は・・・ピアノの鍵盤を見つめている。。。。。
儚げなピアノの曲が終わると。。。。
女は月を見ながら泣いていた。。。。。
男は静かに立ち去ろうとする・・・・
女の後姿を見つめ・・・・
目を伏せる・・・
傍らの荷物を手に取り。。。
ドアへ向かう
静かに・・・・
ドアの・・・・開く音がしたとき・・・・・
女は振り返る・・・・
男の・・・
後ろ姿を見つめると・・・・
裸足のまま・・・
駆け寄る・・・
背中に・・・
しがみつく。。。。。
『・・・・やっぱりいや・・・お願い・・行かないで・・・』
男は振り返らず・・・
『ここにいて・・・・お願い・・・そばにいて・・』
幾度も女の瞳を涙が伝う・・・
『・・・ひとりでも平気なんて嘘・・・そんなに私は強くない・・』
『このままでは・・・息ができなくなる・・・私は・・・何も・・・できなくなる・・』
『・・・・・生きていく・・・・ことさえも・・・・』
男の荷物を握った手に力が込められる・・・・
男は振り返るとそのまま女を抱きしめる・・・・
ただ・・・抱きしめる・・・
女が少しずつ落ち着きだすと・・・・
『ちょっと待ってて・・・』
男は荷物から・・・楽譜を取り出し・・書き始める・・・
ペンを走らせる音しか聞こえない月明かりの部屋・・・
ただ
見つめる
女・・・・・・
男は書き上げると・・・
ピアノへ向かう・・・・・・
そして・・・・
静かなやさしい・・・ピアノの曲が
囁くように・・・流れ出す・・・・・・
何度も
何度も・・・
囁くように。。。。。
女の瞳から涙が溢れる。。。。
男も・・・・ピアノを弾きながら涙が伝う・・・・
そして・・・・
静かに引き終わる・・・・・
しばらく鍵盤に目を向けると・・・・
男は涙が乾くのを待って
女に視線を戻す・・・・・
荷物を手に取り
ゆっくりと
女に向かって
歩き出すと・・・・
楽譜を握らせる・・・・・
『この曲は僕の君に対する想いのすべてです』
『僕は・・たぶん・・あの国へ行ったら・・もうここへは
帰れないでしょう・・・』
『でも・・・僕は心の中で君への想いを・・・届かなくても・・
こんな風に・・形にしていきます・・・』
『悲しくなったり・・寂しくなったり・・・僕の君に対する想いを
疑ったときには・・この曲を聴いてください・・』
男は女を静かに抱きしめると・・・・
『僕はこの曲を何度でも弾きながら・・・』
『・・・・何度でも君を・・・想い続けていますから・・・・・・』
男の腕に力が入る。。。。。。
『だから・・・僕と君との思い出を悲しいものに変えないでください』
女の頬を涙が伝い続ける・・・
『僕は君に出会えたこと自体幸せなんだから。。。どうかすべてを
悲しみに変えないでください。。。。』
『・・・僕は君と出会えて・・・とっても幸せでしたよ・・・・』
夜風が大きく窓べのカーテンを揺らした。。。。。
第一話が終わり
第二話へ・・・
映画は流れていく・・・・・
[十一]へ続く・・・・
 




